第20話 先祖と子孫

 『白き世界』


 「て、な訳で是非貴方にはご協力を願いたいのですが」

 「興味ない」

 ハッキリと青年に言い返す男性に「ふむ、確かに貴方が拒否する理由は重々理解しておりますとも」と青年は返す。

 「しかし、貴方には彼に言うべきことが幾つかあると思いますが?」

 「アカシア、君は私のことを何か勘違いしているのではないかな?」

 アカシア、そう呼ばれた青年は「勘違い、ですか?」と、返す。

 「私は女性嫌いとして語られている。確かに彼は私の子孫かもしれないが、私から彼に告げるべきことなど一つとして……」

 「へえ、私は君の子孫である彼に一度会ってみたいと思っているがね?」

 険しい表情で話す男性の後ろから彼と親しい人物が口を出す。

 人物を見て余計なことをと、視線で言いたげな様子だったが人物はそれを無視する。

 「そもそもだ、君がしっかりとゴタゴタ部分をハッキリと記しておけば解決していた問題があのような結果を生んだんだ。せめて彼に説明する義務くらいはあると私は思うが?」

 「ワトスン君、これは私と彼の問題だ。君が口出しするのは」

 「その通りだホームズ。君とアカシアの問題だから私も黙って聞いていたが……。少々彼が置かれている立場が酷すぎる。彼がたまに傍観している様子を横で見させてもらっているが、彼は君同等……いや、それ以上の頭脳を持っているのにその能力を本国の君の子孫は認めようとしていない」

 君はそれでいいのか?

 相棒であり親友からの圧に名探偵は目をそらす。

 彼自身、口にはしないものの彼の能力は高く評価し、そして彼が抱える闇も一定の理解はしている。

 しかし、それは彼自身で解決するべきことであり死人である我々が口出しするべきではないと考えている。

 「じゃあもし、彼が死んで貴方の元に現れたらお話されるんですね?」

 「万が一にもそんなことはないと思われるが、構わないとも」

 名探偵の言質を取ったアカシアは「じゃあ、自分はこれで失礼しますね」と、言い残してその場を離れたが……。

 「まさかと思うが、アカシアは彼を殺す気ではないだろうね?」

 「それは私にも分からないぞ、ホームズ」

 名探偵でも、推理しきれない人物が何をする気なのかが計り知れない。

 そんなことがないことを願うだけだが……。


 横浜・第五人工島島内


 貿易港として建造された島だが、今は犯罪者の巣窟になっているこの島の一角。

 錆つき、使用されていない倉庫の中で警備兵が三人程、銃を構え立っていた。

 始皇帝による日本滅亡計画まで残り一時間を切ろうとしていた。

 パシュッと、三回音が鳴ったと同時に、警備兵三人が地面へ倒れる。

 近づくは闇鴉こと冴木。

 冴木は物陰に死体を隠し倉庫内へと侵入する。


 倉庫内はコンテナなどで複雑になっており違法改築も行われた形跡もあった。

 「(まずは……)」

 胡桃沢を助けるのも重要だが、まずは囚われている研究員達とその家族の身柄解放を優先する。

 巡回している兵士の目をかいくぐり、監禁部屋へとたどり着く。

 室内に侵入したことに相手は気付いている様子はない。

 消音器を装着したベレッタで退屈そうに見張りをしている兵士のこめかみに標準を定めて撃つ。

 バタンッと、音を立ててピクリとも動かない見張りに研究員とその家族は何が起こったのか理解する前に冴木が物陰から姿を現す。

 「あ、あんたは……」

 「敵ではないが、吉川巴はいるか?」

 冴木の質問に戸惑いながらも「わ、私です」と、遠慮がちに声を出す少女。

 「君の友人が心配をしていた」

 そう言いながら牢屋の鍵を解錠、彼らを全員牢屋から出させる。

 「部屋を出て右の突き当りに非常口がある。外に出て物陰に身を潜めろ、しばらくすれば警察が来る」

 一方的に言って離れようとした冴木に「ま、待ってくれっ! あ、あんたは……」と、聞かれたので「闇鴉」とだけ言い残して今度こそ立ち去る。

 残された研究員とその家族は本当に闇鴉なのかと疑問を持ちつつも彼に言われた通りにするのだった。

◆◇

 「ボス、見張りから連絡がありません」

 部下からの報告を受けたボスは「様子を見に行け」と、指示を出す。

 彼らの様子を見ていた胡桃沢はもしかして……と、考える。

 隣に座っていたワイズマンがおもむろにホルスターから銃を引き抜き、発砲する。

 発砲した方向には一人の始皇帝メンバーが立っていたが……。

 「貴様、部下に何をして」

 「部下? そいつはどう見たってニセモンだろうが」

 ワイズマンの指摘を聞いてメンバーは「フフ、少々おふざけが過ぎたかな?」と、告げ顔を外す。

 闇鴉としてではなく、探偵として正体を明かした冴木。

 銃口を向けられるが、涼しげな表情で「いやいや、あんたらの手口には驚かされたよ」と、口を開く。

 「そんなこと言っても貴様は死ぬだけだ」

 「まだ死ぬとは確定していない。それに、俺が死ぬのはもう少し後だ」

 そして冴木は胡桃沢を見る。言葉にせずとも伝わる冴木の声に胡桃沢は静かに頷く。

 「あっと、言い忘れてたが」

 そう言って冴木は懐から「俺を撃てば武装ロボットのコアも破壊されるがそれでも構わなければ撃てよ」と、告げる。

 冴木が持つコアを出した後に遅れて「ボス! ロボットの見張りが全員何者かに」と、報告するが、冴木が持つコアを見て言葉を失う。

 「ったく、どいつもこいつも使えねぇな?」

 椅子から立ち上がり冴木と相まみえるワイズマン。

 冴木は「取引しようじゃないか?」と、持ちかける。

 「取引?」

 「俺の手元にはロボットのコアがある。そっちにはジャンヌ・ダルクの子孫がいる。これらを交換しようじゃないか」

 その提案に「だ、駄目だよっ!」と胡桃沢が言うが別メンバーから銃口を向けられ黙る。

 「日本には二兎を追う者は一兎をも得ずって諺があったな?」

 「そっちの事情は知らないが、どうする?」

 「お前を殺して両方得るまでだ!」

 ボスの叫びと共に銃弾は放たれ冴木は近くの物陰に身を潜める。

 「交渉決裂だな!」

 そして冴木は天井の照明をベレッタで射撃、室内を暗闇にする。

 「おい、奴はどこに!?」

 「照明をさっさとつけろっ!」

 混乱する場を冴木は静かに動く。

 「だ、誰っ!?」

 相手が分からないので困惑する胡桃沢を横抱きにして室内から飛び出た冴木。

 入り口の光から「逃げたぞ追えっ!」の叫びが、聞こえるが構わず冴木は走った。

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