第13話 地竜の巣穴-追放したパーティリーダー視点-


「遅いぞ!! 新入り!!」


 Cランクダンジョンの『地竜の巣穴』。

 そこはギラン達がいつも潜っているダンジョンだ。


 地竜は、空を飛翔することができないドラゴン種だ。

 他のドラゴンよりかは大分弱いが、それでも並みの冒険者が太刀打ちできるモンスターではない。

 危険だが、最下層にいるモンスターなので、地下十階程度ならばまず遭遇しない。

 だから、安心してガンガン進むことができる。

 それなのに、新人の歩みが緩慢だ。


「……すいません。あの、一回止まってもらっていいですか?」

「はあ? またかよ?」


 レイリーという欠員が出たため、すぐにでもパーティに加入できるという若い男の魔術師を俺達はスカウトした。

 募集したのだが、立候補者は出てこなかったのだ。


 レイリーの人材オークションの時に、目立ち過ぎたせいかもしれない。

 どうやらあの一件で『ドラゴンクロー』の悪い噂が出回ったらしい。

 全然集まらなかった。


 だから、こちらから直々に声をかけてやったのだ。

 スカウトした時は威勢が良く、役に立って見せるからと豪語していたので、こちらとしても期待していた。

 だが、ダンジョンに潜る内に、どんどん雲行きが怪しくなってきた。


 レイリーのような欠陥魔術師とは違って、Cランク魔術師。

 使える魔法スキルも十をゆうに超えていて口は達者だったので強いと思いきや、肩透かしもいいところだった。

 ひたすらに弱い。

 もしかしたら、レイリーの方がまだマシだったんじゃないかっていうぐらいに、使えないのだ。


 まだそれだけなら、パーティになって初日なので、この偉大でBランクパーティ目前であるCランクパーティに入って、緊張しているせいか、それとも体調が悪いのかは分からないが、ともかく本調子ではないのかな、と。

 優しい気持ちで見守ることができる。


 なのに、さっきから止まってばかりで、全然進まないのだ。

 立ち止まるのは、やる気がないだけじゃないんだろうか。


「……そもそも、マッピングと報告書を同時に書きながら、戦闘をするって無理なんですよ。あの、やってもらってもいいですか? 少しぐらい役割分担した方がいいですよね? 本当に、どれか一つでもいいんです。明らかに俺だけ仕事量多いですよ?」

「はあ? 新人なんだからそれぐらいやって当たり前だろ。口答えすんな」


 口だけは達者だ。

 やった事はないが、簡単に決まっている。

 ちょっと文字を書くなり、地図に線を書くだけだ。

 できない方がおかしいのだ。

 それに、新人は仕事が厳しいのは当たり前だ。


「そ、それだけじゃなくて、料理や野営の準備まで俺ってなんでなんですか?」

「はあ? そんなの新人がやることに決まってるだろ。まっ、元々いたFランク冒険者だってできたんだ。お前だってできるだろ? 一人でさ」

「…………」


 料理もまずいもんだった。

 料理なんてまともにしたことはないが、簡単だろ?

 ちょっと調味料を使って、ちょっと火を使えば誰だってできる。

 そんなこともまともにできないなんて、一体今までどんな温い冒険をしていたのだろうか。


 料理がうまくなくちゃ、英気を養えない。


 レイリーだって毎回違う献立の料理を作れたし、味付けだって冒険者ギルドで出される料理と遜色なかったのだ。むしろ、その辺の料理屋よりも美味しい料理を作れていた。

 役立たずはそのぐらいのことできて当然なんだ。

 戦闘面で役に立てないなら、上手い料理ができるのが最低限。

 褒めることにすら値しない。


「お前さ、本当にCランクか? Fランクだって、それぐらいできたぞ」

「できますよ。できますけど、同時に何個も作業できないですよ」

「言い訳するなあっ!!」


 グチグチグチ、と。

 そんな愚痴を重ねられたら、こっちが滅入る。

 できない言い訳をするよりも、できるようするためには何が必要か。

 それを明確化して、努力して欲しいもんだ。


 できないんじゃない。

 できるまでやらなきゃだめだ。

 そんなことも分からないらしい。

 これだから新人は。


「そもそも、お前、戦いだってちゃんと参加していないだろ。もっと積極的に攻撃しろよ」

「……攻撃しようにも、あなた達が壁になって攻撃できないんですよ。掛け声とか、ハンドシグナルとかを使って、モンスターの横に行くか、後ろに下がるとかしてもらえません? なんであなた達は連携を取らないんですか? 連携を取らないのに、パーティでいる意味あります?」

「お前が俺らに合わせればいいだろ。そのぐらい言われる前にやれ!!」


 新人の癖に意見なんて数年早い。

 戦い方を考えたり、指示を出すのはパーティリーダーの役目だ。

 ちゃんと攻撃するべき時は指示している。

 それで攻めあぐねているのは、新人の責任だ。


「……せめて、モンスターを解体する時間ぐらいくれませんか?」

「はあ? なんでだよ? 《遅延》を使ってるからいいだろ」

「俺の《遅延》は持って数時間です。半日以上遅延を使える奴なんてBランクにもいないですよ」

「はあ? そんな訳ないだろ? Fランクですらできたんだぞ?」

「……前にいた人、Fランクだったんですよね? それって本当ですか? Fランクって、有り得ないと思うんですけど。もしかしてあなた達が、手柄を横取りとかしてたんじゃないですか」

「お前、何言ってんだ!! そんな訳ないだろうが!! むしろ、足手まといだったんだよ!! あいつは!!」


 足手まといだったレイリーだったが、この新人よりマシに思えてきた。

 一々、五月蠅すぎる。

 レイリーも口答えはしていたが、これほどではなかった。

 レイリーは戦いに関しての自分の意見などが多かったが、新人は別の種類での苦言が多い。

 ズケズケ失礼なことを言い過ぎる。


「言い訳ばっかりだな。だけど、立ち止まるのはなしだ。もっと稼がないといけないんだよ」


 ダンジョン探索が、空振りに終わることだってある。

 だが、二日連続で稼げないことだけは避けたい。

 新人を雇うのだって、金がいるのだ。

 稼げないと苛々してくる。


「……あなた達って、他のパーティに参加したことありますか?」

「は? ないけど? それが?」

「いいえ、別に……」


 新人の文句ありありの態度に腹が立つ。

 さっきからできないの一点張りだ。

 協調性がまるでない。


 ああ、そうか。

 分かった。

 だから、こいつは声をかけた時、一人だったんだ。


「大体さ、お前なんでパーティ組んでないんだよ。特定のパーティにいない、お前の方に問題があるんじゃないのかよ!!」


 そもそもソロで、いきなり声をかけて承諾する奴は、どこのパーティにも入れなくて焦っている奴じゃないのか。

 ソロでいる奴なんて、パーティの意向に従えないクズだ。

 Sランクのように他人が足手まといになる奴以外は、やはり問題を抱えている奴しかいない。


「そこまで言われう筋合いないですよ。あの、辞めさせてもらいますね」

「ああ? 何言ってんだ? そんな簡単に辞められるわけないだろ?」


 少し怯む。

 ここで辞めてもらったら困る。

 また雑用を俺達がしなければならないし、悪評広まってしまう。

 なんて自分勝手なんだ。


「あんたら他人の悪口を言うだけで、実際に何もしていないだろ!! 連携の取れていない戦い!! 戦闘以外のサポートもしない!! ダンジョン探索の前準備は全部新人任せ!! あんたらについていく奴なんて何処にもいないぞ!!」


 チッ、と舌打ちをしてしまう。


 堪え性がないにもほどがある。

 少し厳しくしたら、口答えしてくる。

 若い新人に声をかけたのが間違いだったかも知れない。


「中途半端に投げ出すなよ。まだダンジョンの途中だぞ? 無責任にもほどがあるだろ!!」


 せめて、ダンジョンから帰還してから抜けたいと言い出すならまだ分かる。

 それに、こちらからクビを言い渡さずに、先に言われたのも腹立つ。

 まるでこっちが悪いみたいになる。


「そもそもここからダンジョンに戻れるのか? お前一人で?」

「あんたらと一緒にいる方が危険だよ。一人の方がまだ安全にダンジョン探索できるって、誰だって思うはずだよ」


 そう言って背を向ける新人が潔すぎて、何か言ってやらないと気が済まなかった。


「あのなあー。ここより楽な所なんてないぞ? ここで通用しなかったら、お前はどこに行っても通用しないんだよ!!」


 叫んでやったが、何の反応も示さなかった。

 最後まで気に喰わない奴だった。


 すると、横からミレイユが窘めてきた。


「……もう少し、優しく接してあげた方がいいんじゃないの?」

「駄目だ!! 優しくしたらその分つけあげるんだよ!! 新人は最初にバシッと言って、上下関係を分からせないとパーティとして壊滅する……」


 あの程度のことしか言っていないのに、すぐに逃げ出すような奴はどうせ長続きしない。

 いかに最初に教育してやるのかが重要だ。

 自分の手足のように動くよう、新人には教育が必要なんだ。


「しかし、ギラン殿。これから、我々はどうすればいいのであるか? やはり、我々以外に誰か雇わねば、ダンジョン攻略は難しいと思うのであるが」

「そうだよ……。私達が、なんでFランク冒険者みたいな雑用しないといけないの? もう嫌だよー」

「はあ? 人に訊く前に、お前らも少しは考えろよ!!」


 ロウもリップも馬鹿みたいに質問するだけで、自分で考える力もない。

 結局、有能なのは自分だけだった。


「……どいつもこいつも俺頼りか」


 やはり、ギランがいないと始まらないのだ。

 このパーティは。

 それが分かるとムクムクとやる気が湧いてくる。

 悪いのは自分じゃないと思える。


「まともな奴をまた採用すればいい。今回は口だけの、たまたま使えない奴だっただけだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る