第23話 俺は何も悪くない-追放したパーティリーダー視点-
ギランの振りかぶった斧はすっぽ抜けた。
「は?」
女は剣で斧を叩き落とすと、そのまま首に刃を軽く当ててきた。
首筋から血が出る。
しかも、斧は斬られていた。
「武器はギルド内で扱うのは禁止じゃないのか? それは私でも知っているぞ」
今の剣の動き速すぎる。
本当に冒険者もどきか?
いや。
それよりもまず、気にすべきは手に力がこもらなかったことだ。
振りかぶっている途中で手が動かなくなり、そのせいで斧を取り落としてしまった。この症状、もしかして、
「お前か? レイリー。お前がやったのか?」
部分的に《遅延》の魔法スキルを使ったのか。
他の冒険者と半日でも冒険したから分かったが、体全体に《遅延》をかけるのと、手を一部分だけ《遅延》をかけるのとでは難易度が段違いらしい。
それを事も無げにやってのけたというのか。
ただ、その技能をギランに使ったのは許せない。
「お前、何やってるんだよ!? スキルをかける相手を間違えているだろうがああああ!!」
ギランのことを思うのなら、女にスキルをかけるべきだった。
そしたら女は何の抵抗もできなかった。
痛い目に合わせて、ぎゃふんと言わせることだって楽にできたのだ。
ついでに女の肌をじっくり見ることだってできたのに。
何を血迷った真似をしているのか。
逆らったらどうなるか分からないはずがない。
FランクとCランクでは天地ほども差がある。
仮に戦ったらギランが圧勝してしまうのだ。
クズはクズらしくただ命令通りに動いていればいいのに、どうして勝ち目のないことをしようとするのか。
「いいや、間違ってない。ギラン。俺はお前にかけたんだ」
「ああ!? ふざけてんのか、てめ――あっ!!」
足が縺れる。
片方の足だけにレイリーが《遅延》の魔法スキルを使ったせいだ。
無詠唱呪文を使っているせいで、反応が一々遅れる。
超一級の冒険者ならば、スキルの予備動作を感じ取れるかも知れないが、まだその領域には至っていない。
だから、レイリーがやっているのは卑怯な行為だ。
スキルを使うならば、詠唱しなければ避けられる訳がない。
しかも、足元だけを狙ってこけさせるなんて、レイリーらしい最低な発想だ。
無様に倒れたギランのことを、周囲の冒険者達の嘲笑が漏れる。
「こんなことしてタダで済むと思うなよ!!」
「ギラン。お前こそ、俺の仲間に手を出してタダで済むと思うなよ」
「…………っ!!」
Fランクの癖に一丁前に睨み付けてきた。
普段とは違う強い語調に鼻白む。
たまたま卑怯な不意打ちが一撃だけ成功したからといって、鼻息を荒くするのは早い。こっちだって本気を出せば、レイリーの一人や二人倒すのは容易いのだ。
いい気になっているのも今の内だ。
「あなた達、何をやっているんですか!?」
受付嬢がやって来た。
騒ぎを聞きつけてやって来たらしい。
ちょうどいいタイミングだ。
「悪いのは、こいつらだ!! 俺は何もやっていないのに、スキルを使いやがったんだ!! 斧を斬ったのもこいつだ!! だから俺は何も悪くないんだああああああああっ!!」
言ってやった。
これでレイリーが全ての責任を負うことなる。
冒険者の資格をはく奪され、冒険者ギルドを立ち入り禁止にされる。
もっといい方向に進めば、ウラジオの地を二度度踏むことができなくなるかも知れない。
「……あなた、この前も問題起こしていましたよね?」
受付嬢の人は苛立ちながら、眼鏡をクイッと上げる。
どうやらまだ誤解が解けていないようだ。
しかもレイリーの物分かりが悪いせいで、他の冒険者達が集まり、ギランに視線を寄越してきた。
悪いのは全部、レイリーなのに。
「俺は悪くねぇんだよ!! おら!! お前ら、何見てんだ!! 散れ!!」
どうやら分が悪いようだ。
散々恥をかかされた。
もう、レイリーの為に譲歩することはもうできない。
最後のチャンスを与えてやる。
「パーティに戻るつもりはないんだな?」
「ああ、そうだ。俺は、この二人とパーティを組む!!」
何を勘違いしたのか胸を張ってレイリーは宣言した。
自分よりも弱い連中としか一緒にいれないようだ。
どうせ雑魚相手に分かったような口をきいて、気持ちよくなっているに違いない。
そんなんだからずっとFランクなんだ。
誘ったのが間違いだった。
「そうか……。後悔しろよ。俺達はこれから新事業に手を出して金持ちになるんだ。どうなっても知らないからな」
冒険者ギルドを通さずに、自分達だけで金儲けする。
そんな新しいことを始めることに加えてやろうと思ったが、これで終わりだ。
精々、細々と暮らせばいい。
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