第12話 解散したパーティメンバーはそれぞれの道へ

 冒険者ギルドに着いたので、俺達は受付に並んでいた。

 ギルドの受付嬢は何人もいるが、俺はベルさんの列にしか基本的には並ばない。

 慣れている人とじゃないと喋りづらいからだ。

 他の人が査定している間、無言になるとあの気まずさは地獄だ。


 ただ、人気があるからベルさんの所はえらい列ができる。

 あまりにも並びすぎると、ギルド長が他の受付嬢の所に並びなおさせることがあるが、今回はそんな並んでいないので大丈夫そうだ。


 すると、


「えっ」

「ま、まさか……」


 シャンデとリュミが固まる。

 二人の視線を追うと、遠くにいるアリアが、おっ――ほほほ、と高らかに声を上げていた。


 いつも通り、絶好調だな、あの人は。


 俺はあの人の奇行に慣れているから、また愉快なことがあったんだろうな、といった感想しか頭に浮かばなかったけど、二人は違うみたいだ。

 顔面蒼白になっている。


「す、すいません。お腹痛くなったので、お花を摘みに行ってきてもよろしいでしょうか?」

「ああ、はい。どうぞ」

「わ、私もお花を摘みに行ってきます!! 申し訳ないが、後は頼みます!!」

「そんな連鎖的にお花摘みに行きたくなります!?」


 シャンデとリュミがどこかへ行ってしまった。

 アイテムポーチは預かったから査定には響かないけど、一体どこへ行ったんだろうか。

 トイレは別方向なんだけど。

 始めてくる冒険者ギルドだから、やっぱり場所分からないか。


 冒険者ギルドについて興味ありげにキョロキョロ周りを見渡していたから、トイレ以外にも色々と教えようと思ったのだけど、その機会を失ってしまったな。


 列が動いて俺の順番になる。


「それじゃあ、査定をお願いします」

「はい、受け付けました。早かったですね?」


 一日何十人も相手をしているというのに、すぐさま俺がどこに行く予定だったのかを把握している。

 そんなことができるのも、この冒険者ギルドではベルさんだけだろう。


「色々ありまして、ダンジョンも探索できなかったんですよ?」

「だ、大丈夫でしたか?」

「ええ。怪我もなかったので、大丈夫ですよ」


 ダンジョンに向かっていなかったので、マッピングしていない。

 提出したのは、報告書だ。

 サーフェス湿原に強力なモンスターはほとんど出現しない。

 食べたバイコーンの肉はあまり残っていないし、薬草などの数も少なかったので報告書に書くことはほとんどなかった。

 今日は早く終わりそうだな。


 不意に、ベルさんが顔を上げる。


「そういえば、並んでいる時になんだか騒がしかったですけど、どうされたんですか?」

「ああ、あと二人いたんですけど、お腹壊したみたいでどこかに行ったんですよ」

「!? も、もしかしてパーティを組まれたんですか!?」


 ベルさんは興奮したように、机に手をついて立ち上がる。


「す、すいません……」


 周りの視線が集まったのが分かったようで、ベルさんはゆっくりと座る。


「ち、違いますよ。組んでないです。ただ、一緒に行動しただけですよ。報告書にも書いてますけど」

「そうですか……。それは嬉しいような、嬉しくないような」

「どういうことですか?」

「私やアリア以外の人とパーティを組むのは嫌だったんです。ですが、レイリーさんが誰かと組んで冒険者を辞めないでいてくれたらと思ったら、嬉しいとも思ったんです」

「ありがたい言葉ですけど、冒険者は辞めますよ。少し危なっかしい二人だったので、観て上げないといけないと思って」

「Fランク冒険者ですか?」

「いいえ。冒険者ですらないみたいです。ただ、自分を見ているようで放っておけなくて」


 そう言いながら、大分お金に釣られていますけど。

 普通に冒険するよりお金貰っているからとは言えない。

 そうですか……とか、深刻そうに呟いているベルさんを見ていると、何も言えなくなってしまった。


「どうされましたか?」


 いきなり声をかけられて焦る。

 とにかく適当に話題を振る。


「ああ、いや、新しくパーティ募集したんだなって思って」


 誰からの依頼とか、パーティ募集の紙を貼る掲示板を受付に来る前に見ていた。

 そこにモンスター出現注意報なんかも書かれるから、どんな冒険者であっても、冒険者ギルドに来たらそこを見るのが鉄則だ。


 それを見たら、ついつい目に入ってしまったのはパーティ募集の紙。

 新しく『ドラゴンクロー』が募集をかけていた。


「ええ。昨日の今日ですから集まらないと思っていましたけど、どうやら新しい人が入ったみたいですよ。今日、出発されました」

「そうですか……。良かった……」


 思ったよりも早くパーティメンバーが決まって良かった。

 新しく入った人が馴染むことができればいいな。

 今、何しているんだろう?

 そう思いながら、俺は査定が終わるのを待った。

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