第27話


 買い物を終えたイオリとヴェルは食材を購入してから、家路につく。


 ガチャっと入り口の扉を開けると、入り口にはマイヤとアルグロウが待機していた。


「ふるー!」

「がう!」

 二人はおかえりなさいと、元気よくイオリたちを迎えてくれる。


「ふふっ、ただいまです。出かけているあいだ、なにも変わりはありませんでしたか?」

 ただいま、といえる存在ができことがうれしいイオリはそう言って笑う。

 特に見る限りでは問題があった様子はないが、念のための確認だった。


「ふーるふる!」

「がうがう!」

 二人とも元気よく問題はなかったと宣言する。


 実際、来訪者の一人も、ここに近づく者もおらず、平和に空気が流れていた。

 家のカギに冠してはマイヤが開けることができ、外で遊んだりもしていた。


「それはよかったです。お二人になら、ここを任せられますね。とても良い出会いでした!」

 普段から森にいる魔物が、いつもどおりに生活していれば二人のことを見逃していたかもしれない。


 しかし、今回のような特別な状況であったがゆえに、マイヤとアルグロウと出会うことができた。


 トラブルはあったものの、結果としてはよいものだったとイオリは笑顔になる。


「ふるふる!」

「がうがう!」

 二人も、イオリと会えてよかったと主張している。


「ほーほー!」

 こっちも同じだ! と羽を広げるヴェルもアピールしていた。


「うふふっ、みなさんそう思ってくれてよかったです。嬉しい気持ちになったところで、ご飯を作りましょうか」

 四人分の食材を仕入れてきているため、イオリは料理にとりかかる。


「ほー!」

「ふる!」

「がう!」

 三人は三人ともイオリが作る料理を楽しみにしていた。


「それでは、少しお手伝いをしてもらいましょうかね」

 もちろん動物や魔物である三人ができることは限られている。

 しかし、イオリは家族だから一緒に協力していこうと考えていた。


「ヴェルさんは各部屋のカーテンを閉めてきて下さい」

「ほー!」

 了解だ、とさっそくヴェルが窓際へと飛び立っていった。


「次に、マイアさんには食材の端切れの処理をお願いしてもいいですか?」

「ふるー!」

 これはスライム特有の能力である「消化」の力が役に立つ。

 体内に取り込んだものを消化してエネルギーだけを吸収することができる。


 消化の力を攻撃に使用したものが「酸液」であり、それを飛ばすことで対象を溶かす攻撃である。


「最後に、アルさんには荷物運びを手伝ってもらっていいでしょうか? 思っていたよりたくさん買い込んでしまったので……」

「がう!」

 マジックバッグに入れられるものがほとんどだが、出しておいた方がいいものもたくさんある。

 引っ越してきたばかりの買い物というのは思っていたより買ってしまうもので、荷物を一人で運びきれない。

 そこでこの中で一番力があるアルグロウに荷物運びを手伝ってもらっている。


「さて、私もがんばりましょう!」

 エプロンを見にまとい、腕まくりをしたイオリは野菜を切るところから始めていく。


 一時間ほどで完成することとなったが、いつもより気合が入っている様子で、スープ、パン、煮魚、ステーキが用意された。


「……ちょっと多く作ってしまいましたかね?」

 食事用のダイニングルームにそれらは並んでおり、ヴェルとマイアにはカットした肉とスープとミルクが用意されている。


「ほーほー!」

「がうがう!」

 美味しそうだと二人は感動している。


「マイアさんにはこちらをどうぞ」

 皿の上に綺麗に現れた石がいくつかおかれる。


「ふるーー!」

 一見すればただの石に見えるが、マイアはそれを見てテンションがあがっているようだった。


「喜んでくれているみたいでよかったです。スライムさんがなにを食べるかよくわからなかったのですが、前に本でなんでも食べるとあったので、これにしてみました」

「ふるふる!」

 最高だよ! とマイアは喜びに打ち震えている。


 これはただの石ではなく、イオリが直接魔力を込めた石であり、魔力石になっている。

 空気中の魔力を吸収することで栄養とするスライムは、このように直接魔力を接種できるのはなによりのごちそうであった。


「それでは、みなさん、手と手を合わせて……いただきます!」

「ほーほー!」

「ふるふる!」

「がうがう!」

 イオリの言葉に合わせて、それぞれの言語でいただきますと言っていく。


 そこからは食事が始まり、それぞれが感想を言いながらすすんでいく。

 実家にいた頃は、家族みんなでテーブルを囲んで、談笑しながらの食事などというものを経験したことがなかったため、夢のような環境を前に、イオリは自然と頬がゆるんでいた。


 かなりの量を作ってしまったとイオリは思っていたが、最終的には全ての皿が綺麗に空になっていた。


「ふう、お腹いっぱいです。ごちそうさまでした」

「ほー……」

「ふるー……」

「がうー……」

 四人とも満足して、それぞれごちそうさまの挨拶をする。


「……洗い物をしないとなのですが、どうにもお腹がいっぱいで動きたくないですね」

 イオリは珍しく自堕落な発言をする。


 お腹だけでなく、気持ちも満たされた食事の経験が少ないため、幸せが彼女を包んでいるためのもので、その余韻に浸って居たかった。


「ふるふるー!」

 だったら、任せて! と、マイアが身体を伸ばしてテーブルに乗っている皿たちを全てぺろっと飲み込んでいく。


 身体の中で食器がぐるぐるとまわっていき、綺麗になったところでテーブルの上に積み重ねられていった。


「こ、これは……」

 イオリは一枚を手に取ると、皿の状態を確認していく。


 つるつるで油汚れもなく、下手をすれば手に入れた時よりも綺麗になったのではないかと思わされる。


「すごい、すごいです! これはマイアさんが汚れの部分を取り込んで消化したんですね!」

 あまりの綺麗さにイオリは感動してマイアを抱き上げて頬をすり寄せた。


「ふるふるー」

 すると、マイアは嬉しそうに身体を震わせていた。


「ほほー」

「がーう」

 ヴェルとアルグロウも同じように、マイアのことを褒めたたえていた。


「一応軽く水で流しますが、汚れが落ちているのですごく楽ですね。ありがとうございます!」

「ふるー!」

 大したことをしたつもりでなかったマイアだが、大好きなイオリがとてもうれしそうなのを見て、少し照れたように赤くなって震えていた。

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