第11話
「さすがにもう外で作業することはできないので、残りはおうちの中の片づけをしましょう!」
ケイティからの差し入れを食べ終わるころには、外が暗くなってきたため、家の中での作業へと移ることにする。
家の中はかなり広く、古くなった家具などもそのままの状態で置かれていた。
一通り掃除したり手入れをしたりしたため、アンティークのようでもあった。
それらの中から使うもの、使わないもの、お値打ちもの、ガラクタなどを選別する作業に入っていく。
「タンスもたくさんありますねえ……」
どんな人が住んでいたのかイオリは想像しながら作業を進めていく。
単純にボロボロになっているものは解体対象として、デザイン的にも気に入ったものは、お気にいり対象として収納する。
彼女の収納スキルには、ただしまうだけでなく、中身を分別確認する能力が含まれている。
そのため、いらないものリスト、気に入ったものリスト、それぞれに紐づけておくことで簡単に分けることができた。
「これ、は……高そうです」
能力と勉強のかいあって、イオリは創作物であれば、値打ちがあるものは見たり触れることでその価値を感じ取ることができた。
鑑定すればさらに詳細を調べることもできるが、今は分別を最優先にしている。
まずは全ての物品を仕分けることで、家のレイアウトから考えるのを楽しみにしていた。
居住部分と店舗部分の片づけを一通り終えたところで、イオリは工房スペースへと入っていく。
「ここもまた、すごいですよねえ」
掃除だけはすませていたが、ここにはかなりの設備が置かれていた。
大きな窯、作業台、工具類、様々な容器――まるで亡き叔父さんの工房を思わせるような品揃えだと思いながら、それらも同じように分類していく。
「きっと前にここを使っていた方は職人さんだったのでしょうね」
それがわかるような経年劣化は確かにあるが、それでも綺麗に整理されている工具からは大事にされていたのを感じる。
「この工房、大切に使わせてもらいますね」
真剣な顔のイオリは、それらの工具に対して頭を下げる。
大切に使われていたであろうこの場所に対して、彼女は敬意を払っていた。
「とりあえず、ここのものは工具類と、大きな道具類にわけて収納しておきましょうか」
ところせましと物が置かれているこの場所では、作業をするにしても効率が悪くなってしまうため、他の部屋と同じように全てを収納していくことにする。
ひととおりを片付け終えたところで、イオリはあることに気づいた。
「そういえば……お店をやっていて、これだけの工房があるにもかかわらず、倉庫がありませんね……」
通常であれば店に展示する品物だけでなく、それらが売れた場合の在庫を置いておくスペースが必要となる。
しかし、居住区にはそれらしいスペースがなく、店舗部分にも工房にも見当たらなかった。
「となると、どこに……」
ここでイオリは目を瞑って建物の壁に手を触れる。
建物もタンスやテーブルと同じように誰かが作り上げた創作物である。
そうであるならば、この建物の構造を探ることも彼女ならできるはずだと考えていた。
(キッチン……ではないですね。居住スペースにもありません。倉庫があるのは…………ここ!?)
探るように目をつむっていたイオリは屋内の探知を止めてハッとしたように目を開けると、慌てて足元を確認する。
工房は物が多かっため、床掃除を後回しにしたのが裏目に出ていた。
「この布があるせいで……」
巨大な布がじゅうたんのように何枚も敷かれており、床面が見えない状態になっている。
そのため、布の下になにかがあるのが誰の目にもわからないようになっていた。
「早速、収納!」
この邪魔な布をさっさと片付けて、そこになにがあるのか、イオリは早く見たかった。
一瞬のうちにそれらが収納されていくと、床が露わになる。
そこは土間になっており、土の地面がそこにはあった。
「…………あった!」
その一角に、金属の蓋がされている場所があった。取っ手がついており、引き上げる作りになっている。
「ここの下が倉庫になっている予感がします。よいしょ……あれ?」
そう呟いて蓋を持ち上げようとするが、びくともしない。
「う、うーん、こ、これは、重たすぎ、ます、ね!」
全力で、姿勢を変えたりしながら、何度も力をいれてみるがびくともしない。
「もしかして、前の人も開かなくて諦めたのかも?」
ひたすら試して開かないことで、頬に指をあてながら、小首を傾げるイオリ。
それならば納得できるほどに、この蓋は重かった。
「ちょっと、これは重すぎる気がします」
イオリは十二歳の女の子であるが、普段から様々な素材をとり扱っている関係で、かなり力持ちである。
そんな彼女が全力を出しても全く動かないため、なにか特別な素材を使っているのかもしれない。
もしくは開けるためになにか手順やきっかけが必要なのかもしれないと思考を巡らせる。
「――素材鑑定!」
なにでできているのかを確認するためにも、神からもらい受けた便利能力素材鑑定を行使する。
『重オリハルコン製の蓋。魔力を流すことで重量を軽減することができる。神代の素材』
「……えっ?」
鑑定結果を見たイオリは思わずそんな声を出してしまう。
(ちょ、ちょっと待って下さい……重オリハルコン? 普通のオリハルコンでも驚きなのに、重ってなんですか?)
「えっ?」
混乱の結果、再度同じ言葉を口にして驚いてしまう。
彼女の実家は貴族であるため、珍しい物が手に入ることもあり、触れることができなくてもこっそり目を盗んで素材鑑定だけはしてみたことがある。
鉄、銅、金、銀、白金、ミスリル、魔鉄鋼など、ありとあらゆる多くの素材を見て来たが、オリハルコンはもちろんのこと、重オリハルコンなど聞いたこともないほどだった。
「これは、ちょっとレアすぎて緊張するところですが……魔力を流せば本当に軽くなるんでしょうか?」
未知の素材を前に、好奇心が上回ったところで、イオリは手袋をしてから再度蓋に触れていく。
「えっと、まずは魔力を流しこんで……」
魔力があるこの世界で、ずっと蔑まれて生きてきたイオリは自分の魔力量が多いことを自覚していない。
だから、適当にイメージとして自分の持つ魔力の三分の一程度を流し込んでいた。
重オリハルコンが淡く光を纏う。
「これで持ち上げれば――よいしょっと!」
先ほどまでどれほど全身で引っ張っても動かなかったせいで、多少軽くなる程度だと思っていたイオリ。
ここで全力を出したのがよくなかった。
「きゃあああああっ!」
ドガンという大きな音とともに、勢いよく蓋が床から外れてしまい、そのまま吹き飛んで壁に向かって飛んでいってしまった。
イオリが手を離したことで、魔力が解放されて本来の重量を取り戻したそれは、そのまま壁に衝突して大きな穴をあけてしまった。
「あ、あはは、あ、危なかったですね」
大きな扉が壁に突き刺さっているのを見たイオリは頬を引くつかせて力なく笑いながらしりもちをついている。
自分の魔力量を正確に知らない彼女は、想像以上に重オリハルコンの扉が軽くなっていることがわからなかった。
とりあえず蓋は危険なので壁から外した状態で工房の端のほうに安置させておく。
穴の開いた壁に関しては、とりあえず木の板をおいて隠すことにした。
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