第26話 地竜討伐の大規模作戦

 冒険者ギルドが用意した馬車の中で、俺達冒険者は揺られていた。

 ザッと見て三十人は乗っている。

 それが、三台続いて走行しているので、100人弱の冒険者が目的を一緒にしているということだ。


 みんなざわざわと騒がしい。

 喋っていないと不安が紛れないのだろう。

 俺だってそうだ。


「二人とも本当にいいの?」

「何がですか?」

「冒険者ギルドに居残っても良かったのに、こうして来たことだよ」


 地竜の巣穴が崩壊した。

 ダンジョンの入り口が、地竜達によって破壊されたのだ。

 地竜の大群は未だに群がっているので、修復作業は困難だ。

 仮にダンジョンの出入り口が破壊されたとしても、そこからモンスターは出てこないはずなのに、何らからの理由でモンスターが溢れ出ているらしい。


 ダンジョンの入り口付近では『千本槍』の団員達がいて地竜の群れの相手をしているが、状況的に厳しいらしい。


「でも、地竜の巣穴っていうところはウラジオから近いんですよね? それを食い止めるためには、一人でも多い冒険者の協力が必要だって、職員さんが言ってましたよ?」

「確かにそうだけどね……」


 人手が足りないので、冒険者ギルドの冒険者が招集された。

 ランクは関係ない。

 参加してくれるのだったら誰であろうと自由の大規模作戦が開始された。

 依頼主は勿論冒険者ギルドだ。

 多額の成功報奨金を約束されたが、これはお金の問題ではない。

 命を懸けられるかどうかの問題だ。

 それは、滅多に目にしないギルド副長も言葉にしていた。


 ――久しぶりの大戦だ。冒険者諸君。しかし、君らが参加するしないは自由だ!! ただ、君らが地竜の勢いを止めらなければ、君達の家族は死ぬかもしれない。モンスターによって無残に食い殺された肉塊と化すだろう。そうなる未来を君らは回避したいと思わないのか!? 自分の命を懸けても、家族や仲間、隣人を救いたいと思える勇気ある真の冒険者は、私達が手配する馬車に乗って欲しい!!


 そう言って、冒険者ギルド内にいた皆を鼓舞した。

 大した演説で、その声を聴いてみんなの表情は変わった。

 年齢は五十を超えていた気がする。

 言葉に重みがあり、心打たれた冒険者も多かった。


 それでも、馬車に乗らなかった冒険者達もいたが、誰もそれを責めなかった。

 それだけ地竜の大群を相手にするのは危険だということだ。


 だが、もしも地竜をそのまま放置していたら、被害はどんどん拡大する。

 活動範囲はダンジョンの域を超え、一般人の住む住宅街まで広がってしまう。

 地竜達が暴れ出した原因は未だ不明だ。

 だが、まずは地竜達を倒すか、ダンジョン内に押し込むのが先決だ。


「強制じゃない。本当に危険なんだ。……ベルさんもいないし」


 Sランクのベルさんは、丁度別の任務を受けていてウラジオから離れているらしい。

 彼女がいれば百人力だが、連絡が取れ次第、すぐに向かうように手配済みのようだ。


 そして、Sランクのアリアは、既にダンジョン深部で最も手ごわいモンスターの相手をしているらしい。

 彼女がいながら全ての地竜を抑えきれなかったということは、相当数のモンスターが暴走状態に陥っているようだ。


「本当に危険だから、馬車が地竜の巣穴に到着したらすぐに引き返してもいいと思うよ。誰も臆病風に吹かれたなんて思わないよ」


 脚が震えている男性も冒険者の中にはいた。

 彼は地竜との戦闘経験があるからこそ、怯えているのだろう。

 彼よりも、何も知らない二人の方が逆に危険だ。


「やります。どこまでやれるか分からないですけど」

「私もだ。何かあったら守ってくれるのだろう? 先輩」


 二人は迷いのない眼をしていた。

 ならもう、俺から忠告することはない。

 大きな戦力として数えておこう。


「ああ――」


 ガクン、と馬車が急に止まる。

 確かに時間的には目的地に着いていてもおかしくないが、止め方があまりにも乱暴だった。

 馬車全体が揺れたと同時に、御者の叫び声が響いた。


「ああああああああああっ!!」


 ズシン、と地震のような足音が聴こえた。

 近い。

 いや、すぐそこに地竜がいる。

 ここに座っていたら死ぬ。


「二人とも外へ!!」


 大声を出したが、間に合わなかった。

 地竜の極太の脚によって、馬車が飴細工のようにひしゃげた。

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