汚れた過去を消すために 1
詠歌には汚れた過去がある。チャイルドハウスから飛び出し、巨大なこの都市で放浪し、逃げてきた同年代の少年少女と共に徒党を組み、反旗を翻す計画を立てていた。その中で詠歌は一番ヴィジョンが強力で知性もあり、みんなから慕われていた。幸い、大きな事を起こす前に瀬那と可憐がそれを止めた。
しかし、計画を実行するために、生きていくために悪いことをいくつもした。食べ物を盗んだりほかの不良を見つけて金品を奪ったこともある。詠歌が計画しみんなで実行した。
可憐は詠歌とその仲間たちを救うためにいろんなところに掛け合ったが、簡単に過去を消すことはできない。
可憐の計らいで1Kのマンションで住むことになり、もやもやしたと気持ちを抱いていた時、詠歌に知らない電話番号からの着信が入る。
出てみると、男性はこういった。
「我々はムラクモ、グングニルの恋時可憐が君たちを救うために必死に働きかけているがその成果いまいち出ていない。梨花の妹とは言えまだ影響力は乏しいということだ」
「急になんだあんたは」
その男性は詠歌のこと、それに可憐、その姉である梨花のことを把握していた。その上でさらにつづける。
「君らの過去を帳消しにすることが我々にはできる。だが、そのために我々からの依頼をたった一つ受けてほしい」
「……依頼? 何をすればいいの?」
「先に受けるか受けないかを答えるんだ。内容を聞いてから断ることは許されない。君はいまこの瞬間に答えを出せ」
内容も聞いていないのに依頼を受けるのはあまりにも危険なことだ。この都市はヴィジョンを利用した犯罪が裏で行われている。学生が巻き込まれたりすることも少なくはない。
汚い過去を消すために簡単なことは依頼してい来ないだろう。
だが、詠歌の答えは決まっていた。
「私のは答えはイエスだ。そして確約してもらう。私の仲間たちの過去を消してこの都市でまともに暮らせるようにすると確約しろ!」
本当なら懇願し依頼を受ける立場である詠歌は、力強く相手を脅す勢いで言った。こんなことは何度もあることじゃない。奇跡のようなタイミング。詠歌はこれを逃すわけにはいかなかった。
すると、電話越しの男性は小さく笑い答えた。
「気に入った。さすがあの恋時可憐が信頼するだけある。内容は簡単だ。とあるヴィジョン所持者を戦闘不能にしてほしい。一人では難儀するだろう。必要ならば仲間を連れていけ。詳細はおって連絡する」
電話を切ると直後に画像データが送られてきた。金髪でグレーのサマージャケットを腕まくりしており、デニムを履いている男の写真。
都市であくどい商売をしている。場所は地下都市第一エリア。
画像を見ているとまた電話がかかって来た。次は女性の声で話してきた。
「なに?」
「我々は君を試す者。君の才能が我々にとって有益ならばそれ相応の報酬を出します」
「随分と上からだね。でも、やると決めている。答えを曲げるつもりはない」
「では、地下都市第一エリアにて目標を探し捕まえてください。金髪でグレーのサマージャケットを着た男性です」
そういうと電話は切れた。
「改めて言わなくてもわかってるっての。私はやるよ。みんなのために」
事の経緯を瀬那に伝えると、瀬那はなぜ俺のなのかと問いかけた。
「瀬那には借りがあるし頼るのはどうかと思ったんだけどさ。仲間たちは正直いうと非力なんだ。まだヴィジョンの扱いが上手くできてない。これから鍛えようとしてたんだけどこうなっちゃったから。頼れるのは瀬那くらいなんだ。可憐にはこれ以上迷惑をかけたくないから」
「俺は構わない。だけど、聖を巻き込むのは違う。俺だけが同行する。不審なのは確かだ。俺も相手のことが気になる」
すると、聖は立ち上がり瀬那へ言った。
「私、やります!」
「でも、危険なことかもしれない。俺は詠歌と関わりをもっているし話を聞いたからには見過ごすわけにもいかない」
「私は罪を償いたい! 愚かな行いをしたことを瀬那さんは許してくれましたけど、私自身が許せないんです! 瀬那さんのお友達が困っているのなら、それも危険なことに巻き込まれる可能性があるのなら、この水を操る能力はきっと助けになるはずです」
水ならどこでも手に入りすぐにでも能力が使える。その上、大量の水を扱い関係のない人に被害が出ても、炎や電気と違い怪我をするような被害は出にくい。水で相手を拘束したり水圧を利用して壁を作り出すこともできるため、聖の力が借りれるならかなり頼りになる。
だが、瀬那は悩んでいた。
聖は許されるために無茶なことをしようとしているのではないかと思ったのだ。その判断が正常なものか、どこか自暴自棄になっていはいないか、それがわからないため判断に困った。
聖の堂々と立つ姿を見て詠歌が言った。
「私に似てる。悪いことをしてなんとかそれをなくそうとしている」
「そ、それは……」
「でも、私ほど自暴自棄になってないし、前に進もうとしている。私よりよっぽどまともだよ。海の水さえも操れる広い範囲と、どこにでもある水を操るという能力は確実に力になる。私の力は加減が難しいから。瀬那、私からも頼むよ。この子を連れていきたい。私のために、この子自身のために」
聖は納得をしたかった。大好きな瀬那に許されたことはとても嬉しいことだったが、いろいろなものがみえるようになったからこそ、もっとしっかりと自他共に認めるちゃんと罪を償ったという納得がほしい。
それは瀬那を守り、詠歌を手伝い、目的を達成することが納得するための道のりであり、聖自身が瀬那たちのためにやりたいことでもあった。
「仕方ないな。もし危険なことが起きたら俺から離れないようにな」
「はい! 絶対に瀬那さんから離れません!」
そういうと聖は瀬那の腕をへと抱きついた。さっきまでと雰囲気の変わった元気な姿に瀬那は戸惑いつつ、詠歌はあきれた表情でため息をつきつつぼやいた。
「まったく調子がいいんだから」
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