第25話 互いに思うは唯一つ
「うっ……」
少しばかりの頭痛と共に冴木は目覚める。
先程までの出来事は夢だったのかと、疑問を抱くが側に胡桃沢がいないことと激しい戦闘音で路地の先へ顔を向ける。
時代錯誤な兵士と武器、彼らに苦戦する二機の武装ロボット。
意識を手放す前に受けていた痛みは一切ない。
立ち上がった冴木は路地から出る。
黒煙と炎、破壊しつくされた港設備。そんな状況下で一人の少女は旗を握って敵を睨んでいる。
始皇帝ボスの狙撃と、それに気づかない胡桃沢に冴木は走り出していた。
ショルダーホルスターから愛銃をクイックドロー、狙撃されてから胡桃沢への着弾を計算しベストタイミングで引き金を絞る。
放たれた銃弾はライフル弾の軌道を逸し明後日の方向へと進んでいく。
「注意力散漫だぞ、胡桃沢」
そして冴木は胡桃沢の前に立ち、始皇帝ボスを睨みつけたのだ。
『さ、冴木君……』
良かったと、顔に出ている胡桃沢に「? 何だよ、まるで俺が生き返って嬉しそうな顔して」と、話す冴木。
『うん、うん! 本当に良かった』
「泣くのは後だ。まずはあいつらをどうにかするべきだろ?」
冴木が睨むは二人の人物、もう彼らの相手をするのは飽き飽きだと顔に出す。
そんな冴木にワイズマンは「何度も何度も出てきやがって……!!」と、口にするはワイズマンだ。
「決着をつけようじゃないかワイズマン? もうテメェの相手をするのは飽きた」
その言葉を合図に、先に動き出したのは冴木だ。
ワイズマンもロボットで冴木を殺すべく操縦する。
しかし、冴木は意識を失う前まで感じていた痛みや不調はなく。
むしろ今まで以上に快調で、冴木はワイズマンに向けて射撃する。
そんな冴木のサポートをすると同時に、胡桃沢も始皇帝ボスを相手に攻撃を再開する。
共通の目的で共闘していた悪党と、互いが大切であったが故に本心に気づけなかった探偵と相棒。
しかし、探偵と相棒は本心に気付いた。
気付いたからこそ二人の歩みを、立ちふさがる敵を倒すだけ。
「な、なんということだ……」
第五人工島から研究員及びその家族を保護した横浜警視庁の警官達は船上から見えるその光景に我が目を疑う。
巨大なロボットに臆することなく拳銃で銃弾の雨を浴びせ続ける少年。
もう一人は時代錯誤な兵士を率いて戦闘を指示する少女。
そこに大人はいない。
大人がしでかしたことは大人が始末をつけなければならない。
それなのに、彼らを逃して一瞬のミスで死ぬかもしれない場で戦っている二人を援護することすら出来ないのが、歯がゆさを抱かせる。
「増援は来ないのかっ!?」
「上からは送ることは出来ないと一点張りだ」
「ふざけやがって……!!」
警官らのやり取りを聞いていた少女はただ、燃え盛る島を彼ら同様見ることしか出来ない。
「(なんだ、この違和感は……?)」
始皇帝ボスは武装ロボットの操縦に違和感を覚えた。
聖女ジャンヌ・ダルクの能力で機体にダメージはあれど、そこまで致命的な損傷は見られない。
だが、一瞬でも思ってしまったそれは始皇帝ボスの中で蝕み始める。
毒の様に、じわりじわりと体内を侵食していく。
「まだ、まだ終わらぬぞっ!」
「終わりだよ」
電磁砲を射出準備に入った始皇帝ボスの機体に弾丸を放つ冴木。
適当に撃っただけだと高をくくっていた始皇帝ボスだったが。
『パァッン! プシューッ』
破裂、そして何かが吹き出る音と一緒に出力低下を示す数値計。
警告音が鳴り出し急いで緊急モードへ変更するが、目を離した間に何が起きているのかに気づかなかった。
『ドォン!』
横からの衝撃で態勢は更に崩され港に設置されているガントリークレーンにもたれかかる形で倒れた。
「一体何が起きているんだっ!?」
理解をする前に次々と問題発生し、把握しきれなくなっている始皇帝ボス。
『ハハッ! やっぱりお前さんには過ぎた代物だったんだよ!!』
通信機越しのワイズマンの発言に『貴様は黙ってろ!!』と、怒鳴り返す。
操縦不能である武装ロボットから出た始皇帝ボス。
瓦礫に埋もれずにいた自動小銃を拾う。
「さっさとくたばれ日本人っ!!!」
その叫びと共に放たれる銃弾の雨は胡桃沢と冴木、そしてワイズマンの武装ロボットにすら当たることはない。
半ば錯乱状態で銃を乱射する彼は気づかなかった。
ロボットから漏れ出ているガソリンの存在に……。
燃え盛る火にガソリンが触れた瞬間、爆発を起こしその爆風に始皇帝ボスは巻き込まれた。
爆風で胡桃沢と冴木は吹き飛ばされワイズマンも爆風の熱気に目を腕で隠して耐えるしかなかった。
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