ここは未来都市フロンティア 2
翌日、学校終わりに沙菜の通う中学校の近くで待機していた。
沙菜の動きをチェックして何をしているかを紗江に伝えるというもの。直接的な介入をしなくていい分見失わなければ結構楽なお願いでもあった。
紗江の心配が杞憂だろうと考えつつも、精神的なきっかけなしで本来もっていない能力を得るという、ほとんど聞かない事例に少なからず興味も持っていた。
「あの子だな」
コミュネクトで紗江からもらった写真で沙菜を確認した。
高校生が中学二年生の女子を追うという姿を客観視してみると、なんとも不気味だなと瀬那自身思いつつ、頼まれたからには最後までやり遂げるためなるべく自然を装って追いかけた。
姉の紗江と同様に、山吹色の髪をしており明るい性格をしていることがわかる。数人の友達とカフェにいったり買い物したりと、どこにでもいる普通の女子中学生だ。
学生通りで紛れながら追っていると女性から声をかけられた。その人物は以前飼い猫を見つけ出してほしいとお願いしてきた別の高校の大滝果乃であり、無事戻ってきたことを伝えるために瀬那を探していた。
「この前はありがとうございます!」
頭を下げると同時に柔らかなシャンプーの匂いがふわりと舞う。
「あぁ、いやいいんだ。でも、不良たちの溜まり場にいたからしつけておかないとまたどっかいっちゃうかもよ」
「ご心配なくっ。ちゃんとGPSとセンサー付きの首輪をつけたので!」
「センサーつけてると何か違うのか?」
「アプリで危険地域を選択して首輪に登録するとその場所に行ったときに猫が嫌がる音波みたいなのが出るみたいでそれで防げるんです」
「へぇ~、便利なもんがあるんだな」
ふと、通りを見ると沙菜の姿はいなくなっていた。
話している間に見失い行方が分からなくなってしまう。
「やべっ。ごめん話はまた今度ね」
焦って周りを探すが店をのぞいても不審がられるだけで沙菜は見つからず、気づけば徐々に日が落ち始めていた。
「まずいな。早々に見失ってからもう何時間たっただろうか」
すると、紗江から連絡が入った。
「今沙菜の近くいる?」
「いや、見失ってしまってさ」
「えっ、どうしよう。いま沙菜の近くにいるんだけど知らない男の人にシール? パッチ? みたいなものをもらってて」
「いますぐ行く! 場所を送信してくれ」
場所を確認するとそこは街はずれの海に近い倉庫だった。いくつもの倉庫が立ち並び商品を管理している。
注文が入るとその日に届けることができるがほとんどのものは街にもあるためここにあるのはほぼ在庫。調味料や家具、資材や機械のパーツなどが置いてある。
同じような倉庫がいくつもあるために紗江の位置がわかりづらかったがなんとか探し出し音を出さないように近づいた。
「び、びっくりさせないでよ」
「悪い、静かに近づいた方がいいと思って。沙菜はどこだ?」
「沙菜はもういなくなっちゃった。でも、そのあとも何人かここにきては男からシールをもらってる。なんだか素行が悪そうな人も来てたよ。それに話してる会話が物騒でさ」
沙菜がいなくなったあとも事の原因である可能性の男を一人で監視していた。暗くなり始めた中でも、一人でこの場に待機していた紗江の行動は妹のためであり、その姿をみた瀬那は楽観的になっていた自分に気合いを入れなおすことにした。
男の様子を伺っていると、やってきた人に現金と引き換えに能力を付与したシールを渡しているのが確認できた。渡す前に片方の面を人差し指で触れ、小さな光を発した後に手渡している。
一度だけ、渡す前に表情をゆがませ小さく言葉を漏らすと、そのシールをアスファルトへと捨てた。アスファルトにくっついたシールは一瞬だけ雷のような閃光を放つが拡散しすぐに消えてしまう。シール自体も完全に消えてなくなった。
そんな様子を見ていた瀬那は紗江に問いかけた。
「なぁ、お金持ってるか?」
「それなりに」
「あれ買ってきてくれないか?」
「えっ!?」
「ちょっと試したいことがある。俺もお金あるからこれで三枚買ってきてくれ。もしできたら一枚は能力をつけずにもらってきてほしい」
「でも、疑われたどうするの。ああいうのって紹介とかないとまずそうだし」
「妹の紹介でもらいに来たと言えばいいさ」
ほかの人がいなくなったあとに紗江は男の下へと向かった。声をかけると初めて見る人物だということでかなり疑われてしまうが、瀬那の言う通り妹の誘いということで話してみるとすぐに納得しシールと現金を交換した。
「あの、一枚は何もせずにもらっていいですか」
「どういうことだ。別にほしい能力があるのか」
「そんな感じです」
「だが、空の状態でも一枚分の料金はもらうぞ」
「はい、それで大丈夫です」
「これで君も力なき者から強者の仲間入りだ。力が支配する世界に反旗を翻すといい」
謎の言葉を言うと男は慣れた手つきでシールに能力をコピーして現金と交換した。
「これってなんていう名前なんですか?」
「正式名称はコピーシールってもんだ。まぁ、裏組織や裏のグループによって名前を変えてごまかしてるから伝わらないときもあるがな。一度使って興味が湧いてきたらもっと上等なやつを仕入れられるぞ。まぁ、副作用も強くなるけどな」
「か、考えておきます」
お金足りるのかと内心不安だったが、学生でも買えるほどの金額で安堵した。
戻ってきた紗江からシールをもらい確認すると、なんてことはない普通のシール。
表面には黒いバラのマークが書かれており裏をはがすことで粘着部分が露出し張ることができる。中に内側に小さな板のようなものが入っていること以外は普通のシール。
しかし、コピーされていないシールのみ赤いバラとなっている。
「一つ試したいことがある。この表面に能力を使いながら触ってほしい」
「大丈夫なんですかね」
「たぶんな」
紗江がすでにコピーされたシールの表面に視界錯誤の能力を使うと、瞬時に電気がゆがんで発生し消え去った。黒いバラから赤いバラへと変化したシールに傷はなく能力が外へ放出された。
「なんとなくわかったぞ。二つ以上の能力は一枚のシールにコピーはできないんだと思う。きっとこのシールの中身は空になった」
「どうしてわかるの」
「最初からコピーしてもらってないシールは赤いバラが描かれてある。コピーされたものは黒いバラ。そして、いま能力を重ねてコピーし、電気が放出されたこのシールは赤いバラになっている」
もう一度紗江に能力をコピーしてもらうと、ブーツの音がゆっくり近づいてくるのが聞こえた。
「紗江! 早く逃げるんだ!」
「え、でもまだなにもわかってないよ」
「今は身の安全を確保しろ! 妹のとこに戻って俺の連絡をまて!」
紗江が逃げて角を曲がって見えなくなった後、真後ろには男が立っていた。
「だめだなぁ~、ただ見てるだけのやつがこんなとこにいるのはいけないよなぁ~」
ゆっくりと振り返り男の表情を見ると笑ってはいるが友好的ではないの明らか。紗江がいたことは気づいていないが瀬那を始末するための目をしていた。
「君はグングニルか? いや、なんでもいい。買いもしない人間がこんなとこにいるのがおかしいんだ。どうするよ。金を払ってくれるなら見逃しても……いいや、だめだね。こそこそ動いているやつにまともなやつはいねぇ! ここで仕留める!!」
男は手に電気を溜めて拳を瀬那に向かって繰り出した。
「――ここは俺の距離だぜ」
男が電気を纏う拳を叩きつけるよりも速く、瀬那の蹴りが男の腹部を捉えた。高速の蹴りの衝撃は常人のそれを超えている。勢いよく吹き飛んだ男は地面に体が激突する前に電気を地面へと放出し勢いを止めて着地した。
瀬那は倉庫裏から男の方へとゆっくり歩き少し距離を開けて止まった。この広い範囲なら俊敏な動きをする自身のほうが有利に働くと判断したからだ。
「今の蹴りで分かっただろう。本気で撃ちこめば気絶させることだってできるはずだ」
「はぁ~。わかってないなぁ~。取引の様子を見てたってことは俺がどっち側の人間かわかるだろう。善行を積む人間はいざという時に判断が鈍る。だがな、悪行を行う人間ってのはブレーキがないんだ。だからよぉ、お前がどうなろうと知ったこっちゃねぇんだよ!!!」
電気を手のひらへと溜めると一気に放出。広範囲の電撃が襲う。
「うぐぁ!!」
「肉体強化系ってやつだろ。そんなちゃちな能力で俺を倒せると思うなよ。近づけなければお前の力なんて意味がないんだよ!!」
男は再び両手に電気を集めると片方に力を移し手のひらを瀬那へと向ける。もう片方の手でブレないように手首をつかみ放出するとさっきのような広範囲ではなくビームのように直線的な電撃が放たれた。
「うわゎぁぁぁ!!!」
電気が全身を駆け巡りながら大きく飛ばされてしまい体がアスファルトへとぶつかる。身体のダメージは深刻でこれ以上攻撃をくらい続ければ動けなくなり何もできなくなってしまう。
そこで瀬那は飛ばされた先にあった倉庫の扉を蹴破り中へと入っていく。
「逃げても無駄無駄。しかも倉庫なんて頭悪すぎでしょうよ。袋小路ってやつだ」
男は勝利を確信しつつ瀬那が逃げた倉庫へと向かった。
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