第9話 ドSの旅人達と食べるバイコーン肉(1)
俺はフライパンを振るっていた。
元々料理は道中でする予定だったので、料理器具一式は揃っていた。
なので、スムーズにバイコーンのステーキを焼けていた。
二人ともお腹が減っているようだったので、凝った料理ではなくシンプルな料理にした。
バイコーンはステーキにした。
塩コショウかけて、ハーブやらキャロットを添えたものを皿に乗せて出しただけだ。
「す、凄いですねえ。料理できるんですね」
「冒険者になったら誰でもできるようになりますよ」
第一印象大人しそうだった人は、ウキウキしながら受け取った。
ちなみに今はやべぇ奴。
俺は、元々『ドラゴンクロー』では料理も担当していた。
五人分の料理をほぼ毎日作っていたので、これぐらいだったらすぐさま作れる。
俺じゃなくても普通に冒険者をやっていれば、料理は覚えるものだ。
ダンジョン探索に野営は必須だ。
勝手に料理が出てくるレストランなんて、ダンジョンにはない。
しかし……。
料理を作る際に誰が作るか聴いたら、全力で二人に目を逸らされたんだけど。
あの速さ、面倒というより料理に自信ないようだった。
肉を提供して、さらには料理まで俺がやった。
手持ちの食材がないのはしょうがないとして、正直、料理ぐらいはやって欲しかった。
ステーキ肉にしている時に、ずっと涎たらしそうなぐらい見つめられている時は、やりづらくて仕方がなかったし。
家でも料理しないのか。
二人ともやるタイプには確かに見えないけど。
誰かに作ってもらうのに慣れているように見える。
「お二人の名前を訊いてもいいですか?」
もう一人にもステーキを乗せた皿を渡すと、俺は質問した。
料理の最中は料理に熱中していたし、何やら二人でコソコソ話していたから訊くタイミングがなかった。
飯を食いながら無言になるのも気まずいので、質問を投げかけてみる。
「も、申し遅れました。ワタクシの名はシャンデリアと申します。周りの方からはシャンデと呼ばれているので、シャンデと呼んでください。そして――」
「私の名はリュミエール。リュミが愛称です。どちらでも呼びやすい方で呼んでください」
コカトリスの串焼きが食べたくて、第一印象大人しい人の名前が、シャンデ。
それを守護していた剣の使い手で、少し気が強そうな人の名前が、リュミか。
「あ、俺はレイリーと言います。俺から名乗るべきでしたね」
軽い自己紹介は済んだ。
さてと。
まずは、一番気になっているところから質問していこう。
「それで二人はどうしてこんなところに?」
「……私達、道に迷いまして」
「………………」
「………………」
シャンデと俺は黙る。
ここにいる理由じゃなくて、ここにいる目的が訊きたかったんだけど。
もう一度同じ質問するのも何だしな。
すぐさま聞き返せば良かったのに、間が開いたせいで聞きづらくなってしまった。
「お肉美味しいですねー」
「ほんとだ。香辛料がいい味出してます!! もっと食べましょう!!」
「そ、そうですか」
二人は膝を突き合わせながらご飯を食べている。
距離感の近い女子っているけど、この二人は極端だった。
フーフーさせて、アーンまでしている。
リュミは中性的で美形の男に見えるし、シャンデは女性らしい仕草をしているから絵になる。
二人きりで冒険するなら、そりゃあ仲良くもなるか。
俺も二人に倣ってステーキ肉を頬張る。
味付け完璧。
シンプルイズベスト。
自作のソースをかけて食べるのも好きだけど、野外で草に囲まれた場所だと複雑な味にしない方が美味しく感じる。
「うん! 美味しい!」
美味しく食べられる肉の部位の切り分けや、筋切りを間違えなければ不味くなることはまずないが、美味しくて良かった。
ただ、分かりやすいぐらい雑にはぐらかされた気がする。
言いたくないのなら、話題変えるか。
「俺はこの先のFランクダンジョンに行くつもりだけど、二人はどうするつもりなんですか?」
「…………」
「…………そうですね。霧も徐々に晴れてきていますし、私達もそのダンジョンまでお供したいです。そしてできれば、案内をお願いしたい」
二人は見つめ合って、リュミがそう切り出してきた。
話し合っていないってことは、ダンジョンへは最初から行くつもりだったらしい。
だが、案内をしろ、か。
嫌だなあ。
今は一人でいたいんだけど。
何も考えずに、風や草木といった自然を肌で感じていたい。
「そ、そんなこと言われても……」
「金なら払う。勿論、このバイコーンの肉は今すぐ払おう」
「いや、いいですよ、いいです」
うわっ、と自分で使っておきながら使い慣れていないのか、アイテムポーチからリュミは袋を取り出した。
袋の紐を緩めると、そこには様々な種類の貨幣が入っていた。
別大陸で使われている紙幣まであって、製造さればかりなのか折り目もついていないものまである。
こんなところでポン、と出していい金額じゃない。
金銭感覚狂っているとしか思えない。
金持ちで、しかもイースト大陸の人じゃない?
だけど、遠くの人間で旅に慣れていたら、あんなところで行き倒れていないよな。
謎が深まるばかりだ。
「いいからこれだけでももらってくれ。料理まで我々に振舞ってくれたのだ。金を受け取ってもらわないと、こちらも心苦しいのだ」
「いいです、いいで、あっ、じゃ、もらいます」
あんまり断ると本当にただ働きになりそうなので、手渡しでもらう。
普通に冒険者ギルドで売買する倍以上の金額を貰ってしまった。
浮いた金は引っ越し費用に充てよう。
やっぱり、人助けをするって気持ちいいもんだな。
案内をするのはお金貰ってないし、やるつもりはないけど。
「あの。ちょっといいですか。できれば、ダンジョンに潜る前に、宿を確保した方がいいと思いますよ。装備品や食料品の補給をしてからダンジョンに行かないと命に関わります」
上から目線になってないよう、言葉を選ぶ。
初対面だけど、ここまで関わってしまった以上アドバイスの一つはしたい。
ギランからはいつも口うるさいと言われていたから、あんまり他人の考えに口出ししたくない。
それに精神的に疲弊しているから、他人とも極力関わり合いたくないんだよな。
キッチリと閉じられている両膝に、ポン、とシャンデが両手を置く。
「どうしましょうか?」
「レイリーさんの言う通り、確かに拠点地を設けるべきですね」
「そうねぇ……。一週間ぐらいいますか?」
「そうですね。一週間ぐらいだったら大丈夫でしょう。できれば、宿屋がある所で休みたいですね。安心したら眠くなってきました。――フワァ」
いや、子どもか。
嚙み殺し切れていない欠伸をするリュミ。
その仕草可愛いけども。
「もしかして、二人は旅人なんですか?」
「旅、人、なんですかね。うーん。旅はしていますから、そうなんでしょうね……?」
シャンデの煮え切らない答えに、質問は重ねる。
「冒険者じゃないんですか?」
「冒険者じゃありません。ただ旅を続けているだけです。日銭は……どう稼げばいいのか考え中です」
転職活動中って感じか?
俺と同じ境遇みたいだ。
そう捉えると、何だか一気に親近感が湧いてきた。
「大道芸人とか、吟遊詩人とか、商人とか。お金を稼ぐのも色々方法があると思いますけど」
自分で言いながらだが、二人を見ているとどれもしっくりこない。
失礼だけど、どれもできなさそうだ。
やっぱり、農家とかもだが、経験が物を言う。
前は何をしていた人なんだろう。
そもそもどういう人物かも知らないのだ。
「お二人は何ができますか?」
「弓矢ですね」
「剣です。戦えます」
「へー、そうなんですねー」
答えが簡素過ぎる。
全然情報が入ってこない。
とりあえず、戦うことができる二人ってことか。
ダンジョンですら無い所で苦戦してたのに、よくそんな自信満々に戦えるって言えたな。
「レイリーさんは冒険者の方ですか?」
「え、ええ、まあ……」
一応、まだ冒険者といっていいだろう。
あと一週間ぐらいで辞めるつもりだけど。
「Fランクダンジョンに挑戦するって仰っていましたね? もしかしてFランク冒険者なんですか?」
「え、ええ。まあ、そうですね」
ああ、そういえば、Fランクダンジョンって言ってたんだった。
言わなきゃよかったな。
ランク低い奴イジりされそうで怖い。
初対面でこっちは探り探りなのに、シャンデって人、根掘り葉掘り聞き過ぎだろ。
俺もあんまり自分のこと言いたくないんだけど。
俺のことを掘ってもダメな所しか出てこないよ。
「あんなに強いのにFランクなんですね!?」
「ま、まあ、色々事情はあるんですが、魔法スキルを一つしか使えない魔術師なんて、Fランクにしかなれないんですよ」
「あっ……」
「流石に色々といきなり訊き過ぎですよ、シャンデ様」
「そ、そうですね。本当に申し訳ありません。猛省します」
「いや、いいんですよ。弱い俺が悪いんですよ」
謝るなよ。
謝られて悲痛な顔されてダメージ受けてるのはこっちだぞ。
つ、辛い……。
人助けしたっていうのに、なんでこんな目に合わないといけないんだ。
「お仲間の方はいらっしゃらないのですか?」
ぜ、全然猛省してなあいいいいいいいい。
こ、この人、分かってて言ってませんか?
実は俺のこと知って、傷口抉って内心ほくそ笑んでませんか。
実はドSだったりしません?
Sランク冒険者じゃないけど、ドSの旅人だったりしません?
「い、いませんよ……」
「? どうしてですか?」
これ以上、地獄を味合わせないで欲しいんですけど。
俺は助けを呼ぶためにリュミを見るが、視線が合わない。
キャロットを話に夢中なシャンデの皿にこっそり乗せていた。
好き嫌いすなっ!!
栄養バランス考えて、野菜出しているんですけど!!
今は大丈夫でも、二十代超えたら脂っこいものばかり食べてたら気分悪くなるからね!!
リュミがさっきから子どもっぽいせいで、俺の中のオカンが目覚めたんだが!!
「……そうですね……」
言いたくないことだけど、もう言おうか。
話逸らしたいって思ったけど、ここまで興味持たれると話したくなった。
自分の今の状況を。
相談とかじゃなくて、愚痴っぽくなるけど。
まだ肉は残っている。
食べながらでいいだろう。
どうせ、この二人とはもう会うこともない。
アリアやベルとかはまだ冒険者ギルドとかで会うかもしれないから言えないけど、この二人にだったら話してもいいかも知れない。
親交がある人よりも、馬車でたまたま隣になる人の方が世間話をできるのと同じだ。
俺はここ最近のことを二人に話した。
「実は俺……最近、パーティを追放されたんですよ」
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