第22話 クビにしたけど元のパーティに戻してやる-追放したパーティリーダー視点-
ギランはエールを飲んでいた。
他のパーティメンバーは疲れたとか言って、家に帰っていった。
いつも冒険の後は酒を飲むのが普通だったが、ここ数日は飲まない日が続いている。
まあ、そんな時もあるだろう。
グラスを傾けながら視線をやると、お目当ての人物がいた。
「おー、いたいた。よう、レイリー」
冒険者ギルドで待っていた甲斐があった。
それに、今日は受付嬢のベルがいない。
今度のように変なことは言われないだろう。
「何だ、どこへ行っていたんだ?」
「……イートプラント」
レイリーは元気なさそうに答える。
思わず、プッと噴き出す。
「何だぁ!? Fランクダンジョンじゃないか!! あー、お前も大変だなー。あんな糞みたいなダンジョンへ行ってぇ。どうせそんな稼げなかったんだろ、な!?」
肩を叩いて威圧する。
そうすれば、レイリーは俯いて言う事を聞くはずだ。
それにしても、Fランクダンジョン?
お笑い草だ。
そんな低レベルのダンジョンに挑むほど落ちぶれていたのか。
まあ、当たり前か。
Fランクの冒険者はFランクのダンジョンにしか挑めない。
アリアやベル、それからレイスからパーティメンバーの勧誘を受けていたが、あれはエールに酔っていたから出た戯言だったのだ。
レイリーが高位の冒険者に認められるほどの実力者なはずがない。
認められるならば、ギラン達のパーティだ。
クズばっかりだし、すぐに辞めているが、ギラン達はパーティを加入させている。
そう考えれば、レイリーの方が圧倒的に下だ。
ちゃんと身の程を弁まえないといけないと思っただろう。
これで、レイリーは元のパーティに戻ると懇願してくるだろう。
「ん? その後ろの二人は? まさか、新しいパーティメンバーじゃないよなあ!?」
「それは……」
「違うだろ!? お前なんかと組んでくれるパーティなんていないもんなあ!!」
そんなはずはない。
さっきまで目に入らなかったが、パーティメンバーなはずがない。
しかも、二人とも美人だ。
リップやミレイユよりよっぽど。
両手に花なんて、レイリーがそんな羨ましい状況な訳がない。
こっちはまだ、新しいパーティメンバーを入れることができていないのだ。
それなのに、レイリーが上手くいっていたら恥をかくどころの話ではない。
だが、待てよ。
パーティを組んでいない状態なのに、近くにいるってことは検討を始めているってことだ。
もしかしたらパーティを組むのも時間の問題なのかもしれない。
そうだとしたら、かなり厄介だ。
だって、そうなったら『ドラゴンクロー』にレイリーを入れられなくなる。
そうなったら困るのは自分達なのだ。
そうだ。
今の内にどんどんレイリーを貶めてやろう。
パーティを組むなんて思わないぐらい、メタメタにしてやろう。
「お前ら二人、見かけない顔だけど、新人か!? だったら、こいつと組むのはオススメしないなあ。だって、こいつ万年Fランクだから」
レイリーは何も言わない。
いや、言えない。
そう。
弱いのだ。
昔からレイリーはギランには逆らえない。
身の程というのを知っている。
弱いせいで、自分がどれだけ他人に迷惑をかけていたのか。
それを思い出させてやる。
上下関係をしっかりと教え込まないと、また口うるさくギランのやり方を批判してくる。
「こいつがFランクになれないのだって、認定試験に落ちるようなクズだからだよ」
「認定試験……?」
剣を持っている方の女が首を傾げる。
やはり、素人ということもあって何も知らないようだ。
冒険者だったら、例えFランクであっても知っている常識なのに。
「……ああ、知らないのか。自分の冒険者のランクを上げるのには、認定試験っていうのがあるんだよ。それには面接もある。そこで、こいつは、自分の長所を言えなくて、毎回落ちてるんだ!! まあ、そうだよなあ!! お前みたいな一つのスキルしか使えないクズ魔術師は、自分のいい所なんて挙げられないもんなあ!!」
功績やスキルの能力も判定に大きく左右されるが、面接でしっかりとした返答しないと上へは上がれない。
馬鹿で不器用過ぎる男だ。
例え、嘘だろうと自分が凄いとアピールできれば、それだけで昇格できるはずなのに。
それすらできないなんて、なんて弱虫なんだ。
だが、それでいい。
そんな路傍の石のような奴でも、使う奴が使えば宝石になる。
「でもな、そんなお前に朗報だ」
い、いいぞ。
ニヤニヤするのを必死に止める。
あと少しで、レイリーが泣いて喜ぶ姿を想像して笑いそうだった。
少し溜めてから話してやる。
「レイリー、お前、俺達のパーティに戻らないか?」
「は?」
驚いてやがる。
眉を顰めているが、まだ実感できていないんだろう。
自分がどれだけ幸福かを。
本当だったら、もっと飛び上がって嬉しがるはずだ。
はあ。
駄目だ、こいつ。
鈍すぎる。
スキルも遅いが、喜ぶ感情を爆発させるのも遅いらしい。
よし。
分かりやすいように、説明してやろう。
Fランクというカスみたいな冒険者が、手を差し伸べられることがどれだけ尊いのかを。
「まあ、あれだ。お前も困っているだろ? 冒険者には戻るつもりはないのか」
「それは、やっぱり、戻ろうかと思ってたところだけど」
「あー、そうだな。それがいい。それに、誰ともパーティ組めてないんだろ?」
「ああ」
「だったら、俺達とまたパーティを組もうじゃないか」
あまりにも簡潔な答えだ。
素晴らしい。
これでレイリーも納得したか?
「俺等は優秀だからさ、たくさんパーティメンバーになりたいって募集に来る奴らがいるんだよ。でもさ、やっぱり俺等もお前がいた方がやりやすいわけよ」
「……だから?」
「だ、か、ら、入れっつてんだろ!? お前だって本当は戻りたいんだろ? 俺がこんだけ頼み込んでんだからさー。さっさと戻れよ。みんな待ち望んでいるはずだって」
待ち望んでいるといっても、再びいじめることをだろうけど。
帰ってきたら、またいじめてやる。
楽しくなってきた。
それなのに、弓矢を持っている女が割り込んできた。
「あの、失礼ですが、あなた何なんですか?」
「はあ? 分かんない? こいつの元パーティメンバーのリーダーだけど?」
「そういう意味じゃないです。あなた失礼なんじゃないですか?」
「何が?」
「その人はあなたが思っているより立派な方です。それなのに、どうしてそんな傷つけるようなことしか言えないんですか?」
ピキッ、とキレる音が自分からした。
Sランク冒険者からゴチャゴチャ言われるのだったら、まだ耐えられる。
だが、どこの馬の骨とも知らない相手に分かったような口を利かれて黙っていられるほど寛容ではない。
格下相手には言葉よりも、暴力で力の差を見せつけてやらなきゃいけない。
「お前こそ、誰なんだ――」
「それ以上近づくな」
もう一人の片割れの方が、今度は間に入ってきた。
大して強くもなさそうに一丁前に剣に手をかけている。
「なんだあ?」
「シャンデ様の言う通りだ。いくら何でも言い過ぎだ。この人の凄さがなにもわからない奴はその口を閉じろ」
「うるせぇな。ランク何だ、お前?」
「冒険者のランクなど持っていない」
「はあ? ランク持ってないのかよ」
大層な口の利き方をするから、実は強いかと思ったらとんだ弱者だ。
どうしてしまおうか。
名案を思いついた。
二人の女はどっちも綺麗だ。
斧でもステーキに使ったナイフでも何でもいい。
とにかく、武器を持って服やらアーマーをぶっ壊して、半裸にしてやればどうだ?
そうしたら少しは大人しくなるだろう。
ついでに身体つきも観れる。
内心で舌なめずりしながら、斧を振る。
「てめーのその自信剝いでやるやるよ!! 服と一緒にな!!」
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