第5話 ダンジョン攻略報告がグダグダなのは俺のせいじゃない(1)-追放したパーティリーダー視点-
ギランは、Sランク冒険者のアリアによって不愉快な気分にされた。
本当だったらもっと言い返すことができたが、辞めておいた。
あまり言い過ぎるのも大人げない。
それに、あれ以上アリアを怒らせると実力行使をしてくる可能性だってあった。
自分の考えと違っていたら卑怯にも、口ではなく手が出るような頭の悪い奴の相手などしていられない。
そうだ。
後で冒険者ギルドにアリアについてクレームでも入れておこうか。
冒険者ギルド内での暴力は禁止されている。
未遂であっても何らかの処分が下されるかも知れない。
少しは認めていたのに、あそこまで反発されるとは思わなかった。
レイリーめ。
一体いくらの金を積んだんだ。
「それではまず狩ったという、モンスターのご提出をお願いします」
アリアと違って、ベルは話が通じるようだった。
やはり受付嬢をしていることもあって、丁寧な態度だ。
そうそう。
俺達冒険者がいなければ、冒険者ギルドの連中は仕事なんてないんだ。
俺達の努力のおこぼれを貰っている仲介人なんだ、こいつらは。
と、ギランは考えを巡らせて、同じパーティメンバーのリップを振り返る。
「おい! 何してんだ!! 早くアイテムバック出せ」
「えっ? 私?」
「そうだよ!! お前に全部預けてただろ!!」
「そ、そっか……」
「……まったく」
アイテムバック。
アイテムポーチや、アイテムボックス、アイテムポケットなど種類はあるが、物を縮小して収納できる逸品だ。
いつもだったらギラン達はとっくに家に帰宅している。
ダンジョン探索が終わったら、レイリーを除いて飲みに行く。もしくは、家に帰るのが常だった。
冒険者ギルドへの報告や狩ったモンスターの売買については、レイリーに一任していた。
だからリップは戸惑ったのだった。
レイリーがもう少しマシな仕事をしていれば、まだ雑用係として使ってやっていた。
あいつが使えないせいで、こうして仕事が増えてしまっている。
何故、こんな誰でもできるような地味な仕事をしなくちゃいけないのか。
冒険者っていうのは、モンスターを討伐し、ダンジョンに眠る宝箱を開ける。
それが醍醐味だ。
こんなしょうもない仕事はまともに働かないレイリーにこそふさわしい。
「え、えーと。申し訳ありません、もう一度、モンスターの死体をアイテムバックに入れてもらっていいですか」
「ああ!? 何で!?」
「ここで鑑定する訳じゃないので」
「ああ、そういうことか。はいはい」
再びモンスターをアイテムバックに収納する。
モンスターはいなくなったが、机の上に死骸の血と、鼻をつまみたくなるような悪臭が残った。
「少し、掃除しますね」
そう言うと、水の精霊を呼び出して机を水拭きした。
匂いまでなくなったが、最初から鑑定できないならそういえば良かったのだ。
ベルは他のギルド職員にアイテムバックを渡す。
もらったギルド職員は後ろに下がって、別の机で《鑑定》のスキルを使った。
スキル以外にも眼で状態を確認したり、使えない肉の切り分け作業のための解体などを行っていた。
「それでは他の者が状態を確認している間に、報告書類をお願いします」
「ああ、ほらよ」
分担作業をすることによって、作業効率を高めているらしい。
なんだ。
意外にベルも大したことないんだな。
受付嬢としてもSランクと風の噂に聴いていたが、どうやら間違いだったらしい。
ベルが最初から鑑定していれば良かったんだ。
昔来た時は、分担作業なんてしていなかった。
途中で面倒になってレイリーに任せたが、その当時、俺が受付で狩ったモンスターを出しても、嫌な目なんてされなかった。
質が落ちたもんだ。
やっぱりSランク冒険者ともなると、他の受付嬢に比べたら生意気になるものなのか。
俺達が狩ってきたモンスターを、肉屋や料理屋などに売って金にしているのだ。
言わば、冒険者ギルドは中抜きしているのだ。
冒険者がいなければ、冒険者ギルドは潰れる。
だから、どいつもこいつもペコペコ頭下げてればいいのだ。
「……あの」
「何?」
「次回からでいいので、次からはどのダンジョンのどこを通ったかのルートを図に記入してもらっていいですか?」
「ルート……? は? 図まで描かないといけないのか?」
白紙の紙に図を描けってことか?
何いきなり言い出しているんだ?
「……仰っていただければ、冒険者ギルドの方でダンジョンマップの方は無料にて配布しております。次回からダンジョンに挑戦される時は、一度ご相談をお願いします」
そういえば役立たずが、無駄にルートを記入していた。
歩きが遅いから注意をしていた。
逆に今度はギランが注意される側になっているが、やっぱり意味があるとは思えない。
「それから報告書ももっと具体的にご記入をお願いします。箇条書きで書くのは結構ですが、報告書がこれだけですと困ります」
「は? なんで?」
「なんでと言いますと?」
「だから、何でだよ!! 自分達が通ったルートを記入したり、探索報告書を具体的に記入したりしないといけないんだよ!!」
ギラン達は冒険で疲れてヘトヘトなのだ。
レイリーはいつも宿に帰って来る時間がいつも遅いと思っていたが、まさか報告書を記入していたのだろうか。
「それは、モンスターの現在の生態を知ることで、より正確な探索ポイントや依頼の割り振りができるからです」
「割り振り?」
冒険者やパーティにはランクが存在する。
S、A、B、C、D、E、Fの七段階のランクだ。
そのランクに応じて、行けるダンジョンは限られる。
Cランクでは、冒険者ギルドの依頼を受けられないものだって存在する。
その割り振りのことだろう。
「モンスターは、時期や状況に応じて住処を移動します。その動きを私達が把握していなければ、冒険者達は安全な冒険ができません。ランクに応じて挑めるダンジョンが違ったり、前回行けた場所を案内できなかったりするのは、モンスターが場所を移動しているからです」
ダンジョンには階層がある。
階層を上ったり下がったりすることでランクの高いモンスターが奥底にはいる。
Fランクのダンジョンには、Fランクのモンスター、奥にはEランクのモンスターが存在することがある。
冒険者のランクによっては、ダンジョン内の階層制限がある時がある。
階層には階段があるが、そこは人間が作った階段であり小さい。
大型のモンスターがそこを使って移動することはできないが、そこを破壊して奥底にいるモンスターが押し寄せてくる時だってある。
そういった時に、ダンジョン探索の制限が出たりするのだ。
「それに、マップにルート記入することによって、自分達の現在位置を把握することができます。随分と疲れているようですが、迷われたのではないですか?」
「余計なことは言わなくていいだろ!!」
「……申し訳ありません」
図星だった。
いつものダンジョン。
いつものルートを通ったつもりだった。
だが、似たような場所で、仄暗い場所を通っていたら迷ってしまった。
いつもレイリーが道案内をしていたので、迷うことは今までなかったのに。
「うわ、そんなのも知らないの?」
「あいつらFランクの新人冒険者かよ」
隣で受付をしていた冒険者達が嘲弄してきた。
キッ、と睨み付けると、視線を逸らした。
喧嘩する度胸がないなら最初から言うな。
「どうやら査定が終了したみたいですね」
ベルは、他の職員から紙をもらって目を通している。
そこにギラン達が狩ってきたモンスターの購入金額が記入されているはずだ。
いくらになるか。
今回は手こずったせいで、いつもよりモンスターを狩ることができなかった。
薬草や樹液など、金になるものを採取する余裕もなかった。
だからいつもよりも少ない査定になるのは確実だ。
まあ、悔しいが3万ゴルドいけばいいぐらいか?
ベルはゆっくりと口を開いた。
「合計で5000ゴルドになります」
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