第20話 自分のやりたいことを見つけるために、やらなくちゃいけないこと

 第四階層と第五階層との間の階段。

 ここまでの道のり、モンスターに幾度となく襲われたが、ほとんど無傷のまま進むことができた。

 シャンデがマップの見方を間違えて道に迷ったり、二人の歩きが遅いのでいつもよりもペースは遅くなってしまったが、あまり気にならなかった。

 むしろ、いつもよりもストレス少な目の冒険になってやりやすいぐらいだ。


 時間的にも丁度いいので、休憩を取ることにした。

 サンドイッチを作ってもらったので、三人で食べながらの休憩だ。

 ここならば、モンスターが少なく、ゆっくりと食事を取ることができる。


「うん! 美味しい!!」

「そうですか? ありがとうございます」


 サンドイッチは料理じゃないという人間もいるけど、俺も立派な料理の一つだと思っている。

 具材のバリエーションや、組み合わせをしっかりと考えられているサンドイッチだった。

 俺がサンドイッチを作るとなったら、具材は一つだけだったり、肉を挟むだけだったりするが、このサンドイッチは色鮮やかだし、野菜も挟まれていた。


「ん? 辛っ!? これは?」


 食べ進めていく内に、いきなり辛いものに当たった。

 よく見たら、他のサンドイッチに比べたら、具材の入れ方が下手くそではみ出ていた。

 チリがそのまま入っていた。

 普通は香辛料として磨り潰して少量使うものが、そのままサンドイッチの具材として入っていたそりゃ、辛いな。

 わざとそのまま入れる訳がない。

 流石に間違いだよな、これ。


「す、すまない、それ私だ!! 間違えて申し訳ない!!」

「い、いや、美味しいよ、辛いけど……」


 シャンデがしゅんと謝っていると、フォローしたくなった。

 確かに激辛だけど、食べられない訳ではない。

 汗をいっぱいかきながら食べ進める。


「そういえば、二人は冒険者になることにしたの?」

「? どうしてですか?」

「こうしてダンジョンに来てるから、もう冒険者になることにしたのかなと思って」

「まだ分からないですけど、とにかく始められることか始めることにしたんです」

「……へぇ」


 行動力があるな。

 俺には行動力がないので、シャンデ達のように即行動はできない。


「とりあえず行動するのはいいね。俺はあんまり自発的に行動できないタイプだから」


 自分の本当にやりたい事が、しなくちゃいけない事から逃げて、ズルズル流されちゃうタイプだからな、俺は。


 冒険者に憧れる前は、何をすればいいのか分からなかった。

 子どもの頃は夢を持ちなさいなんてよく、大人に言われたけど、よく分からなかった。

 夢を膨らませられるほど、想像力もなかったし、経験もなかったしな。

 だから、ずっと俺は家にいた。


「やりたいことが見つからないから、家に引きこもってばかりしていた時期があるけどさ。結局、引きこもってばかりじゃ、何もやりたくなったな」


 一人きりでずっと考え事をすると煮詰まって、何も答えが出せないままだった。

 だからどんどんやる気がなくなっていった。

 それから冒険者に憧れて続けてきたけど、また分からなくなった。


 ただ暴言を吐かれるだけの毎日の中で、何をすればいいのか分からなくなった。

 だから、軽い気持ちでスローライフ送りたいって思ったけど、それが本当に自分のやりことかも分からなくなった。


 最初はここに来たくなかった。

 でも、来てよかったと思えるようになった。



「やりたいことを見つけるためには、やりたくないこともやらなくちゃいけないんだよね」



 自分のやりたいことを見つけるって、みんな普通にできることなのかも知れない。

 けど、俺はできなかった。

 謝らなくちゃいけないな。

 アリアや、ベルさんに。

 他のみんなにも迷惑かけたし、心配もかけたと思う。

 だけど、もう、スローライフは辞めだ。

 きっと、俺には冒険者が合っている。


「俺は、冒険者に戻ろうと思う。やっぱり、冒険が楽しいからね」


 二人がいたから、その決心ができた。

 なのに、二人の顔は曇っている。

 二人して顔を合わせて、お互いの考えが一緒なのを顔色だけで察する。

 意を決したようにシャンデが口を開く。


「いや、でも、私達冒険という冒険をしてないような気がするんですが」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る