荒れ狂う炎の少女
夜の都市を猛スピードで駆けるものがいた。車より速く駆けるそれは人間でありヴィジョン所持者。そう、それは瀬那だった。
研究エリアへと続く人気ない橋の上で瀬那が休憩していると、そこへ腕章をつけた一人の少女がやってきた。赤い髪を揺らし瀬那へと近づく。
「あんたこんなとこで何してんのよ」
「うわっ! びっくりした。可憐かよ。そっちこそ何してんだ」
「私は調査のために来てるのよ。あんた、この時間いろんなとこ走り回ってるんでしょ。噂になってるわ」
「俺のヴィジョンの特性上こういう時間しか練習できないんだよ」
学校のグラウンドや体育館では、部活動を行う生徒たちの邪魔になってしまうため、自由にヴィジョンを扱うことはできない。
例え使えたとしても身体能力のみでがんばっている生徒の横で、ヴィジョンによる高速移動をしてしまえば、部活をしている生徒のやる気を減退させてしまうことになりかねない。
「こんな時間に調査って普通ないだろう。治安維持組織とは言ってもメインは学業のはずだ」
「この件はグングニルとは関係ない。別に学校へ連絡するならすれば」
「いやいや、それは俺もまずいからしないけど。確かこの先って、今は停止中の研究エリアだよな」
「ええ、ヴィジョンの人工開発を一番最初に行った場所よ」
「なんだか不気味だよな。向こうはあれだけ光が灯ってるのにこっちに来ると真っ暗だ」
すると、研究所の方面から一瞬だけ光が発生した。それを見た可憐はすぐに炎を手に溜める。
「走りたいなら別の場所に行きなさい。ヴィジョンを使うのを容認してあげてるんだから言うこと聞いてよね」
そういうと手から炎を噴射し研究所へと飛んでいった。
「あいつはいつも忙しそうだなぁ」
踵を返し別の場所へ行こうとした時、次は小さな爆発音がこだまする。その後も何度か光が放たれ何やら異様な雰囲気を感じる。
すでに閉鎖中の研究施設しかないため人はいないはずの中、音がするのは何かあるだろうと判断し、瀬那は可憐の言葉を無視して研究所へと向かった。
研究所付近に到着するとすでに音は鳴りやんでいた。ほとんどの施設は長い間使われておらず電気は通っていない。
しかし、誰かが来た痕跡はいくつもあった。ガラスが割れていたりバイクが通った跡、最近発売されたスナックのゴミやそこまで汚れてないな空き缶。
「不良グループのたまり場になってるのか? だとしたらあいつはなんでこんなとこに来たんだ」
グングニルは自身の住んでいるエリアで事件が起きれば対応に当たらなければいけない。
しかし、あくまで本分は学業のため門限や拘束などを破って調査に当たる必要はない。規模に応じてどの組織が動くか決まりがある。
日常的な巡回はグングニルと警察。ヴィジョン犯罪者の確保にBクラス以上のグングニルか警察の異能犯罪対策隊。組織規模になるとイージスも動き始める。それぞれの特色があり、身近な場所で安全を守りながら、ヴィジョンを使えるグングニル。巡回と捜査に特化している警察。特殊な武器を保有し対ヴィジョンとの大規模戦闘をも念頭に入れているイージス。
とは言え、イージスも街で隠れ巡回をしているため、場合によっては三組織が同時に集まることもある。
。
可憐がここへ来た理由は本人が言っていた通り、グングニルとは関係ないことは瀬那も理解した。
しばらく周囲を散策していると、少し先の方で炎が噴射されるのが見えた。直後に誰かが宙へと浮き飛び去り、それを追撃するように炎が噴射されるが射程範囲の外へと飛び去りそのまま姿を消した。
すぐに現場まで向かうと不良グループが可憐の前に立ちふさがっていた。可憐はその中の一人の少女とにらみ合っている。
「痛い目にあいたくなかったらさっさと詠歌の場所を教えなさい」
「あんたは詠歌の行き場を奪う気? ちょっと強いからってそんなことでやってもいいと思ってんのか」
「あの子はこんなとこにいるべきじゃない。いいように使ってるのはあんたたちじゃない」
「そんなんじゃない! 私たちは仲間だ! 腐った階級社会でおぼれるよりましでしょうに」
「救いの手をプライドで掴もうとしなかったのはどっちよ」
膠着状態のままにらみ合おう双方は一方に譲らず緊張が場を支配していた。
その中の一人、可憐からは死角になっている人物が腰に手を伸ばした。その人物は周りを見て小さくうなずいた。
危険を察し瀬那は飛び出しほかのやつらを全員無視してその人物へ近づくと、腰には拳銃を装備していた。
「そいつを使ったら終わりだ!」
即座に顎にアッパーを食らわせ男は気絶。しかし、周りに取り囲まれた状態で全員が瀬那の方へと注目した。
「もしかしてヤバい感じ……?」
「なんであんたが来てるのよ!」
「誰もいない場所で音が鳴ったら気になるだろ」
「あーもう! こっちの計画が台無しでしょ! 銃持ってるのなんてわかってたのにさ」
そうこうしているうちに不良グループは瀬那に向かって一斉に襲い掛かった。
「おっと、悪いけど遅すぎるぜ」
瀬那は攻撃を器用に回避しつつお互いで攻撃させるため、一人一人攻撃の軌道を変えていき、可憐の隣に戻った。
「これが平和的解決だな」
「これで終わるわけないでしょ」
不良グループは痛みに耐えながらそれぞれバールやバット、ナイフを持ち二人をにらんだ。
「あ……ですよね~」
「こいつら任せるわ」
「おい、どこいくんだよ!」
「私には目的があるの。あんたならそいつらどうってことないでしょ」
そういうと可憐は手から炎を噴射し研究施設へと飛んでいった。
攻撃の届かない可憐にはどうしようもないため次なる標的は瀬那となり多勢に無勢。
「まぁいっか。なるべく痛くはしないでやる」
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