口下手な魔術師は、自己アピールが足りないせいでパーティをクビになりました

魔桜

1

第1話 主人公を商品とした人材オークションの開催

 

「ただいまより人材オークションを始めますわ」


 不自然過ぎるほどの厳かな言葉とは裏腹に、冒険者ギルド内にいた者達はウェーイ、と野太い声で叫ぶ。

 面白半分の連中達の騒ぎに、なんだ、なんだと、冒険者達の野次馬が増えていく。

 取り仕切っているのが、イースト大陸に5人にしかいないSランク冒険者だからということもあって人目を引いている。


「先ずは10万!! 10万ゴルドから始めます」

「……じゅ、10万ゴルド!? そんな大金出す奴――」

「11万ゴルド!!」

「俺は11万5千ゴルドだっ!!」

「……ええっ……」


 それからどんどん落札価格が値上がっていった。

 俺はノリが良すぎる冒険者達の過剰な悪ふざけに言葉を失ってしまった。


 ここは、イースト大陸の端にあるウラジオの冒険者ギルド。

 大型の冒険者ギルドであり、酒場と一体型の施設だ。

 アルコール飲料を提供していることもあって、冒険者達の滞在時間は長いおかげでいつも賑わっている。

 どいつもこいつも片手にエールを持っている。

 つまり、完全に酔っぱらっていた。

 このイベントは、きっとダメな大人達の暇つぶしだ。


「あの、これ、そろそろ解いてくれません?」


 俺は逃げられないよう、ギチギチに縄で椅子に縛られていた。

 この突然始まった人材オークションとやらの開催者であるSランク冒険者によって。


「ダメですわ。せっかくのチャンスですもの。今度こそ私と一緒のパーティを組んでもらいます」


 ウインクをする彼女に、思わずドキリとする。

 黙っていれば絶世の金髪美少女なので騙されそうになる。

 彼女の家は金持ちで、そして彼女自身には天賦の才がある。


 だから、欲しい物は全て手に入れてきた。

 そのせいで自分が世界の中心にいると思っている節があるので、俺の言うことを一切聴いてくれない。

 口を開けば残念美女なのだ。


 そもそもこの人材オークションって何だ。

 いつものようにSランク冒険者の金髪美少女が俺を勧誘してきたが、今回はえらく熱がこもっていた。


 そのせいでちょっとした騒ぎになった。

 それから騒ぎを聞きつけた人で溢れ、収拾がつかなくなったから、今度は俺を商品としてオークションが始まった。

 俺を自分達のパーティに入れる権利を、金で決めようということなったらしい。


 そんなの奴隷オークションと同じじゃないか。

 いきなりふん縛って、本人の了承もなく人間の価値に値段を付けるなんて。

 しかも、今や俺はFランク冒険者のソロだ。

 パーティから役立たず扱いされて追放されてばかりで傷心中だというのに、こんなの晒し者だ。



「50万ゴルド支払いますわ!!」



 シン、とギルド内に沈黙が落ちる。

 Sランク冒険者による一気に跳ね上がった価格レートに、みんなの酔いが冷めたようだった。

 驚愕のあまり、誰も言葉を発さない。

 その沈黙を破ったのは、静観を決め込んでいたAランク冒険者だった。


「俺が53万ゴルド払おう」


 鎧を着込み、一本の槍を携える冒険者に、その場にいた全員の視線が集中する。


「う、嘘だろ。今度は『神槍』だっ!!」

「『神槍』ってこの前、あのAランクの人喰いドラゴンを退治したっていう?」

「そうだよっ……。ウラジオで最も規模のデカいパーティで、入団する足切りラインはBランクだって噂だ」


 他の冒険者達は、金額的にもうオークションには参加できない。

 この人材オークションは実質、Sランク冒険者とAランク冒険者の一騎打ちになった。

 二人は腕を組みながら睨み合う。


 身長差は父親と娘ほどあるが、実力は逆転することを皆知っているので、俺は固唾を飲んだ。

 戦いが起きたらこんな建物、戦闘の余波だけでペチャンコになるだろう。


 団長は威風堂々としていたが、後方に控えていた数十人の団員達は泡を食っていた。


「ちょ、ちょっと団長、本気ですか?」

「パーティの年間予算を使う」

「で、ですが、あんなFランク冒険者のために内のパーティの予算を使う気ですか?」

「黙っていろ」

「ヒッ!!」


 スキルじゃない。

 ただの威圧だけで、意見を言っていた団員は尻餅をついた。


 ダンッ!! と、空になったジョッキを、Aランク冒険者の団長はテーブルに叩きつける。


「奴の価値は、分かる奴にしか分からんのだ。……ヒック。そうだろ? 『雷速の黒剣』よ。あっ、俺にエールをもう一杯」

「フン。アナタのことを面白みのないただの堅物だと思っていましたが、認識を改めますわ。どうやら彼の大器を測れているようですわね。あっ、私もエールもう一杯」


 よ、酔ってるうううううううううう。

 どっちも顔赤くなってるよ。

 特に団長の方は顔が真っ赤で火を噴きそうだ。

 見た所まだ一杯しか飲み干していないのに、アルコール弱いのかフラフラなんですが。

 今にも倒れそうなんだけど。

 いつもゴツい身体で仏頂面しているから怖い人だと思っていたけど、こんなに愉快な人だと思わなかった。


 最早、酔った悪ふざけで済まないレベルの金額になってきた。

 この騒ぎ。

 俺のせいじゃないのに、俺のせいになりそうだった。

 誰か助けて欲しい。


 頭がクラクラしてきた。

 どうしてこうなったんだろう。

 俺は事の発端となった、パーティ追放事件について思い返した。

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