第16話
結局、最後の一台にのっていたのは食材と料理道具、いわゆる包丁やまな板や鍋、そして食器だった。
イオリもある程度自分で買っていたものの、自分で買っていないような細かいものまで用意してくれていたため、ありがたく受け取ることにした。
「ケイティさん、いろいろ揃えていただいてありがとうございます!」
「いいのよ、私がやりたくてしたことなんだから。それじゃ、早速地下室に連れていってもらえる? 一応、その金属でできた蓋っていうのも見せてね」
当のケイティは、簡単に礼の言葉を受け取ると、気持ちは地下室にむいていた。
「わかりました、こちらです」
ヴェルを肩に乗せたイオリはまず工房へとケイティを案内していく。
店舗におかれたベッドなどは一旦そのままにしておいて、ケイティが帰ったら移動するつもりだった。
「えっと、蓋はこれになります。あまり見たことのない素材かと」
そう言って、立てかけてある蓋をケイティに見せる。
イオリは素材鑑定でなんの素材かは知っているが、あえてこのような言い方をしている。
「これね……確かに見たことがないわ。それに、すごく重い」
少し踏ん張りながらケイティが動かそうとしてもびくともしない。
「うーん……イオリはこれをどうやって動かしたの?」
できないことは、やった人に聞くのが一番であるため、困ったような表情で質問を投げかけた。
「えっと、なんとなく魔力を込めて持ち上げたら急に軽くなって……」
その問いかけに対して素材鑑定のことは話さずに、結果だけ伝えることにする。
彼女の『創造』『素材鑑定』『偽装』『収納』の四つの能力。
これらの能力は人に知られないほうがいいため、基本的には誰にも言わないように決めている。
それは恩人であるケイティ相手でも同様だった。
「魔力、ね。それじゃあ……お、重い」
説明されたとおりに魔力をこめてみるが、どうにも重さは変わらない。
それでも全力で持ち上げてみると、最初とは違い、少しだけ動かすことができた。
「はあ、はあ……こ、これはちょっと、私には無理なようね。多分だけど、イオリのほうが私より魔力量が多いのだと思うわ」
「そう、なんですかね?」
イオリ自身に実感はなかったが、彼女の魔力量は常人のそれをはるかに凌駕していた。
それだけの魔力がなければ彼女が行使する数々の能力を使いこなすことができない。
だがそれをまだ知らないイオリはきょとんと首をかしげるだけだった。
「とりあえず、地下室に行きましょうか。先に言いましたけどかなり暗いので、灯りの魔道具を持っていきましょう」
「だったら、これとこれがいいわね。それとこれ」
どの魔道具を持っていくかをケイティが選択して、自分の分を手にして、イオリの分も渡す。
彼女が選んだのは手に持つタイプの魔道具で、かわいらしいものではあったが、地下室の暗さを照らすには心もとない。
「これ、ですか?」
それほど強い灯りの魔道具に見えないため、イオリは首を傾げてしまう。
「イオリのほうは、地下に到着するまでに足元を照らすもの。地下を照らす灯りは私が持っていく魔道具が役立つはずよ。行けばわかるから、早速出発しましょ!」
急かすようにケイティはイオリの背中を軽く押していく。
「わ、わわっ、わかりましたから、お、押さないでくださいいいい」
イオリはなんとか抵抗しようとするが、体格差によってあっという間に階段前まで連れてかれてしまう。
「さ、案内してちょうだい」
早く下に降りてみたいケイティは悪びれる様子もなく笑っている。
「……わかりました。でも危ないので階段では押さないで下さいね」
「ふふっ、わかっているわよ」
不満そうなイオリに対して、ケイティは楽しそうにしていた。
もちろんそこからはおふざけなしで、二人は慎重に階段を下っていく。
「えっと、ここが一番下になります」
到着したところでイオリがそう伝える。
広大な空間に声がひびき、すぐに飲み込まれて消えていく。
暗闇が広がっていて端が見えず、イオリが持っている魔道具の灯りは闇に飲まれて、数メートル先までしか照らせていない。
「確かにこれは、すごいわね……」
聞いてはいたものの、実際にこの広さを目の当たりにしたケイティもさすがに驚いていた。
「そうなんです。ここの奥のほうで、ヴェルさんの卵を見つけたんですよ」
「ほー」
そうなんだよ、とヴェルが同意の声をあげる。
「なるほどね。とりあえず、まずはこの暗さをなんとかしましょう。私の魔道具を……」
ケイティは、少し大きめのランプ型の魔道具に魔力を込めていく。
すると、ぼんやりと光を放っていく。
しかし、この暗い地下空間を照らすほどの光量はない。
「あ、あの、この魔道具は?」
これでは、イオリが手にしている魔道具のほうがまだ明るいと思えるほどである。
「ふっふっふ、大丈夫よ。ちょっと見ていてね」
先ほどは上から魔力を込めて、今度は左右から挟み込むように持って魔力を流し込んでいく。
「これで準備は完了。これを、こうして」
ケイティは両手で持つと、何度か上下に勢いをつけるように振っていく。
「それっ!」
そして、思い切り魔道具を天井に向かって放り投げた。
彼女の筋力をはるかに超える勢いで飛んでいく理由は、魔力が込められたことで天井に向かう推進力を得ているためである。
「す、すごいです!」
暗闇を切り裂くように、ぼんやりとした灯りが高く高く飛んでいく。
そして、ビタンという音とともに天井に吸着していた。
位置的には部屋の全体を照らし出すのにちょうどよかったが、やはりぼんやりとした灯りでは魔道具の周囲を照らす程度の力しか持っていない。
「まだよ。もう少ししたら……」
今はまだ夜空に光る星を見ている程度の明かりしかないが、確信を持った様子のケイティはなにかを待っている。
待つこと十秒ほどで魔道具に込められた魔力が一気に膨らむ。
「きたきた!」
「わ、わわわっ! あ、明るいです!」
先ほどまで小さな光だったそれはまるで太陽が昇ったかのごとく、地下室じゅうを照らし出すほどの強力な灯りが魔道具から発せられていた。
「ふふっ、これはね二つの魔道具から作られているのよ。一つは最初に見たように、投げられた方向に進んでいって到着した場所にはりつく機能。で、もう一つは強力な灯りを放つというシンプルなものなの。ちょっと発動に時間がかかっちゃうのがネックなんだけどね」
いたずらっ子のように笑ったケイティは想像通りの結果が出せて満足そうだ。
ケイティが強力というように、隅々までが照らし出されており、地下空間の全体像が見えるほどになっていた。
どこまでも見渡す限りに広がる空間は、闇に閉ざされていた時はわからなかったが、ヴェルがいた藁があるエリアは部屋の真ん中のあたりだったようだ。
「にしても、これはほんっとうにものすごく広いわね。空間魔法で作られたにしても広すぎるわ」
圧倒的な広さにケイティも驚いている。
「本当に……」
一度来たことのあるイオリだったが、全体像がみえたことで改めてその広さを実感していた……。
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