第19話 その目に宿すのは
「待ってろよ、すぐに病院へ連れてってやるから……!!」
息を切らしながら黒木を背負う相原。
九は子供達の手を引いて走る。
拠点は失ったが、命あってこその話、今やるべきことは安全な場所に行き黒木の治療だ。
「もう少しで……!?」
狭い路地を通り抜ければ大丈夫、そう九は言おうとしたが眼の前の光景でその言葉は声にならなかった。
「おい、どうし」
相原も目の前で銃口を向けられているのを目にして言葉を失う。黒木は呻きながら「ご、ごめん……」と、謝る。
「お前が謝るな」
そう返すものの、状況は最悪だ。
「全員銃を捨てろ、そうすれば命は取らねぇ」
九と相原は互いに顔を見合わせ持っていた拳銃と散弾銃を地面に置く。
両手を挙げて降参のポーズをする。
始皇帝のメンバーが地面に置かれた銃を回収し戻るのを確認してから「撃て」と、告げる。
銃声の後に幼き子供達が射殺される。横に立って泣くのを我慢していた子供達の命が、一瞬で奪われた。
その光景に九は「な……んで」と、脳が理解しきれずに言葉を漏らしていた。
「幼子は我々の思想に洗脳して使えるが、日本人の血が流れている以上不要。死あるのみだ」
自分勝手、その一言に尽きる行動に「お前ら人の命なんだと思ってるんだっ!!!」と、相原が叫ぶ。
「尊きものだと思うておるが、貴様ら日本人の生命など畜生以下よ」
再び銃口を向けられ「次はお前達だ」と、告げられる。
どうすることも出来ない状況に万策尽きた、そう思っていた二人だったが……。
「ならば貴様らが逝ね」
後ろから無機質な声が聞こえる。
二人がそう思った瞬間弾丸の雨が始皇帝達に浴びせられる。
眼の前で殺された者達の身に何が起こったのか、近づく人物を見て理解する。
「や、闇鴉……!!」
片手に自動小銃を持って姿を現す闇鴉を睨む九。
「そこを曲がれば病院まで連れてってくれる奴がいる、そいつの元に行って治療を受けさせてやれ」
黒木を見て話す闇鴉に「あ、あんたが……! あんたのせいで子供達は!!!」と九は叫び闇鴉を殴った。
殴った衝撃で仮面は外れ、素顔があらわになる。
「さ、冴木秋……」
ニュースで流れていた通り、闇鴉の正体は冴木秋だという事実に驚く相原。
冴木は地面に倒れている子供達の目を隠し小さな声で「済まない」と、謝る。
「えっ……」
謝罪する冴木の声が聞こえた九は信じられない目で冴木を見る。
この人は一体何を考えているのかが分からない。
「まずお前達を事件に巻き込んだことを謝罪する。そのせいで少年は怪我をし、子供達の命は失われた。これは謝罪だけで済む問題じゃないのは重々承知している。だが、それでも俺はお前達の能力を買っていた事実だけは忘れないでほしい」
そう話す冴木に「だ、だったらどうして貴方は闇鴉を名乗って犯罪を……?」と、相原が問う。
「ある、事件の真相を知るために闇鴉を名乗ることにした」
質問に答えた冴木は「早く連れてってやれ」と言いながら相原に封筒を渡してから、仮面を拾い走り去った冴木。
ちょっとと、九が手を伸ばして口にするがもう行ってしまい引き止めることは出来なかった。
「――行こう」
相原の言葉に九は「え、ええ」と返し冴木が指さした方向へ走り出す。
◆◇
外出禁止令が出されているが、俺を血眼になって探している民衆や特銃所持者を横目に俺は第五人工島へ向かう。
「くそ……っ!」
痛む腹部を抑えて俺は走る。
胡桃沢を助けるために、もうあの子を悲しむことがないように……。
「いたぞっ!」
見つかった、そう思っていると容赦なく発砲してくる連中。
面倒と思いつつも、銃弾をかわして第五人工島最短ルートの新首都高第五人工島行きのトラック上に着地する。
少しの間、休めると思い義母さんから受け取った痛み止めを口に入れ、飲み込む。
「ふぅー、ふぅー、ふぅー」
何回か息を吐きだして痛みで乱れる思考を安定させる。
始皇帝が拠点としている場所の出入り口、及び相手の装備や人数を再度脳内で確認し侵入からの行動パターンを脳内でシュミレートしていく。
『こちら横浜警視庁、各捜査員に告ぐ』
無線を傍受したらしく、そちらに耳を傾ける冴木。
内容は冴木が向かっているとされている第五人工島への上陸及び冴木の逮捕についてだ。
始皇帝のしの文字すらも言及されていない様子から、真犯人が関与しているのは明確だったが、冴木はそれを考える余裕はもうなかった。
死に体の冴木が、今こうして動けているのはひとえに胡桃沢を助ける……。
その一心で無茶に無茶を重ねて動いている。
その果てに自身の死が分かっていてもなお……。
「見えてきた」
トラックはいよいよ、第五人工島島内へ侵入する。
運命の分岐は、後少しで……。
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