第21話 それってもう少し手加減しろって……こと!?
「え? どういうこと?」
冒険して、お互いに楽しさを共有していたと思っていた。
なのに、どうやら二人は冒険していないらしい。
自分だけ冒険楽しんでいて、何かやらかしてしまったのか。
「だって、私達ピンチになってなくないですか?」
「え? ピンチ?」
どういう意味の言葉が分からずにいると、シャンデが補足説明してくれる。
「ほら、冒険ってピンチになってハラハラドキドキするのが冒険だと思うんですよ」
「はい」
「でも、大体レイリーさんが《遅延》の魔法スキルを使って無双してません?」
「ええ!? でも、最初のヒトトリグサとか結構苦戦してたよね!?」
「その後魔法スキルで完封してましたよね。普通、あそこから攻撃魔法系のスキルを何度も使うものじゃないですか? 基本的に一発の魔法スキルで終わりですよね?」
「……つまり、もっと効力を弱めろと?」
できなくはない。
魔法スキルの効力の調整は、任意でできる。
前のパーティではもっと強いスキルを使えと言われていたけど、まさか弱めろと言われる日が来るとは思わなかった。
「そ、そうじゃないですよ!? 助かってますし!! ただ、何でそんなに強いのにパーティをクビになったんですか?」
「え!?」
「私達のためにFランクダンジョンまで来てもらって申し訳ないんですけど、前のパーティだったらそれこそ手に汗握る冒険ができていたんじゃないかなって」
「それは……俺が聞きたいぐらいなんだよね」
「ええ!?」
いきなり解雇されたからな。
理由を深く考える時間もなかったな。
「色々あると思うけど、お荷物だったんだと思う」
「レイリーは、こんなに強いのにか?」
「……ありがたいけど、やっぱり色々な魔法スキルを使えた方が便利でしょ? 俺は《遅延》しか使えないから、それだけを磨いてきたけど、それでも弱点はいっぱいあるからね」
「弱点?」
「あまりにも強力な《遅延》の魔法スキルを使うと倒れちゃうんだよ」
リュミは剣士だから分かりづらいのかも知れないけど、魔法スキルは精神力を使うスキルだ。
傷を負っていなくとも、心は摩耗している。
魔法スキルを限界まで使い続ければ倒れてしまう。
倒れても、意識があればいい。
俺の場合は、気絶してしまうことだってあった。
このダンジョン内で気絶したら、どれだけパーティの足を引っ張ってしまうのか。
俺のことを背負ってダンジョンの外に出てもらわなくちゃいけない。
それに、本当にお荷物だと思っていたら、そのまま置いて行かれてしまうかも知れない。
前のパーティメンバーだったら、もしかしたら本当に放置されるかも知れない。
そんな思いがあって、本気を出すことはできなかった。
だから本気でスキルを使う時は、よっぽどピンチの時だ。
しかも、倒れても助けてくれそうな人が周りにいる時にしか使えない。
そう考えるとかなりの欠陥魔法スキルだと言える。
「それに、強いモンスターであればあるほど《遅延》の魔法スキルは効きづらくなる。今無双できているのは、Fランクダンジョンのモンスター相手だからだよ」
モンスターが強すぎたら、俺の《遅延》は効かない可能性がある。
そうなったら、それこそ俺は役立たずだ。
雑用ぐらいはできるが、ただそれだけ。
一人パーティがいれば、その分取り分は減る。
冒険途中の食料や薬草だって無駄にはできない。
上へ行けば行くほど、俺は役立たずになるのだ。
「あとは、相性の問題かな……」
「相性? パーティメンバーとしての相性ですか? 魔術師が多かったとか?」
「いや、人間関係的な相性かな」
「あー」
正直、こればっかりはしょうがない。
仮に俺がどれだけ優秀であったとしても、認めてくれなかっただろう。
俺なりに頑張っていたと思ったし、あれ以上頑張ることは俺には不可能だった。
それで役立たず扱いされるのなら、もうしょうがない。
あれ以上頑張るっていたら不眠不休で努力して、ぶっ倒れるまでやるしかなかった。
それに、ダンジョンに対する考え方が違って、衝突してばかりだったからな。
仲間割れしちゃいけないと思って、自分の考えは最低限にしていたけど、あっちが我慢できずにパーティ追放されたのだ。
もう避けようがない。
彼らとはもう会いたくない。
ダンジョンで、死なないように祈るだけだ。
「それじゃあ、戻ろうか」
「まだ階層あるんですよね?」
「今から潜って行ったら、野営することになるけど?」
「それでもいいと思って準備して来たんですけど、ねえ?」
「はい。その覚悟をしてきました」
俺もそのつもりで準備してきたのだけど、思ったよりも二人は疲れていた。
二人とも見た目よりは体力はあるみたいだけど、心は疲れている。
モンスターの相手を多分、あまりしたことがないのだろう。
本気で殺しにかかって来るモンスターの相手は、肉体よりもまず心が病んでしまう。
心が病めば、体にも影響が出るものだ。
「今度にしようか。俺も疲れているしね」
そう言うと、二人とも納得してくれた。
事実を言ったら、むきになって冒険したいって言い出すと思ったから、これで良かった。
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