未来都市フロンティア 

田山 凪

プロローグ

 幼い少年は絶望した。


 休日で賑わうショッピングモールは、一瞬にして崩壊した。


 幼い少年は瓦礫の下敷きになり、生き埋め状態だった。


 外では何が起きているかわからない。

 悶え苦しむ声と助けを呼ぶ声が聞こえていたのに、いつのまにかそれも聞こえなくなった。


 バチバチと火が踊る音が次第に近づき、体が熱くなっていく。


 待っていれば誰かが助けてくれるかもしれない。そう思っていたのに、近づく火の音に恐怖を覚える。


 もう時間はあまり残されていない。ここから抜け出さなければ死んでしまう。


 死の恐怖を感じる中、幼い少年の体は必死に動かすが、子どもの力で抜け出すことはできず、体力だけが無駄にとられていく。


 少年は叫んだ。

 喉がはち切れそうなほどに叫んだ。


 しかし、残るのは無慈悲に火が踊り近づく音。


 足元が熱く、狭く暗い隙まで少年はなんとか膝を抱いた。 

 このまま焼かれたらどれだけ苦しいのだろうか。

 幼い少年は、半ば死を受け入れかけていた。


 その時、音が聞こえた。

 瓦礫が凄まじい勢いでどかされていく。

 

「確かここだったよな。いるなら声を出してくれ!」


 大人の男性の声だ。

 低い声だが必死に呼び掛け、助けようと言う意志が声から伝わってくる。


 ここで声を出さなきゃだめだ。

 少年は再び必死に叫んだ。


「助けて!!!」


 すると、少年の上に覆い被さっていた瓦礫が男性の手によってどかされる。


「もう大丈夫だ! よくがんばったな」


 スーツ姿の男性の体は傷だらけだった。

 肩や腕は何かに貫かれたような傷跡があり、頭部から流れる血で左目は塞がれている。

 なのに、男性は笑顔を少年へ向けた。


 安堵した少年は男性に助けられたあと意識を失ってしまった。


 駐車場には避難してきた人たちが集まっている。少年が目を覚ますと、ちょうど男性の背中から降ろされるところだ。


「痛いとこはないか?」

「くるしかった……」

「あんな狭いところにいたんだもんな。でも、諦めずに叫んでくれたから君を見つけられた。もうすぐ怪我を治してくれる人も来るからな」


 その時、避難していた人たちが一斉に声を上げる。


 男性の後ろに、人の形をした、だが人だとは思えない異形の存在が立っていた。この異形の存在こそがショッピングモールを地獄絵図に変えた張本人。


 アスファルトさえ切り裂く長く鋭利な爪を伸ばすと、男性の背中へと振りかざした。


「おじさん!」


 少年が叫んだ直後、鋭利な爪が真っ二つに折れる。


「おじさんじゃねぇ。まだお兄さんだ」


 男性がそういうと、何かを打つような音が何度も連続して鳴り響いた。そして、ばたりと異形の存在が倒れる。

 男性は背後に立つ存在に気付き、一切見ずに、しかも触れずに倒したのだ。それがどんな力であるか少年にはわからない。


 だが、これは少年が人助けをするようになるきっかけの一つになった。


 そして、もう一つのきっかけは、親しい友人が殺されたこと。


 憧れと後悔が、少年の歩を前へと進めた。

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