第17話 Fランクダンジョンの第一階層(1)

 イートプラント樹海の第一階層。

 草が生い茂っているのは、サーフェス湿原と同じだ。

 だが、太い幹の木々が無秩序に生えているのは大分違う。


「洞窟の中に来たというよりかは、森に来たみたいですね」

「そうですね……。空気も美味しい気がします」


 シャンデやリュミの言う通りだ。

 俺もイートプラントダンジョンに来たのは久しぶりなので、こんなに新鮮な空気をしていたのかと驚く。


「ここから、サーフェス湿原にモンスターが出ることはないのか?」

「勿論、あるけど。ただ、ダンジョンの外と中だと環境が違うから、モンスターも出づらいんじゃないのかな」


 リュミが自分の剣を手にしながら、そわそわしている。

 どうすればいいのか分からないようだった。

 シャンデもキョロキョロしたままだ。


 俺まで立ち尽くしているばかりではいられない。

 経験者である俺がリードしてあげないといけない。

 以前所属していたパーティでは後ろについていくことばかりしていた。

 だから、上手く出来るか分からないけど、しっかりと自分のできることをやろう。


「ここにいるモンスターはそこまで強くないから、ゆっくり慎重に行けば大丈夫。ただ厄介なのは、迷いやすいってところかな」


 ダンジョンに入る前から手にしていたのは、ここのマップだ。

 早速広げてみる。


「ここの地図か」


 リュミの言う通り、イートプラントダンジョンの地図だ。

 地図には、いくつか転移場所の予測地点が描かれている。

 その中で最も判別しやすいのは、大きな岩があるところだ。

 それが目印になるのだが、周りにはない。


 ということは、地図に書かれているこの右端の予測地点ではないということだ。

 ここに転移されるのが一番良かった。

 階段も近いし、モンスター出現も少ない。


 他に目印になるような転移場所はないので、今自分達がどこにいるのか目星がつかない。


 旗でも何でもいいから、転移先の場所の目星がつくようなシンボルを置いて欲しい。いや、置いてもモンスターによって破壊されるから意味ないのか。

 どうしよう。

 いきなり困った。


「あの、それ私が見た方がいいんじゃないんでしょうか?」

「え?」


 シャンデの提案に、俺は目を丸くする。

 そんな提案されたの初めてだ。

 全部自分でやらなきゃいけないと思い込んでいた。

 気持ちは嬉しい。

 ただ、これは俺がやらなきゃいけない仕事だ。


「でも、俺が先導するから俺がやった方がいいと思うけど」

「ダメ、ですよね。少しはお手伝いした方がいいかと思ったんですけど」

「いや、ダメってことはない、ダメってことは」


 シャンデはダメじゃない。

 むしろ、真っ当なことを言っている。

 全部俺がやらなきゃいけないと思っていたけど、俺はそこまで器用じゃない。

 器用じゃないから、パーティを追放されたんだ。


「そうか……。そもそも俺、先導しない方がいいんだ……」


 手伝ってもらえると思っていなかったから、気づかなかった。

 むしろ、俺はマップを見ている暇なんてない。


「俺は魔術師だから、先に行くよりかは、後ろにいた方がいい。後方警戒も経験者がやった方がいいし」


 自分の視界を警戒することは、初心者でも難しくはない。

 だけど、前方を見ながら、後方を警戒するのは視野が広い人間じゃないと務まらない。

 敵はどこから現れるか分からないのだ。

 だから、俺が一番後ろでみんなを守らないといけないんだ。


 一番前を行くのは、剣を持っているリュミ。

 真ん中を歩くのは、弓を使えるシャンデ。

 最後尾は一番の経験者で魔術師の俺。


 この並びで、尚且つシャンデに地図を見てもらうのが最善だ。

 一番敵が現れる可能性がある前衛は、リュミにいてもらって、シャンデを守ってもらうポジションにいてもらう。


「リュミは、前方を警戒して」

「承知した」

「俺が後ろを見ているから、真ん中にはシャンデが地図を見ながら歩いて。弓矢は使えるんだよね?」

「は、はい。今すぐ準備します」


 経験者だから少しはできると思ったけど、できないことは山ほどあるな。

 時間はあったのだから、もっと二人のことを知るために質問するべきだった。

 せめて、馬車の中でもっと自分達が何ができるか、話し合いぐらいやればまだ違っていた。

 協力してダンジョンに挑めるんだったら、もっとやりようはあったのだ。


「探索系のスキルがあればいいんだけど、誰か持ってる?」

「持ってないです」

「申し訳ないが、私も……」

「俺が使えるのが一番良かったんだけどね……」


 モンスターの探知や、地形の探知のスキルは、基本的に魔術師が持っていないとダメなんだよな。

 剣士や弓使いでも習得できるけど、まずは攻撃系のスキルを身に着けるから、初心者はまず使えない。


「第一階層は弱いモンスターしか出ないけど、転移直後でどこに飛ばされか分からないのが厄介なんだよな」


 シャンデが地図を渡したので、後ろから指を刺して教える。


「丸印で書いている所が予想した転送地点だけど、まず、どこに自分達が飛ばされたか分からないと、次の階層に行けないんだよね」


 地図には既に印はつけている。

 その内のどこかへ俺達は転移されたはずだ。

 転移場所はランダムといっても、法則性はある。

 ある程度、場所は決まっていて、その内のどこへ行くかは誰も知らない。


「早く次の階層へ行きたいんだけど」

「そもそもダンジョンって、深い階層に行った方がいいんですか?」

「まあ、深い階層に行けば、強いモンスターがいるから、その肉も高価だし、お金が手に入りやすい。だから、みんな深い階層に行くのが目的になってるね」


 Sランクダンジョンなどにある未踏階層なら、宝箱や武器が残っているだろうけど、Fランクダンジョンは全て狩りつくされている。

 だから、金目の物になるのはモンスターと、冒険者の遺品ってところか。

 墓泥棒みたいで、遺骨から装備品を追い剥ぎなんてしたくないけどね。



「――ああっ!!」

「きゃっ!! リュ、リュミッ!?」


 リュミが植物の蔓によって宙づりになる。

 膝から足首までかけて、触手のような蔓に絡み取られた。

 ヒトトリグサ。

 食人植物でありながら、モンスターにもカテゴライズされる。

 擬態能力に長け、そこらの茂みと一体化できる。


「くっ!!」

「モンスターの奇襲!? 最悪です!!」


 リュミは剣を振り回すが、ヒトトリグサ本体まで届かない。

 シャンデは弓矢を構えるが、ヒトトリグサはリュミを盾にして射抜けない。

 俺は向かって杖を構えて、率直な感想を言う。


「いや、最高だ」

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