第10話
「……わかった、これはありがたく受け取っておくわね。なんにせよ、あなたの役にたててよかったわ。人手とか物とか必要なものがあったら言ってね? できる範囲で助力するから」
諦めたように一息ついてからふわりと優雅にほほ笑んだケイティは譲り受ける宝石分の仕事にはまだまだ足りないと思っており、いくらでもイオリの力になるつもりだった。
「ありがとうございます。多分、ケイティさんにはお店をやることになった時にたくさん相談すると思うので、その時にはよろしくお願いします!」
イオリは笑顔で元気よく返事する。
店を開くとなると、商業ギルドへの申請なども必要になってくるため、そのあたりの手続きを聞きたいと思っていた。
「えぇ、それくらいいくらでも話を聞くわよ」
イオリの役に立てることをうれしく思ったのか、ケイティはどんと胸を張る。
そのあたりは、専門家の知り合いも多いため、自信があった。
「すっごく助かります! さて、それじゃあ、作業に戻りますね――あっ……」
腹が満たされたイオリは、再び掃除道具をとりにいこうとする。
しかし、なにかを思い出したようにピタッと止まると、ケイティに振り返った。
「今のホットドッグをどこで買えるか教えてもらえませんか? すっごく美味しかったです!」
「ふふっ、わかったわ。あとで地図を書いて持ってくるわね。それと、またあとで外にも食事に行きましょ。せっかくだから宿のレストラン以外にも美味しいお店を教えてあげるわ」
まだまだ街のことを知らないイオリの気遣って楽しそうに笑ったケイティはそんな提案をしてくれる。
「あ、それすごく嬉しいです! でも今度は私からケイティさんのところに行きますね!」
ここは街の外れであり、何度もケイティに来てもらうのは申し訳ないため、イオリから出向くことを提案する。
「それじゃ、またあとでね」
「はい、よろしくお願いします」
二人は互いにそう挨拶をしあうと、イオリは作業に、ケイティは街へと戻って行った。
「掃除が終わったところで、次は屋根と壁のチェックをしましょうか」
中の掃除を終えて外に出てきたイオリは雑草がぼうぼうに伸び切った庭や老朽化が進んでいる様子の外壁を見る。
これからここに住むにあたって、雨漏りやすきま風が入ってこないように、ざっくりとしたチェックを行っていた。
ちなみに、室内の扉や床や壁は状態維持の魔法がかけられているらしく、埃や汚れを綺麗にすると、ほぼ完全な状態を保っている。
そこで、問題となる外観の補修から行うことにした。
「まずは崩れている場所の掃除からですね……」
工具を取り出すと、腐食している外壁部分や壊れている屋根部分を引きはがして、修繕用の整備をしていく。
高いところを見たり、屋根に上がったりするための脚立は中で無事だったため、それを使用している。
ひととおりもんだいのあるところを確認し終えたところで、次は修繕に入っていく。
ここで、購入して置いた木材が有効活用されていく。
まずは屋根を最優先にしたイオリは屋根の上にいた。
屋根がないことには生活を送るにも不自由になってしまう。
「星空が見えるのはロマンチックですけどね。雨が降ったらとんでもないことになってしまいます!」
晴れ渡る空を見上げながら、心地よい風に髪をたなびかせたイオリはにぱっと笑う。
屋根の修繕を早めに取りかかったのは、天気がいいうちに対応しておいたほうがいいという判断からである。
まずは木材に防腐処理をしていく。
かなりの量を購入してきたため、それら全てに対処するには時間がかかるが、それすらも今のイオリには楽しくあった。
ここまでの掃除や片づけにおいて、服や顔のあちこちに汚れがついており、両親が見ていたら発狂ものであったが、イオリはそんなことを全く気にすることなく作業に没頭していく。
途中、ケイティが一度だけ様子を見に来たが、集中している邪魔をしたくないと考えて食料の差し入れだけして帰っていった。
そんなイオリが作業の手をとめたのは、日が傾き始めて夕方になったころだった。
「ふう、暗くなってきましたね。今日はこのへんにしておきましょうか」
さすがに日が落ちて暗くなってきたことで、手元が見えづらくなってきたのでイオリは作業を中断することにする。
結局午後いっぱい使って、イオリは屋根の修繕を終え、外壁は途中で終了というところで終えていた。
「ふう……あれだけ集中しているとさすがに疲れますね」
少し離れたところで綺麗になった屋根を見上げながら、一息ついたイオリは、視界の端にメモつきの紙袋があることに気づく。
『さすがに屋根の上で作業している邪魔するのは悪いと思ったから、差し入れだけ置いておくわね ケイティ』
「ケイティさん……ありがとうございます!」
シンプルなメモだったが、ケイティの気持ちが伝わってきたため、こみあげてくる嬉しさに笑顔になりながら、思わず紙袋を抱きしめてしまう。
「あっ、わわわ、中がつぶれちゃいます!」
慌てて引きはがすが、既に紙袋にはかなりのしわがよってしまっている。
「だ、大丈夫ですかね?」
恐る恐る中を覗いてみると、そこには紙の箱でできた容器に入ったサンドイッチがあった。
容器のおかげで食べ物はそのままの状態を維持している。
「これは……さすがケイティさんです! きっとこうなることを予想していたんですね」
苦笑しながらイオリが予想するが、実際のところそのとおりだった。
『きっとイオリのことだから作業終わってこれ見たら、きっと潰しちゃうわね。だから、これにいれておいて……』
数時間前、夢中で作業しているイオリを見たケイティは苦笑交じりでメモと差し入れを置いていったのだった。
「ありがとうございます、あといただきます!」
嬉しそうに紙袋を抱えたイオリは外にある水場で手を洗って、古ぼけたベンチに座って食べ始める。
「美味しい! すっごく美味しいです! このお店の場所も教えてもらわないと……あれ?」
サンドイッチを満足そうに食べたイオリは、次のに手を伸ばそうとした瞬間、紙袋の中に一枚の小さな地図が入っているのを発見する。
「――もう、ケイティさんはなんでもお見通しなんですから」
それには、このサンドイッチをとり扱っている店の名前と地図が記されており、先を読まれたイオリは思わず微笑んでいた。
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