第11話 妖精の宿屋
ウラジオに、二人を伴って戻ってきた。
活動しやすい場所の確保ということで、まずは宿屋に赴くことになった。
何か所かある宿屋の中で利便性や安さを考えると『妖精の宿屋』が、やっぱり一番じゃないかと思い案内した。
「す、凄いですね。妖精が従業員なんですか?」
シャンデが嬉しそうに声を上げる。
「はい、ここにいる全員が妖精です」
ビュンビュン、と妖精達が店内を飛び回っている。
動く度に、黄金色の鱗粉が舞い落ちている。
彼らは自分の身体の何倍もの荷物を楽々と運んでいる。
「ああ見えて、みんな力持ちなんですよ」
羽が付いている彼らの身体は握り拳ぐらいの大きさだが、力は人間の数十倍ある。
魔力も生まれつき人間の数十倍で、物を軽くする魔法スキル、火魔法や水魔法、風魔法などあらゆる魔法スキルを使いこなせる。
その能力を生かして宿屋以外にも、飲食店や引っ越し業者なんかでも目にしたりする。
「お客様、三名様でよろしいでしょうか?」
受付には、キッチリとした服装をした妖精が浮いている。
ペンが独りでに動きだした。
自動的に動いているのは、妖精達が魔法のスキルを使っているからだろう。
「いいえ、こっちの二人だけです」
「お部屋は二つにしましょうか?」
二人が泊まり込むのだから、二人が決めて欲しい。
俺は振り返って訊いてみる。
「どうします?」
「一つでいいです」
シャンデが答えると、受付の妖精が質問を続ける。
「ベッドの方は、ツインとダブルがありますが」
「ツイン? ダブル? どういう意味でしょうか?」
「ツインはおひとり様用のベッドが二つ並んでいる部屋で、ダブルはお二人様用のベッドが一つ置かれているお部屋になります」
「それじゃあ、ダブルで」
リュミの顔が一気に赤くなる。
一つのベッドに二人で眠るのが恥ずかしいみたいだ。
今までの旅でも同じ寝床とかあったろうに。
同じベッドだと意識してしまったのだろうか。
「ええと、でも……」
「いいじゃないですか。ダブルの方が安いみたいですよ」
「で、でも」
シャンデは引く気がないようだった。
しばらく考えると、リュミは意を決したように答える。
「わ、分かりました……」
「はい! ということで、ダブルでお願いします!! 一週間宿泊でお願いしますね!!」
「了解しました。少々お待ちください」
奥の方から鍵がフワフワと浮いて出てくる。
きっと《フライ》の魔法スキルを使っているのだろう。
「こちらがルームキーになります。宿から出る時はお返しください。戻ってきた際にはまたルームキーをお渡します。一週間滞在となると、料金の方は前払いになりますが?」
「お願いします」
リュミが料金を払い、部屋へ向かおうとすると、
「お部屋は二階になりますので、お荷物はお部屋までお運びします」
別の妖精が、リュミ達の荷物に《フライ》の魔法スキルを使って浮かせる。
妖精が部屋まで運ぶと、
「何かあれば何でもいいので受付や掃除をしている妖精でもいいので、ご質問ください。それでは」
といって、飛んで行った。
廊下には水魔法を使って床掃除をしている、他の妖精もいた。
炎魔法と風魔法を使って熱風を生み出して、老化が水浸しになってもすぐに乾かしている。
「さっき荷物を運んでくれた妖精可愛かったですねー」
「ええ。ピンク色の羽でしたし」
「そうそう。羽の色も綺麗だったし、顔も可愛かったあ」
シャンデはリュミの肩に手を置きながらはしゃいでいる。
女子からしたら妖精は可愛いんだろうな。
俺からしたら、見慣れてしまってあんまりそうは感じない。
「レイリーさん。そんなところに立ってないで、入って下さい」
「は、はい」
シャンデ達が借りた部屋ということで、立ち入るのを遠慮していたのだけれど、そう言われたら入るしかない。
三人に入るとこの部屋は狭苦しいけど、寝て起きるだけなら何の不自由もない場所だ。
「観て下さい。景色良いですね」
シャンデの言う通り、窓から見える景色は最高だ。
こうしてみると、人の流れがはっきり見える。
人の行き来が多いのは、やはり冒険者ギルドだろう。
「二人は冒険者ギルドに行かないんですか?」
「え?」
「冒険者ギルドが一番求人募集してますよ? それに、何か採取している薬草や倒しているモンスターがいれば、それが売り物になりますけど」
リュミが取り出したのは、薬草やキノコといったものだった。
モンスターは流石に狩れていないか。
「これって、売り物になりますか?」
「なりますね……。明らかに毒っぽい奴も、使い道はありますね。あんまり高くはないですけど」
毒々しい斑点をしているキノコもあった。
よくこれを採取しようと思ったな。
薬草だと、食べられる薬草によく似た毒草があるから、間違えて採取するのは分かるが。
植物図鑑あげようかな。
初心者用だったらもう使わないし。
「どうしましょう?」
「そうですね。……売りに行くだけでもいいんでしょうか? 私達は冒険者になる予定はないんですよ」
シャンデとリュミが少し話し合って、冒険者にはならないと答えを出した。
というか、以前よりそう決めていたようだった。
「冒険者にならなくても、売買はできますよ」
そう言うと、シャンデは安心したようだ。
「ただダンジョン探索には許可がいるんですよ。ランクによる規制が入ります。ただし、薬草集めや、ダンジョン以外の、例えばサーフェス湿原とかだったら冒険者じゃなくても行けますし」
自分のランク以上のダンジョンに、行こうと思えば行ける。
冒険者ギルドの職員に、一日中ずっと見張られている訳ではないのだ。
ただ、売買する時にかなり注意を受けることになる。
何度も同じことをすれば、冒険者の資格を失うこともある。
「それに裏技として、冒険者の付き添いと言う形なら冒険者じゃなくてもダンジョンに潜れることができる時がありますね」
薬草を鑑定できる薬剤師だったり、鉱物の種類を見極められる錬金術師を連れてダンジョンに挑戦することだってあり得る。
そもそも冒険者じゃない人の護衛依頼だって、たくさんある。
だから、冒険者じゃない人間を完全にダンジョン探索禁止にすることは、まずできない。
「俺はFランクの冒険者ですけど、他に付き添いでCランク冒険者がいる時は、Cランクダンジョンに潜れましたからね」
許可が下りないとまず無理だ。
だから、例えばFランク冒険者がSランク冒険者と共にSランクダンジョン攻略に乗り出すとなったら、流石に冒険者ギルドの職員も止めに入るだろう。
「それじゃあ、早速ですけど冒険者ギルドへ行きましょうか?」
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