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第25話 Fランク冒険者の3人パーティ
冒険者になるための条件は緩い。
書類による手続きと筆記試験、実技、それらをクリアしたら講習がある。
半日で冒険者になれるので、冒険者として活動せずとも記念に受ける人間もいるぐらいだ。
年齢にも制限がないので、子どもが受けて合格することだってある。
試験といっても簡単で、受けた人間のほとんどは冒険者になれる。
子どもだった俺でもなれたのだ。
シャンデとリュミがなれない訳がない。
「お待たせしました! 終わりました!!」
「私も同じタイミングで終わりました。良かったですね、シャンデ様」
「はい!!」
冒険者ギルドの奥から二人が帰ってきた。
筆記試験会場や、実践のための訓練場などが奥にはある。
昇格試験などにも使われるので、ひっきりなしに人の出入りがある。
あそこに行くと毎回緊張するんだよな。
「お疲れ様。おめでとう!!」
これで二人は晴れてFランクの冒険者だ。
並ばれちゃったなあ。
俺が冒険者になって五年か……。
一個もランクを上げられていない。
そう考えると気分が悪くなるけど、卑屈になってもどうしようもない。
今は、二人が無事に冒険者になれたことを祝おう。
「お待たせてしまって、申し訳ありません」
「俺もさっきまでサーフェス湿原にいたから全然待ってないよ。むしろ、待たせないかヒヤヒヤしていたぐらいだから」
二人が冒険者になるために、色々と手続きをしている間。
俺はサーフェス湿原で、モンスターを狩っていた。
ここでただ待っているだけでも良かったのだが、ジッと待っていることもできなかった。
ほとんどの受験者が受かるとはいえ、落ちる人間だっているのだ。
合格するかどうかハラハラしていた。
「でも、講習の中でよく分からないことがあったんですよね」
「ああ。分からないことがあればどんどん聞いていいよ、俺に」
全ての試験に合格すると、講習が開かれる。
どんな内容かというと、まあ、冒険者の心得とか、気を付けなきゃいけないことだ。
冒険者ギルドでの戦闘は禁止とか。
ダンジョンへ入る前は装備品を整えましょうとか。
そういう基本的なことを、永遠と何時間も聞かされる。
講習の時は話す人と、後ろに立っている職員がいるのだが、あまりにも話が長すぎて後ろになっている職員の人がコクコクン、頭を動かしていたのを未だに覚えている。
あれは、眠くなる。
子どもでも知っていることを、繰り返し聞かされるのだから。
そして、何か質問があれば冒険者ギルドの職員に何でも訊いてくださいとか、講習の最後に言われるのだが、額面通り受け取れない。
冒険者ギルドの人はみんな忙しそうに走り回ったり、受付している人ばかりだ。
もっと職員数を増やしてもいいと思うぐらいだから、気軽には質問できない。
俺が新人だった頃は分からない事があっても、訊ける人間がいなくて苦労したものだ。シャンデが分からないことがあるというのならば、積極的に教えてやりたい。自分と同じ苦労はして欲しくない。
「子どものモンスターは殺さない方がいいって職員の方が言っていたんですけど、その意味がよく分からなくて」
「ああー」
あるあるの質問だ。
だからこそ、難しい質問とも言える。
「人によるかもなー」
「人による!?」
「冒険者って本当に、正解がない職業だと思うんだよ。その職員さんじゃなかったら、もしかしたらモンスターの子どもは狩りやすいから、新人の頃は積極的に狩っていけ!! っていう職員さんが講習していたかもね」
正解がないからこそ、パーティ内でも衝突が起こりやすい。
こっちの考えが正しい、そっちの意見は間違っていると。
ただ、今回はその職員さんに賛同するかな。
俺的には。
「モンスターの子どもを狩っても、あまりお金にならないから、放置させて成長させてから狩るのが結構一般的な考えなんだよね」
「大人になってから……? 残酷な考えですね」
「まあ、そうかもね」
シャンデは優しい性格だからそう感じるのも無理ないかもね。
童話の魔女が、子どもを喰らうために飯を与えるなんて話があったけど、やっていることは同じなわけだから。
ただ、モンスターを狩って、俺達はその肉を食べている。
どれだけ残酷であっても、その事実からは逃げることはできない。
俺達人間だって、モンスターに喰われることだってあるのだ。
俺達は命を狩って、自分達の命を守っている。
「子どものモンスターを狩って、冒険者ギルドに持ってきても200ゴルドもいかない時だってある。それなら見逃した方がいい。もっと大人になってから狩った方がお金になるからね」
小ぶりで身が無ければ、切り分ける肉は少なくなる。
だから売っても金にならない。
小さいと人間を脅威に思って襲ってこないし、こちらからわざわざ攻撃を仕掛けるまでもない。
「子どもを襲わないのは、ダンジョン保護の考え方もあるんだけどね」
「ダンジョン保護?」
「ダンジョンの環境を守るために、モンスターを狩りつくしてもダメってことかな。モンスターを狩りつくさないように、冒険者ギルドでは小ぶりなモンスターの買取価格は極端に下げられているんだよ」
モンスターは多過ぎても少なく過ぎても困る。
狩り過ぎてモンスターが絶滅してしまったら、肉がなくなってしまう。
だから小さいモンスターは保護しましょうという考えがある。
ダンジョンによっては狩猟禁止の場所やモンスターだっている。
そういう決まりです、と言っても冒険者の中には狩ろうとする人間は必ずいる。
そういう人達の為に、冒険者ギルドは買取価格の調整を行っているのだ。
その影響もあって裏市場では高値取引されるものもある。
小柄なモンスターの肉の方が柔らかくて人気の場合もあるし、市場に出回らない時点で美味だろうがそうではなかろうが、価値が上がるものだからだ。
「ここらのダンジョンで有名なルールは『地竜の巣穴』にいる地竜の卵を取っちゃいけないってことかな」
「この前聴いたダンジョンですね。卵を取ってはいけない理由は、やっぱりダンジョンの環境保護ですか?」
「それもあるけど、卵を取ると地竜の親が激怒するからっていうのもあるね。地竜は怒らせると怖いんだ」
「そういうものなんですね……」
シャンデはピンときていないみたいだった。
まあ、地竜の圧倒的力っていうのは、実際に目にしてみないと分からないか。
卵を奪ったら、あれが大群となって襲いかかって来るのだ。
それを想像するだけでもゾッとする。
「ダンジョンの環境保護を考えないんだったら、そもそもダンジョンに入る必要なんてない。ダンジョンを破壊すればいい」
「火を放つとか?」
「後は水責めとかだね、生き埋めにするとか、色々方法はあるよね」
リュミが猟奇的な発想を飛ばすが、まあ、その通りだ。
ダンジョンに入らず、外から壊してしまえばいい。
それだけでモンスターは全滅だ。
世界中のダンジョンを破壊しつくせば、冒険者という仕事はこの世からなくなるだろう。
「そういえば、パーティ名はどうしましょうか?」
変な想像をしてしまったせいで気分が落ち込んでいたが、シャンデが気分を一新することを質問してくれた。
「パーティ名か。そうか、決めた方が活動しやすいからね」
考えが足りなかった。
シャンデに言われるよりもまず、年長者である俺が先に提案しないといけないのに。
パーティ名、パーティ名か。
そんなこと考えもしなかったから、パッと思いつかないな。
できれば格好いいパーティ名がいい。
それから分かりやすい名前。
誰が聞いても覚えてもらえるようなのがいいな。
「三人いるから冒険トリオとかどうでしょう?」
「怪斬組」
「……パーティ名どうしようかー」
シャンデとリュミの命名は却下しよう。
二人のこと馬鹿にできないな。
まだ二人はパッと思いつくからいいけど、俺は一つも思いつかない。
バァン!! と、壊れんばかりに扉が開かれた。
冒険者ギルドの全員の視線が入り口に向く。
息を切って入ってきたのは、俺達と同じ冒険者の一人だ。
頭から血を流して、服もボロボロだった。
こういう時、嫌な予感だけは当たる。
最悪の事態が発生したんだ。
「地竜の巣穴が崩壊した」
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