第13話
「わ、わわわっ!」
ヒビが入り始めたところで魔力供給を完全に止めたはずだったが、一度ついたヒビはどんどん大きくなっていき、それは全体に広がっていく。
卵自体も最初の時よりも光が増しているように見えた。
「ちょ、ちょっと、止まって下さい!」
イオリは少しずつ成長してくれればいいと思っていたので、急成長して卵の中身に何かしら悪い影響があるのではないかと不安になったようで、慌てたように声をかける。
だがその呼びかけもむなしくヒビは全体に及び、更に卵の殻が中にいる生物によって内側から壊されているようだった。
早く出たいのか、コツコツと何度も卵の内側から聞こえてくる音は、硬い部位でつついているからだということは予想できる。
(な、なんの卵なのでしょうか? このサイズだと、グリフォン? 蛇? ま、まさかドラゴン!?)
色々な想像が頭の中を巡っていく中、なにが飛び出てきても大丈夫なように、イオリは後ずさって距離をとっていく。
もうすでにイオリが魔力を注入しなくても十分な様子で、彼女が離れても卵は引き留める様子もなく、早く外に出たいと言わんばかりに殻をつついているようだ。
そして、コツコツ音が何度も何度も聞こえてきて、ついに殻が大きくはがれた。
その様子をイオリはゴクリと息をのみながら見ている。
「――あっ!」
次の瞬間、中にいる生物が大きく殻を壊して、その姿を外の世界に表すこととなった。
「くるる」
喉を鳴らしたような鳴き声でその全容を見せた生物。それは……。
「フクロウさん!」
鳥類のフクロウだった。
通常のソレよりも、全体的に白く、身体には緑色の模様がある。
サイズはスズメよりは大きいが、それでもフクロウとしてはかなり小さい部類に思われる。
なにより、卵のサイズに比べて圧倒的にこのフクロウは小柄であった。
「か、可愛いです!」
もっと凶暴な魔物か動物を想像していたイオリは、愛らしいフクロウの魅力に誘われるかのようにふらふらと近づいていく。
先ほどまでの恐怖心などはどこかに消し飛んでおり、今はこのフクロウを撫でたいという欲求に逆らえずにいた。
「あ、あの、頭を撫でてもいいですか?」
恐る恐る近づいて、そんな質問を投げかける。
卵の時点である程度の意思疎通ができていたことから、きっと言葉を理解していると判断していた。
「ほーほー」
イオリが近づいても警戒する様子を見せないフクロウは返事をしながら、目を細め、触りやすいようにと頭を前に出してくれる。
「あ、ありがとうございます!」
ふにゃりと顔を綻ばせたイオリは感謝すると、ゆっくりと手を伸ばしていく。
小さいため、ちょっと力を入れれば首に負担がかかってしまうかもしれない。
だからこそ、慎重に力の強さを加減している。
「くるるるる」
イオリの撫でる手が気持ちがいいのか、フクロウは目を細めて喉を鳴らしている。
「うふふっ、すごく可愛いです!」
イオリは、頬がとろけるかとばかりの笑顔でフクロウを愛でていく。
しばらくそんな風なやりとりをしていたが、フクロウが徐々にウトウトし始めたためイオリはワラと小さなクッションで作った寝床にフクロウを寝かせていく。
灯りの魔道具の出力をかなり絞って、万が一暗い間に目覚めても周囲が確認できるような対応はとっている。
フクロウは夜目がきく生き物だとは思っていたが、それでも生まれたてのこの子に対しては気遣いを見せた。
そして、静かに寝息をたてているのを確認すると、イオリは自分も睡眠のために寝室へと向かって行った。
(明日はフクロウさんの食事と、名前を考えてあげないとですね)
ひとまず自ら用意した簡易ベッドにごろりと寝転がったイオリはぼんやりとまどろみながら今日の出来事を振り返っていた。
今後の予定について考えながら眠りにつく予定だったが、結局のところフクロウのことを考えるだけで眠りの世界へと誘われていった。
翌朝
「……ほーほーほー」
「ううん……誰……」
目覚ましが鳴るようにイオリを起こそうとする何者かの声に目を覚ましたイオリはベッドで寝がえりをうつ。
眠りを妨げられていることに、少々不機嫌そうな声をだしていた。
そのことを不満に思った起こし主は、羽を大きく広げ、大きな声を出す決意をする。
「ほー! ほー! ほー!」
「う、うわあああ! な、ななな、なんですかあああ!」
イオリが慌てて身体を起こすと、お腹の上にちょこんと昨日生まれたばかりのフクロウがのっていた。
「あ、あれ? フクロウさん……あぁ、起こしにきてくれたんですね。ありがとうございます。それにしても、部屋の扉は締めてた気が……」
可愛い目覚ましに対して、少しの疑問を抱きながらもイオリは丁寧に感謝を伝える。
「ほー」
丸で会話をしているかのようにフクロウは鳴きながら、どういたしまして、というように軽く会釈をしている。
「えっと、今は何時ごろなんでしょうか?」
今日も予定は家をなんとかすることだけだが、ケイティがくるかもしれないし、フクロウの名前を決めなければならない。
動き出すのに、時間が限られているため、まずは現在の時刻を確認したかった。
そう思ったのと同時に、鐘の音が聞こえてくる。
「一回、二回……十回!」
この世界でも時間は二十四で区切られており、鐘の回数で今が区切りの何番目にいるのかがわかる仕組みになっていた。
(つまり、今は十時ということですね。少し起きるのが遅くなりましたが、それでも午後になってなくてよかったです)
朝食を食べそびれ、昼食まで食べないというのだけは避けたかった。
しっかりとご飯を食べないと、作業途中で一気にダウンしてしまうため、食事は重要だった。
「食材は買っていないので、どこか食べにいきますか。フクロウさんは……いえ、名前を決めたほうがいいですね。いつまでもフクロウさんでは、困ってしまいます」
ふとイオリはフクロウと目を合わせながらへにゃりと眉を下げた。
フクロウさんではイオリに対して『人間さん』と呼んでいるようなものであるため、さすが種族名呼びを続けるのは気持ち的にも避けたいと思っている。
「ふくろう……――『ヴェル』なんてどうでしょうか? 男の子みたいですし、緑の模様がとってもきれいなので、どこかの国で緑という言葉からとってみました……ってわわっ!!」
少し考えたイオリはふと思い出したようにそう言葉にしながらフクロウの緑の模様を撫でる。
すると名前を付けたせいか、ヴェルの身体が光を纏っていた。
このフクロウは白をベースにして、差し色で緑が入っているので、そこにフューチャーした名称となる。
白いフクロウはオスが多いと知っていたのと、男の子、とイオリが言ってもフクロウが特に反応しないことからあっていると予想していた。
「ほーっほっほー!」
ヴェルという名前が気に入ったのか、光り輝いていたヴェルは羽根を大きく広げると、これまでにないほどの大きな声を出して、何度も頷いている。
光は少しすると落ち着いた。
「気に入って、くれましたかね?」
「ほー!」
突然光りだして驚いたものの、とくにわるいものではなかったとホッとして息を吐いたイオリの確認に、ヴェルは何度も頷いていた。
「ではでは、フクロウさんの名前はヴェルさんです!」
「くるるるるるるー!」
喉を鳴らしながらイオリの周囲を飛び回って、三周ほどしたところでイオリでの正面にきて、くるりと一回転する。
「うふふっ、ヴェルさん。すっごく可愛らしいです!」
喜んでいるのがイオリにも伝わってきており、自然と笑顔がでてきた。
「ヴェルさん」
「ほー!」
イオリが名前を呼べば、ヴェルが応えるように鳴き、はたから見ればお互いがお互いを呼び合っているような構図だった。
「ヴェルさあああん」
「ほーほほー!」
イオリが悩んで、自分のことを思ってつけてくれたこの名前のことをヴェルは誇らしく思っており、彼女から名前を呼ばれることがとても気持ちいいと伝えるように機嫌よく鳴いていた。
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