第25話


「――なんにせよ私とヴェルさんだけだった家に、マイヤさんとアルさんという二人の仲間が加わりました!」

 想像していたよりもすごいメンバーがそろってしまったが、それでもイオリは裏表のない彼らの純粋な好意がうれしかった。

 肩にはヴェル、右にはマイヤ、左にはアルグロウ――全員を抱きしめるようにイオリは飛び切りの笑顔を見せる。 


「とりあえず、お二人にはこの家についてと、私がどうして魔物を探しに森に行ったのかを説明しておきますね」

 イオリと契約したからなのか、元々そうだったのか、この場にいる全員は知能が高く、イオリの言葉を理解している。


 だからこそ、キチンと説明しておかなければならないと判断していた。


「まず、私自身についてですが……実家を追い出されまして、その後この建物を購入しました」

「ほー!?」

「ふる!?」

「がう!?」

 イオリがあっさりと言い放った内容に、三人は驚いている。


 どの種でも子どもが親に見放され一人で生きていくのは大変である。

 それを追い出されただけでなく、自分自身の力で家を用意したというのは驚きに値した。


「で、この建物でヴェルさんと出会って、森でお二人と出会いました」

 三人の驚きを置いてけぼりにして、イオリは話を進めていく。


「それがここ最近の流れで、森に行った理由としてはこの建物を守る仲間が欲しかったからというのが一番です。ちなみに二番手としては森の様子を見たかったというのがありますね」

 ここでやっと、森にイオリたちが魔物を探しに行った理由がマイヤとアルグロウに伝わることとなる。


「ふるー!」

「がう!」

 すると、二人は契約をしたからというわけではなく、自分たちの意思でイオリとこの建物を絶対に守ってみせると決意した。


「えっと、すごく嬉しいのですが、その、大丈夫でしょうか?」

 守るとなると、相手としては武装した泥棒などが想定される。

 それを相手に、希少種とはいえスライムのマイヤ、そして聖獣とはいえ子どものアルグロウで守れるのかと不安がある。


 なにより、イオリは二人に傷ついてほしくなかった。


「ふーる!」

「ががう!」

 問題ないと自信満々に二人が宣言する。


「では、あまり危ないことはしない程度に、あと休む時はしっかりと休むという条件で守りのほうはお願いしますね」

「ふる!」

「がう!」

 これで、家を守るという点に対する対応がとりあえずできたこととなる。


 もちろんイオリは二人にだけ任せるのではなく、防犯設備を整えようとも考えていた。


「さて、それでは今日はなにをしましょうかね……」

 防衛面における問題は解決できたとなると、次は生活をしていくための収入を考えていかなければならない。

 少しずつ暮らしていくための基盤は作ってはいるが、どれを優先し、なにから手をつければいいのかの選択は重要である。


「とりあえず、私たちの誰かが怪我をすることもあると思いますので、ポーション類は用意しておいたほうがいいですね。あと聖水も」

 少し考えたのち、イオリはポーション類に目を付けた。


 薬草は色々な種類を持っているものの、ポーションにまで加工をしていない。

 薬草は怪我の部位に貼りつけることで治癒効果を増進してくれるが、ポーションにすれば効果が高い。


 そして、商品として並べるのであればポーションのほうが確実に売れ行きがいい。


「となると、次は工房の復活といきましょう」

 せっかく工房があるので、それを使わない手はなく、ポーション程度であれば大掛かりな設備はいらないのでそこから手をつけることにする。


「それじゃ、買い物に行きましょうか。ヴェルさんは行くとして……」

「ほー」

 もちろん、というようにヴェルがイオリの肩にとまる。


「ふるふる」

「がうがう」

 すると、マイヤとアルグロウの二人は留守番をするという。

 人が多い場所に魔物がうろうろしているのもあまりよくはないことにくわえ、先ほどここを守ると言ったばかりであるため、この選択をとる。


「それでは、おうちのことはお願いしますね。行ってきます」

 ふふっと笑ったイオリは二人を留守番に残して出かけていく。


 家の機能のことは簡単には説明しており、食べ物も一定量用意してある。

 そのため、あとは家の警備として二人がどれだけ活躍してくれるかの試金石だった。


「ふーるふるー」

「がうがーう」

 いってらっしゃいとマイヤは体の一部を伸ばして手を振るようにし、アルグロウは尻尾を振って見送ってくれる。


 家には重要なものは特においておらず、地下に関してもイオリが蓋をしておいたため、侵入されたところで困るようなことはない。


 だから、万が一警備に失敗したとしてもなんの問題もない状態にしておいた。


「おうちのことは任せるとして、まずはケイティさんのお店に行きましょうか」

 今回の魔物による警備についてどうなったかの報告をしておこうと考えていた。




「――えっ? 本当に魔物を連れ帰ってこられたの?」

 ケイティの店でイオリが現状報告すると、ケイティは目をぱちくりとして驚き固まっている。

 あのアドバイスは半分冗談で言っており、あの森ならば強い魔物はいないと踏んでいたための言葉である。


「えっ? もしかしてダメでした?」

 ケイティが提案してくれたのに驚いているため、なにかまずいことをしたのかとイオリが確認する。


「いいえ、ごめんなさいね。まさかあなたのお眼鏡にかなう魔物を連れて帰るとは思っていなかったのよ。あの森には弱い魔物しかいないから。家を守るとなれば、それなりの実力がないとだし……それで、イオリはどんな魔物を連れてきたの?」

 緩く首を振ってから謝罪ののち、ケイティはイオリが選択した魔物がなんであるのか質問する。


「えっと、スライムさんと狼さんです。名前もつけたんですよ! マイヤさんと、アルグロウさんです。ヴェルさんも合わせて、四人家族になりました!」

 とびきりの笑顔でそう言うイオリに、ケイティは心を痛め、一瞬悲しい表情になる。


 この年齢の子どもが、フクロウや魔物のことを家族と呼んでいる。

 本来ならば、実の家族と暖かい食卓を囲んでいても不思議ではない。


 それができないからこそ、現在の状態になっている。それはとても悲しいことだった。


「二人とも森で出会ったんですけど、すごく仲良くしてくれてて、今もおうちを守るって言って残ってくれているんです!」

 あの二人が待つ家を思い浮かべ、イオリは帰る時のことを楽しみにしていた。


「そう、いい家族を見つけたのね。ふふっ、そのうち遊びに行くから私にも紹介してちょうだい」

 イオリが魔物たちを大事に想っているのが伝わってきたため、ケイティは自然と笑みが零れていた。

 ケイティはイオリが自分で選んだ子たちならば間違いはないだろうと見守ることに決めたようだった。


「もちろんです! あ、そうだ。今日はポーション作りの道具を用意しようと思っていて、良ければお店を紹介してもらえませんか?」

 この街にずっと住んでいる彼女なら、錬金術師の店を知っているだろうと問いかける。


「ええ、かまわないわ。簡単な地図を書くから待っていてね」

「はい!」

 そう言うと、ふっと笑ったケイティはカウンターの中からメモを取り出して地図を書き始めた。


(やっぱりケイティさんはすごくいい方です!)

 宝石の買い取りから始まり、宿の紹介、そして店舗兼家の手配などなど、これまでたくさん世話になっているため、ケイティに尊敬の念を抱いたイオリはキラキラと目を輝かせていた……。

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