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第7話 引っ越し準備ができるまでソロで日銭稼ぎ(1)
サーフェス湿原。
早朝で寒いためか、いつも以上に濃い霧が立ち込めている。
大して金になるモンスターもいない為、Eランク以上の冒険者は馬車を使って通り過ぎるだけの場所だ。
冒険者はダンジョンだけを攻略するだけじゃない。
Fランクや、新人や子どもは、ダンジョンではなく、それ以外のところから金を稼ぐことから始まる。
基本は街の掃除や、薬草摘みからだ。
駆け出しの時はよくここで換金できる薬草や木の実などを採取していたので、知り尽くしている。
知識がない人間ならば金にならないが、熟知している人間がいればそこらのFランクダンジョンに行くより効率的だ。
――田舎へ行って農業をする? もう少し考え直してくれませんの?
昨日、冒険者ギルドでアリアにそう言われた。
だが、何度誘われても首を縦に振る訳にはいかなかった。
俺は田舎へ行って、農業とかゆったりとした職に就くんだ。
そう言ったのだが、
――農業は腰をやると言いますわよ。それに農業の経験はあるのですか? それに、いきなり農業を始めるとなると、昔から農業をやっている方に村八分にされると聞きますわ。特に冒険者は遊んでいると思われているらしく、農作業をしている方から嫌われるらしいですわ。
確かに、農業に適するスキルを持っていないと、中腰の作業が多くなって腰を痛めるかも知れない。
それに、農業をやれる場所となると限られる。
だから自然と農家の人は同じ場所に集まる。
つまり、他の人の畑の隣に自分の畑を持つことになるわけだ。
となれば、ご近所づきあいは必至。
そこでコミュニケーションに失敗すれば、ずっと険悪なままだ。
――農業をやる方のほとんどは、最初の一年目は失敗するらしいですわ。失敗したらその年の年収は0。だからこそ、周りの農家の方に成功の秘訣を聴けるのが成功への第一歩らしいですわ。ですが、風当たりが強い環境下で積極的にレイリーさんが、他人に声をかけることができるとは到底思えませんの。
農業というのは数ヵ月から一年という長い期間をかけてやるもの。
農作物が育たなかったら、年収は0どころか、借金をしてしまうだろう。
元手0で始められる職業ではない。
必ず、土地や農作物の種など、先行投資が必要だ。
失敗しない為にも、周りの農家の人からアドバイスが必要か……。
農家をすると畑に虫がついたり、肥料を間違えると土地が死んでしまって2度とその場所で農業ができなくなることもあるって聞く。
あんまり考えていなかったけど、農業ってもしかして相当難易度高いのか?
……それにしても気になったのは、アリアの知識量だ。
なんでそんなに農業について詳しいのか聴くと、
――親が土地を持ってますもの。人を雇って農業もしているので、労働者の方から色々と話を聞きますわ。彼らは長年同じ場所でしか働かないので結束力が強い分、新参者には厳しく嫌がらせも多いと聞きますわよ。あっ、そうだ、うちの土地に来ませんこと!? そして近くのダンジョンへ一緒に――。
とか、なんとか言っていたが、話の途中で逃げた。
農業といえば簡単なイメージがあったけど、悪い意味で払拭された。
スローライフを選んで、楽して生きたいと思ったけど、やっぱり楽な仕事っていうのはこの世には存在しないのかも知れない。
特に人間関係が怠そうだ。
田舎って、赤の他人が気安く話しかけてくるからな。
特に同じ場所にずっといたら、顔見知りになる。
話すのが苦手だから、俺に農業は向いていないかも。
スローライフって意外にしんどい?
そもそも冒険者という職業が、他の職業の人からしたらスローライフかもしれない。
誰かに雇われているわけじゃない。
冒険者は自分が好きなタイミングで働ける。
仕事も自由に選べる。
モンスターと戦わなくても、生きていけるのだ。
それに、たまたまダンジョンで宝箱を見つければ、一獲千金という夢もある。
俺だってずっと冒険者を続けてこられたのは、楽しかったからだ。
今更違う職業と言われてもピンと来ない。
ただ、この地を離れたいのは確かだった。
どこかで働くにしても、ギランとまた会う機会はあるだろう。
会いたくないし、会わないにしても、嫌な記憶が蘇る。
ただ、引っ越し準備が終わっていない。
いきなりクビにされたので荷造りが終わっていない。
荷物をまとめるのには一週間ぐらいかかるだろうか。
それまで生活費を稼がなくてはならない。
何もせずに金が入るのなら何もしないが、そうもいかない。
長時間働いたら、その分引っ越しする時間が遅くなってしまう。
だから短時間働いて、少し稼いで、家に帰って荷造りをするのを繰り返すのが一番だろう。
「でも、俺、冒険者の方が向いているかもな……」
求人募集で一番多かったのは、商人の手伝いだった。
商人の手伝いとなると、客と喋らなければならない。
接客命だし、客引きもしなければならない。
そうなってくると、ギルド職員と最低限のやり取りだけで済む冒険者というのは、俺にとって天職なのかも知れない。
「キャアアアアアアアアアアッ!!」
「!!」
深い霧の中でも聴こえてくる悲鳴。
俺は悲鳴の先に向かって走る。
急ぎながらも、ゆっくりとだ。
矛盾しているようだが、サーフェス湿原で濃い霧が立ち込めている時は危険だ。
突然視界に現れた木に激突することもあれば、足場が崩れることもある。
沼のようになっている所もあって、一度はまったら抜け出せないこともあるのだ。
俺が駆けつけると、そこにはモンスターに襲われる二人の女性がいた。
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