第34話 俺達パーティの冒険はこれからだ(1)

 いつものように、俺達は冒険者ギルドにやって来ていた。

 今日ばかりは、冒険者全員で打ち上げだ。

 勿論、飲み食い自由で、お金は全て冒険者ギルドが出してくれる。


 それとは別で報酬も出た。

 一ヵ月、二ヵ月は何もしなくても生活できるぐらいのお金は貰った。

 高い物を買いたい欲求も特にない。

 精々、美味しい物でも食べに行こうかな。

 特に、俺のことを運んでくれたシャンデと、リュミと、アリアに何か高い物を奢りたい気分だ。


「うぇーい。飲んでるか、レイリー」


 男の冒険者が絡んできた。

 随分酔っぱらっているようだ。

 知り合いなのだろうか?

 顔を包帯でグルグル巻きにしているせいで、全く誰か分からない。


 俺も包帯を全身巻いているけど、そこまでじゃない。

 診せた魔術師には、施設の療養も勧められた。

 ただ、俺の傷はモンスターに負わされたんじゃなくて、ほとんど自滅してできた傷だ。

 みっともないので、意地でもベッドで寝るのは拒否した。


「まあ、ぼちぼち」

「ぼちぼち? ぼちぼちってか。ぼちぼちってどんぐらいだ? ギャハハハ!!」


 絡み酒だよ、おい。

 酔っ払いの相手をするの嫌いなんだけど。

 相手をするのが面倒だけど、別に嫌味を言うためにここに来たわけじゃなさそうだ。


「お前が地竜の王を倒したって本当か?」

「えーと、まあ、そうかな……」

「ハハハ。どっちだよ!! ありがとうな、レイリー。お前のお陰で俺達救われたぜ」


 地竜の王。

 Cランクダンジョンに生息したとはいえ、ダンジョンのボスとなるとBランクぐらいの実力はあったんじゃないかって勝手に思っている。


 それをレイリーが倒せたかというと、懐疑的な眼で見ている冒険者もいた。

 ただ、複数の目撃証言があったので、俺には他の人間よりも多めの報奨金が渡ってのでそれを妬んでいる奴もいるだろう。

 その中で純粋にお礼を言ってくれる人間がいて嬉しい。


「じゃあな」

「ああ」


 見た目より元気そうに手を振って、どこかへ行った。

 どこかの集まりに消えて行った。


 最後、顔が赤くなったのは酔いのせいじゃなくて、お礼を言ったからじゃないんだろうか。

 それが気恥ずかしくて赤くなったんだったら、随分と不器用な人のようだ。

 なんとも、冒険者らしい人だ。


「みんな無事でよかった」


 俺は俺で命の危機ではあったが、シャンデとリュミ、二人もピンチだったらしい。

 幾多のモンスターに襲われながらも、俺に追いつくのに必死だったのだから、そうなのだろう。


 そして、今回の件での死者は奇跡的にゼロだったらしい。

 死人が出たとしても、きっとみんなここで酔っ払いになっていただろう。

 だけど、その時はエールに今とは比べ物にならないほど溺れていたに違いない。

 今日はいいエールが飲めそうだ。


 エールは、飲む人間によって味が変わる。

 顔見知り全員とお祝いしたいところだが、そうもいかなかった。

 レイスと、アリアはどこにもおらず、近くにいる冒険者達に聴き込みしても誰も分からないと言っていた。

 もしかしたら、まだどこかで、地竜の解体作業をしているのかも知れない。


 今回大量に発生した地竜達の騒ぎを鎮圧することには成功した。

 地竜の王は断末魔の叫びを残した。

 それが聴こえたのか、モンスター達は連鎖的に大人しくなった。

 報告によると同時刻、地竜達はみんな鳴いていたらしい。

 人間達には理解できない言語でコミュニケーションをしていたのだろうか。

 ともかく、事態は落ち着いた。


 そして、死骸となった地竜を解体作業が大変だ。

 一気に地竜が死んだのだ。

 そのままにしていたら、死臭によって俺達は生活できなくなるし、モンスターの生態系もどう影響が出るか分からない。


 そこで駆り出されたのは俺。

 《遅延》というスキルに関しては専門家ということで白羽の矢が立った。

 そして、倒れる寸前まで《遅延》をかけ続けていた。

 かけ終わって、ようやくこの冒険者ギルドでゆっくりできるようになった。

 随分遅れたせいで、もうエール飲み過ぎて出来上がっている奴等が沢山いるのはそのせいだ。


 半分は《遅延》をかけなかったので、その半分を今、冒険者達が解体作業をしている。今ここにいない冒険者はきっと、ほとんどがその解体作業をしているのだろう。ベルさんもいないってことは、ベルさんもそうなのだろう。


 そして、今、冒険者ギルドで料理として出されている肉がまさにその解体されたものだ。

 廃棄にならないように、翌日、格安で売られるらしい。

 地竜の肉料理や、そして肉そのものも。

 精肉店が嬉しがるだろう。


 若い冒険者達も飛び上がっていた。

 地竜の肉にありつけることは少ない。

 この機会に飽きるほど食べられる!! とさっきまで近くで騒いでいた。


 それから、ダンジョン内にある地竜の運搬作業には、妖精達も駆り出されたらしい。

 妖精達は物を浮かす魔術が得意だから、頼むなら打ってつけの相手だ。

 種族の垣根を超えて、ウラジオが一丸となった瞬間だ。


 ただ、運搬作業も解体作業もまだ全てが終わった訳ではない。

 ウラジオの冒険者ギルドの職員と冒険者が二分割され、一日交代で臨むことになっている。

 明日は俺達も参加することになる。

 作業速度を見れば、ゆっくりやっても明日で最低限の作業は終わるだろう。


 ということで、俺の顔見知りでテーブルにつけたのは、パーティメンバーの三人しかいない。

 こういう飲みの席っていうのは、あまり好きじゃないけど、この二人となら美味しく感じられる。

 昔は、嫌々飲んでいたものだけど、やっぱり、気が合う人との飲みは楽しいな。


「気の毒だが、先輩の元パーティメンバーの全員捕まったらしいな」


 空気が凍った。


 いきなり、エールが不味くなる話を振らないで欲しいな。

 キンキンに、冷えているエールが、さらに冷たく感じるようなこと言わないでくれ。


「ちょっと、リュミ!!」

「す、すいません……。言い方が悪かった」

「まあ、いいよ、実際そうだし」


 地竜達がどうしてこんなに暴れたのか。

 その真相を知った時は仰天した。

 まさか、ギラン達が引き起こした事件だったなんて。


 動機は不明だった。

 冒険が上手くいっていないからの憂さ晴らし。

 職員に強く責められたことによる冒険者ギルドへの報復。

 様々な憶測が飛び交ったが、結局本人達に聴くまでは分からないだろう。

 実はまだギランだけが消息不明で、冒険者ギルドの職員達が探しているといった噂もあるので、話がこんがらがっていて俺にもよく分からない。


 だけど、それ以外パーティメンバーと、取引に応じた商人は捕縛されたらしい。

 もう二度と会うこともないかも知れない。

 せめて、どんなことがあったのかの詳細は知りたかった。

 時間が経てば、分かる時が来るのだろうか。


「捕まったみたいだけど、死刑になるか、島流しにされるか分からないみたいだしね。それなりに重い罰は喰らうみたいだけど……」


 死者がゼロとはいえ、怪我人が大勢出た。

 ダンジョンの修復作業の為にも人員を割かないといけないし、時間もかかるということは、それだけのお金も発生する。


 罪を償うだけではなく、その賠償金も支払わなければならない。

 彼らが散財していることは知っている。

 どこにそんな体力あるんだというぐらい、ダンジョンから帰ったら毎晩遊んでいた。

 貯蓄がないのなら、働いて返すしかない。

 きっと、過酷な労働環境に身を置くことになるだろう。

 何年も働いて返さないといけない。


 そういう風に想像すると、ゾッとする。

 俺がまだ『ドラゴンクロー』に所属していたのなら、きっと、俺は彼らの分もお金を払っていただろう。

 パーティメンバーは一蓮托生だ。

 他人だからといって、金を払わない訳にはいけなかっただろう。


「だけど、ショックというよりかは、ホッとしちゃったんだ」

「え? どうしてですか?」

「俺がもしもまだ『ドラゴンクロー』にいたら、俺もあいつらと一緒に犯罪行為に手を染めていたかもしれないから」


 流されやすい性格をしているからな、俺は。

 もしもクビにされていなかったら、流されていたかも知れない。

 嫌なことは嫌だという性格ではあるが、話聞かない人ばっかりだったからな。


「そんなことないですよ。そんなことする人じゃないじゃないですか、レイリーさんは」

「そうかな……」

「それに、もしもそんなことしていたら、私達が止めますから」

「同ふぅいです」


 リュミは、同意と言いたかったらしい。

 パスタを食べていた。

 とりあえず、喋る時は食べるの止めて欲しい。

 せっかくシャンデがいい事をいっていたのに、台無しだ。


「ありがとう、二人とも。そうだね。認めたくないけど、きっと俺達『ドラゴンクロー』はパーティじゃなかったんだ」


 俺は仲間だと思っていたはずだった。

 でも、俺はギラン達を信用していなかった。

 ずっと一緒にいたはずなのに、信頼を置けるほどの関係性じゃなかった。


 もしも、仲間だと思っていたら、彼らが犯罪行為に手を染める訳がないと思っただろうし、そうじゃなくとも、何か理由があるんじゃないかって思える。


 だけど、俺は冒険者ギルドを通さないで売買を行って、金を得るためだけが目的だったという噂があるけど、それを完全否定できるほどお人よしじゃなかった。

 むしろ、有り得ると思ってしまった。

 それはきっと仲間という関係じゃない。


「もしもギラン達が犯罪行為をしようとしていたら、全力で止められていたか分からない。そんなの仲間じゃないよね。命懸けで救うし、命懸けで止める。それができるのが、きっと仲間で、パーティなんだ」


 信頼関係を築いていなければいけない。

 パーティは自分の命を託せる相手じゃなきゃ、成立しない。

 その大切なことを、俺は心がけることができていなかった。


「え? すいません。もう一度先程の台詞を言ってもらえませんか?」

「え? だから、仲間っていうのは何があっても、命懸けで守ろうとする関係だって言ったんだけど?」

「ありがとうございます。そのお言葉、魂に刻みました」


 執拗なぐらいシャンデが繰り返したけど、何だろう。

 仲間やパーティという言葉に憧れがあるんだろうか。

 出会ってから、そういう単語によく反応するから、何か特別な想いがあるのは分かるけど。


「でもできれば、二人には危ないことはあまりしないで欲しい。あの時危なかったのに、どうして二人とも来たんだよ」

「あの時、ですか?」

「地竜の王と対峙していた時だよ。あの時、地竜の王を倒せていたから良かったけど」


 さっきと言っている事が矛盾しているようだけど、二人には危険な目に合って欲しくない。

 だから置いて行ったのに。


「身体が勝手に動いていた。ただそれだけ」

「それって、きっと私達、仲間になれたってことじゃないですか?」

「……っ! ……そう、だね」


 確かにそうだ。

 俺達は本当の意味で仲間になれたんだ。

 追い詰められた時に人の本性は出るというけど、まさに俺達の気持ちが表面化したんだ。


 パン、とシャンデが手を叩く。


「あっ、そうだ! 仲間と言えば、パーティ名ですよ!! 私、考えたんです。私達のパーティ名」

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