炎の少女が救われた日 3
可憐はピンチだったのにも関わらず、仲間も呼ばずに一人で対処しようとしたことかで五日間の謹慎を言い渡された。緊急事態を除いてグングニルとして権利を停止させれられたのだ。
ヴィジョンはまた普段通り使えるようになっていた。この謹慎を決定したのは可憐の姉である梨花だ。可憐のことを心配してのことであり、休息をとり精神の乱れを治しなさいという梨花なりのメッセージだった。
梨花は今第三エリアではなく、中央エリアにいるため可憐とは直接会ってはいない。だが、可憐と電話で話し、その声色から球速が必要だとすぐに理解できた。自身も無茶をして傷ついたからこそ、ほかの人には、それも妹にはそんな風になってほしくないという気持ちが強かった。
あの戦いが起きた日の夜にはすでにヴィジョンは元に戻り、ヴィジョンシンドロームでないことに可憐は安堵した。姉の梨花がそれでどれだけ苦しんだかを知っている。自分が出ればすぐに解決できたであろう事態を、ただ傍観するしかない悔しさ。
まだ、それを完全にりかいすることはできないが、ヴィジョンシンドロームではない安心感は、逆に梨花の辛さを以前よりも実感出来た気もする。
いつもの日常に戻り、またグングニルで頑張って活動をしようとした時、可憐は見覚えのある男子高校生とすれ違った。
「あんたあの時の!」
「えっ?」
完全に気の抜けた返事をしたのは瀬那だった。助けてくれた時とはずいぶんと雰囲気が違い、可憐は一瞬同一人物か疑いそうになったが顔も姿もすべてが一致していることから確信する。
「なんで私を助けたの。あんたはどこにも所属してないんでしょ」
「いっただろう。単なる人助けだって」
「なにそれ。ごまかしてるつもり? 私は本気で聞いてるの!」
可憐の真剣な表情を見てごまかしていい相手ではないと分かると、瀬那は少し考えた。何をどこでまで話すか。ある程度まとまると軽くため息をつきつつ決心したように話した。
「変えられない過去がある。もし、同じ状況が今起きたとしたら、次は後悔したくない。だから、人助けをして自分はできるぞって確認してるんだ」
「あんな危険な真似してまでやること? 生半可な気持ちで人助けをしてたらいつか死ぬわよ」
「本気さ。君だって本気だったろう。本気で命をかけてみんなを守ろうとした。傷の痕だってまだ残ってるはずだ。その傷は本気だからこそできた傷。俺も本気だった。たまたま傷を負わずに済んだだけなんだ。余裕なんてない」
淡々と言う瀬那の瞳には、正義感で動こうとするヒーロー気取りの人間とは違う淀んだものが見えた。純粋な正義感ではない。確かめるための行動なのだ。
でも、だからこそ、薄っぺらい借り物の正義感を振りかざす人より、どこか信用できるような気もした。
「あんた、グングニルに入る気はないの? まだ力は未熟でもこなすうちに洗練されていくと思うし。私が推薦文書いてあげてもいいけど」
可憐が誰かをグングニルに誘うことは今まで一度もなかった。グングニルはメンバー推薦をすることで本来実施される時期じゃなくても特別に試験を行うことができる。フロンティアは広くそれだけ人数を欲しているということもあるが、それ相応の実力がなければ意味がない。賢さ、戦闘スキル、ヴィジョンをどれだけ使いこなしているか、様々な視点から評価される。
しかし、可憐ほどの優秀なメンバーが推薦したとなれば即採用は間違いなし。助けたれたお礼もあるが、それ以上に瀬那に何かを感じたからこその提案だったが、瀬那の答えは可憐にとって意外なものだった。
「いや、やめとくよ。俺には荷が重いし自由に動けなくなるだろ」
「人助けするんでしょ。だったら、自由にヴィジョンが使えたほうが便利なんじゃないの。毎回反省文書くつもり?」
「まずは自分がどこまでやれるか試したいんだ。それにまだグングニルやイージスといった組織のことをあまり詳しくない。俺にとって組織に属することが最適で入りたいと思ったら、その時はみんなと同じ時期にテストを受けに行くよ」
「なにそれ。ばっかみたい……」
「そうかもな。可憐がグングニルに入ったのも何か理由があったからだろ」
可憐がグングニルに入ったのは姉の存在がとても強かった。可憐にとっての憧れの存在は姉の梨花であり超えるべき存在でもある。今は治安のためにヴィジョンを使うが原動力は可憐も同じ憧れの存在のおかげであったことを瀬那の言葉で気づいた。
「なんかあったらまた助けてやるから心配すんなって」
「はぁ!? 誰が二度も助けられるか! 次は私があんたを助ける番よ! いいわね!」
「まっ、そんときが来たら頼むわ」
グングニルトップレベルの実力をもつ可憐がまだまだ無名の瀬那に助けられた日。これ以降二人は度々いろんな事件で出くわすことになる。この出会いこそが可憐にさらなる炎を燃やすきっかけであり、瀬那にとっても自分の目標を再確認できた瞬間だった。
まだ不安定なこの都市で、二人の出会いはこれからもっと重要なものになる。
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