第20話
「そ、それでは遠慮なく」
少しドキドキしながらイオリが水筒に水をいれようと再度水場に近づくと、スライムだけでなく動物たちも水を汲みやすいように移動してくれた。
「わあ、ありがとうございます!」
言葉による意思疎通は確かにできないが、コミュニケーションが取れていることに、イオリは自然と頬が緩んでいた。
水筒と、それから収納空間にある程度の量の水をいれ終えると、イオリは水場から離れる。
「みなさん、わざわざ空けてもらってありがとうございました」
嬉しくなった思いそのままに、スライムと動物たちにお礼を言う。
「ふーるふるー」
スライムはイオリの態度が嬉しかったのか、薄っすらとピンク色にそまってふるふると震えていた。
動物たちは言葉を理解できていないのか、一度だけ視線を向けたあと水場に戻って行った。
「さて、綺麗な水を手に入れることができました。次は……護衛の魔物さんですね」
ヴェルを肩に乗せたイオリが改めて目的を口にしながら、まだ見ぬ護衛の魔物へ思いを馳せつつ、森の奥へと視線を向ける。
「ふるー?」
護衛の魔物という言葉にスライムが反応する。なんのことを言っているの? と。
「えっとですね。今、私たちは街の中で暮らしていて。でも、街の中でも外れのほうに住んでいて周囲に人があまりいない場所なんです」
「ふるふる」
本当にわかっているのか怪しいが、スライムはぷるんと一度跳ねている。
「だけど、今日みたいに家を空けることもありますし、夜に寝ている間に泥棒さんが入ったりしたら困るので、私たちのことを守ってくれる魔物さんがいないかと森に来てみたんですが……」
丁寧にゆっくりとした口調でイオリはそう言って、ゆっくりと森を見回していく。
「だけど、森の中で会った魔物さんはスライムさんが初めてなんです。この森って、こんなにも魔物さんがいない場所だったんですね」
想定と違ったため、イオリは少々困ったような表情を見せていた。
「ふーるふる」
すると、スライムは抗議するように小さく何度か跳ねる。
この反応は今までのやりとりから判断するに、否定を意味する。
「つまり、他にも魔物さんがいる、ということですか?」
「……ふるー」
今度はすっきりとしないような、微妙な揺れのようなものを見せていた。
「えっと……当たっているものの、完全にではない、とった感じでしょうか?」
その真意を掴もうとしながらイオリが再度質問をする。
「ふるふるー!」
そのとおりだとスライムは勢いよく跳ねている。
「うーん、ということは普段はいるけど、今はいない。その原因がどこかにある。そういうこと……」
「ふるふるふるーーー!」
今度は食い気味にスライムが何度もぴょんぴょんと跳ねる。
「なるほどです。そして、その原因が森の奥のほうにあるんですね」
イオリがこの結論に至った理由は、スライム、そして動物たちが意味ありげにそちらへと視線を向けていたからだった。
「――どう、しましょうか」
そう呟きながら、イオリは自分の中に浮かんだ選択肢をあげていく。
「一、森の奥に行ってみる。二、このまま帰る。三、別の場所で魔物さんと仲良くなれてから再度ここを訪れる……か」
この中でどの選択肢を選ぶかで、危険度と行動がかなり大きく変わっていく。
イオリは、近くにあった木の棒で地面に数字を書いていきながら考えをまとめるように思考を巡らせた。
「ヴェルさん、どれがいいと思いますか?」
ここまで一緒に行動してきたヴェルに意見を求める。
「ほー」
すると、即答で一番をくちばしでさした。
「なるほど……一番ですか」
イオリの中でも一番を選ぼうと思っていた。
そこにヴェルが賛同してくれたことで後押しとなる。
「ふるー」
そして、スライムが身体の一部を伸ばして一番をさし示した。
「えっ?」
「ほー?」
イオリとヴェルはまさかの反応に驚いてしまう。
「ふるふるー!」
スライムは身体の一部を伸ばして、挙手をするかのように見せる。
「えっと、スライムさんも一緒に行ってくれるんですか?」
「ふる!」
もちろんだと、その伸ばした触手のような部分で身体をドンッと叩いた。
「それはとてもありがたいのですが……危険かもしれませんよ?」
「ふる!」
この言葉にも問題ないと頷く。
「これは私たちが勝手にやることなので、スライムさんが付き合う必要はないんですよ?」
「ふるふる!」
今度は違うと横に震えた。
「ふるふる、ふーるふる! ふるふるー!」
ぴょんぴょんと元気よく跳ねながらスライムはこの話をしたのは自分で、森の住人として義務があるとアピールしているようだった。
もちろん言葉の意味はわかっていないが、イオリには言いたいことが伝わっていた。
「……わかりました。私とヴェルさんとスライムさんで行きましょう!」
「ほー!」
「ふるー!」
イオリの言葉にヴェルとスライムが嬉しそうに返事をする。
こうして、三人は森の奥に向かって行った。
その様子を水辺にいた動物たちも見ていたが、さすがに見ず知らずの女の子に賭けて自分たちを危険に晒すわけにもいかないため、後ろ髪ひかれる思いがありながらもその場にとどまっていた。
「それにしても、奥でなにがあったのでしょうか?」
「ふるー」
なにかを言ってくれているが、スライムの言葉を理解できないため、見当がつかない。
「うーん、もう少し会話ができるといいのですが……」
イオリは困ったものだと首を傾げている。
「ほーほー」
そんな反応をしていると、ヴェルが声を出しながら真剣な表情で森の奥に視線を向けていた。
奥からなにか良くない力が漂ってきており、ヴェルはそれを警戒している様子だ。
「ふるふるー!」
それはスライムも同様であり、身体に棘がはえたような形状になって、警戒心を露わにしている。
「た、確かに、なにか、黒い力を感じます……」
二人が警戒している様子にごくりと息をのんだイオリは、森の奥のほうから漂ってくる力を色でとらえていた。
黒の中でも、真っ黒で少し紫が混ざっているかのような毒々しい黒のよどみが濃い霧のように漂っている……。
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