第18話
翌日
「ほーほー」
器用にカーテンを開けて朝日をイオリにあてたヴェルがベッドのほうへ飛んでいくと、目覚まし代わりに彼女を起こす。
昨日は下の階で寝ていたが、今日はイオリのベッドの隣に置かれた、ヴェル専用の小型ベッドで寝ていた。
「うーん、ヴェルさん……今日も起こしてくれてありがとうございます」
ぐぐっと伸びをしながらゆっくりと起き上がったイオリもふかふかのベッドで眠ることができたため、今日はスッキリとした目覚めである。
昨日、ケイティが帰ったあと、持って来てくれたものは一旦全て収納していた。
そして、ベッドなどの必要なものだけ取り出して設置している。
「ほーほー」
当然のことだから気にするな、とヴェルは頷いて見せる。
「さてと、今日は色々と作っていきたいですね」
にっこりとヴェルに笑いかけたイオリはベッドから起き上がると髪を結いあげて気合を入れる。
修繕に関しては大きなところは昨日のうちに終えている。
だから、なにか作るという、生み出す行為をしたかった。
「……にしても、一人で暮らしていくことを考えるともう少し安全面を意識しないとですね」
色々何をしようかと考えた中で、イオリがふと気になったのは対人関係だった。
ここに住んでいるのはイオリとヴェルだけであり、しかも周囲の家からは離れているため、人通りもほとんどない。
その状況にあって、ケイティだけでなく業者にもその現状を知られることになった。
人の口には戸が立てられないため、ここにイオリが住んでいることが徐々に広がっていけば、それだけこの場所を狙ってくる者がいるかもしれない。
そう考えると、もう少し防犯面にも色々と考えを巡らせたほうがいいと思われた。
ケイティが善意で色々尽くしてくれているのはわかっているため、そのことに関しては自分で対策を立てようと決めた。
「となると、方法は二つですね」
そう言いながらイオリは指を二本立てる。
「ほー?」
どんな方法なのかわからないため、ヴェルは首を傾げている。
「一つ目は、このおうちを守るための防衛設備を整えること。侵入者に反応する警報だったり、魔法の結界だったりそういうものですね」
それらによって、誰にもこの家に立ち入れないようにする。
もちろん、昼間は外出時以外は機能をカットしておくこととなる。
「ほー、ほほー」
なるほど、それなら安全だね。というような意味合いの言葉を返している。
「二つ目は、護衛を探すということですが……」
こちらも聞けば当然の案だが、イオリの表情は芳しくない。
「ほー?」
どうかしたの? とヴェルは首をかしげながら質問する。
「うーん、防衛設備は道具と時間があればなんとかなると思うんですよね。でも、護衛はさすがにアテがなくて……」
イオリの表情がぱっとしないのはその一点がどうしても自分だけでは解決できないことだったからだ。
強くて、信頼できて、秘密を守れる――そんな都合のいい人物はさすがに思い当たらない。
「一応ケイティさんに聞いてみましょうか……」
結局、まだまだツテを持っていないイオリには頼る相手が一人しかいなかった。
「悪いけどそんな都合のいい人なんていないわ」
そして、彼女の店を訪ね、質問するなり、申し訳なさそうだが、きっぱりと気持ちのいい返答がやってきた。
「ですよね!」
さすがのケイティでも、そのような人物に心当たりはない――イオリの予想どおりだった。
「闇のルートだったら、奴隷なんていうのもいるみたいだけれど、さすがにそんなところに手を出すのはあまり褒められたことではないわ」
ふう、と息を吐きながらケイティは首を振る。
そのようなことを友達であるイオリに進めたくはないし、イオリもそれを受け入れようとは思わない。
「となると、やはり道具で解決しないと……」
仕方ないため、イオリは防衛設備を作る方向に頭を切り替えていく。
「うーん……」
しかし、ケイティはなにか考えていることがあるらしく、腕を組んでヴェルのことを見ていた。
「ケイティさん、ヴェルさんがどうかしましたか?」
あまりにジッと見つめているため、なにかがあるのかとイオリが質問する。
「ヴェル君って、イオリに懐いているわよね? もちろん、生まれた時に目の前にいたというのもあるだろうけど、それにしても……」
ヴェルは今もイオリの肩にとまっており、朝も起こしてくれて、いつも一緒に行動をしている。
「そう、ですね。ヴェルさんは仲良くしてくれています」
「ほー」
それは間違いないとヴェルも頷いている。
「もしかしたら、あなた動物や魔物に好かれ特性があるのかもしれないわね」
「……そう、なんでしょうか?」
そんな風に言われても、イオリはピンときておらず首を傾げてしまう。
「ほー?」
ヴェルも特にそんな感覚を受けてはいないため、イオリと同じように首を傾げている。
「うふふっ、あなたたち似ていて可愛いわね。まあ、それは置いといて……さっきの話に戻るけど。もし、あなたの魔力が動物や魔物に好かれるものなのだとしたら、魔物に守ってもらうのもありかもと思っただけよ」
くすくすと口元に手を当てて笑ったケイティの言葉をきいて、イオリもなにか閃いていた。
「なるほど、それは確かにありかもしれませんね……ヴェルさんが私に敵対心を持たないのは、恐らく最初に魔力をあげたからで、ということは他の魔物さんにも魔力をあげれば……」
魔力がキーになっているのであれば、その魔力をうまく渡すことができればなんとかなるかもしれない。
イオリはそう結論づけると、頭の中で色々考え始めていく。
「まず、私の魔力を相手に知らせるには……」
ぶつぶつ言いながら思考モードに入ってしまったため、イオリはすっかり外の声をシャットアウトしてしまっている。
「ねえ、イオリ? ……ってダメね」
ケイティはわかっていて声をかけてみるが、もちろん反応はない。
「ふう、仕方ないわね。イオリは、ここに座ってもらいましょ」
思考の海に沈んでいて無防備な彼女の身体をゆっくりと誘導して、店の中にある椅子に座らせていく。
体を動かされていても、敵意がないためかおとなしく彼女は誘導されるまま動き、考え込んだままだ。
「さて、ヴェル君。仕方ないからイオリがこっち側に帰ってくるまで、お茶でものみましょう。お菓子もあるわよ」
「ほー!」
それはいいね、と二人はしばしのティータイムを楽しむこととなる。
今日はケイティの店に来客はなく、静かな時間が進む。
「――はっ! つ、ついつい、考えることに集中してしまいました……」
結局、イオリが戻ってくるまでに三十分ほど時間が経過していた。
「す、すみませんでした!」
そして、つい自分のことばかりになっていたことに気づいたイオリはケイティとヴェルに謝罪をする。
「うふふっ、いいのよ。それより、イオリもお茶をのみましょ」
周りに振り回されず、自分のことを考えられるようになったイオリのことをうれしく思うケイティはなにも気にした様子もなく、新しく紅茶を入れたカップを彼女の前に差し出す。
「あ、ありがとうございます」
そんなケイティの気遣いにふにゃりと笑顔になったイオリは温かい紅茶を口にし、リラックスした。
こんな風に、些細なことを気にせずにいられる関係だからこそ二人の仲は続いていた。
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