第32話 世界の法則を破壊する力(2)

 赤く浸食された世界。

 俺は、地竜の王に向かって剣を振るい続ける。

 地竜の王も、アリアも完全に静止しているような状態になっている。

 身体がどれだけ持つのか俺自身も分からないので、必死になって振り続ける。


 全身から汗と共に、血まで流れる。

 強すぎる相手にスキルを使用する代償だ。

 元パーティメンバーに役立たずだと称されるだけあって、俺は脆弱だ。

 もしもここで地竜の王を倒し切れなかったら、俺達は死んでしまう。


「ああああああああああああああああっ!!」


 スキルの全てを、完全支配することはできない。

 だが、攻撃をし続ける対象相手だけには、意識が集中している為、多少の融通は効く。

 地竜の王の時間だけじゃなく、重力をも《遅延》させることができる。


「ああっ……」


 カラン、と剣を落とす。

 世界が元の色に戻ると、数百倍の重力が一気に地竜の王に圧し掛かる。

 地面に幾重もの亀裂が入る。

 百以上の斬撃も一気に受けた地竜の王は、四散する。


 呼吸がうまくできない。

 こんなにスキルを使ったのはいつ以来だろう。

 前のめりに倒れる。


「お疲れ様ですわ」


 倒れそうになると、アリアが抱きしめるようにして支えてくれる。

 顔から胸に突っ伏すようになっているが、動けない。


「ご、ごふぇん」


 フゴフゴ言っていて、自分でも何を言っているのか分からない。

 もう自分の力で立っていることもできないし、まともに喋ることもできない。

 そんな情けない姿が逆に愛らしくなったのか、アリアは母性が目覚めたような顔になっている。


「いいですわよ、私の胸に包まれて眠っても」


 目蓋が落ちてしまいそうになる。

 眠気が酷い。

 全身に痛みが走っている。

 アリアの言葉に甘えようとするが、


 眠気と一緒に、瓦礫の山が吹き飛ぶ。


 土埃の中を突っ切ってきたのは、二人の冒険者。

 置いてきたはずの、俺のパーティメンバーだった。

 あれから必死に追いかけてきてくれたのだろうか。


「レ、レイリーさんが、アリアさんに襲われてる!?」


 力が入っていたら、噴いてしまう勘違いをするシャンデ。

 なんで、そんな発想になるんだ。

 むしろ、助けてもらったんだ。


「ち、ちが……う……」

「血が出ているな。まさか、抵抗しないように痛めつけたのか?」


 リュミまで発想を飛躍している。

 この二人、浮世離れだと思っていたが、一体どこで生まれ育ったんだ。

 普通の家庭で生まれたとは思えない思考回路しているぞ。


 アリアと顔見知りだったみたいだし、相当なお金持ちで、貴族か何かじゃないだろうな、もしや。


「今は安静にしとかないといけません。あなた達、騒ぎすぎですわよ!! この方は私が連れて帰りますわ」


 アリアが二人か引き離すために、俺の顔を胸に埋めたまま引きずっていく。

 だが、俺は力が入らないせいで、足にも力が入らない。


 うおおおおおお。

 削れている、靴の爪先が削れている。

 た、助けてくれ。


 二人に視線をやると、片方ずつ脚を持つ。

 絶対何か間違えている。

 腕はアリアが持っていたからって、脚を持つのは間違えている。

 三人に身体を持ち上げられて、俺は逆エビ反りになっている。

 お、お腹が痛い。

 どんな持ち方しているんだ。

 シャンデとリュミが微妙に持つのを遠慮しているから、身体の変なところに負担かかっているんですけど。

 俺がまともに話せない怪我人ってこと、分かっているのか。

 せめてしっかり俺の膝やら身体を伸ばした上で、三人で持ってくれ。


「わ、私達が連れて帰ります。ね、リュミ!!」

「そうですね、シャンデ様。何故なら、レイリー先輩と、私達は同じパーティメンバーですから」

「え、ええええええっ!?」


 アリアが驚いて口に手を当てる。

 支えを失った俺は、地面に顔からダイブする。


「あっ……」


 リュミのやってしまった感の声が漏れる。


 受け身なんてとれなかった。

 鼻を打ったせいで、鼻血が出て来た。

 な、泣きそう。

 もう二度と本気でスキルを使うもんか。


「わ、わたくしの誘いを袖にしておいて、どこの馬の骨かも分からない方々となんで、どうして? パーティを組んだのですか!? あなたは!?」


 アリアは再度腕を持つと、ハンモックのように上下に揺らされた。

 グワングワン、頭を揺らされたせいで、意識が薄れていく。

 これ、ただの拷問になってますけど。


「ゆ、揺らさないでくれ……」


 ようやくそれだけを言うと、俺の意識は完全に途絶えた。

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