第21話 非情な現実
外に出た冴木と胡桃沢。
胡桃沢を下ろした冴木は「ま、まずは胡桃沢を……っ!?」と、話している途中で傷口の痛みから表情を歪ませる。
「冴木君!」
腹部を抑える冴木に寄り添って「連れて行くからもう無茶しないでっ!」と言われてしまう。
「わ、わりぃ……」
本格的に冴木の身体は限界を迎えていた。
銃を撃つのも難しい程に酷使しすぎていたのだ。
胡桃沢に抱えられて移動を開始するが、後ろからの轟音で二人は振り返えった。
その光景は第五人工島へ向かっている途中の警官達も見えた。
そして冴木は自身が冷静さを失っていたことに酷く後悔した。
倉庫の屋根を突き破って現れたのは武装ロボットだったからだ。
『ハッハッー!! 随分と弱ってんじゃねぇか!?』
声の主はワイズマン、ワイズマンの秘密兵器とはこれのことを指していたのだ。
冴木は必死に思考を巡らせようとするが、それすらも出来そうになかった。
故に……。
「胡桃沢」
勝手に相棒と決め、困らせてばかりの彼女だけは絶対に逃がす。
その代償に死を支払うことになっても……。
「俺を、置いて逃げろ」
冴木の発言に「嫌だ」と返す胡桃沢。
「足手まといの俺をさっさと置いてけ!」
「君を置いていくくらいなら死んだ方がマシよっ!」
胡桃沢の言葉に「こんの、分からず屋がっ……」と、言うがワイズマンが操縦する武装ロボットのアームに装着されているガトリング砲を二人に向ける。
遅れて始皇帝も倉庫から出てくる。
「手間をかけさせやがって……!」
最悪の状況、どんな言い訳をしようとも全ては自身が招いた結果。
冴木はそれを受け入れる覚悟はある。
『聖女、その男を助けたければコアを持ってこっちに来い』
ワイズマンからの提案、冴木は「コアを海に投げっ」と言おうとしたが始皇帝の一人に肩を撃たれる。
「分かった! 分かったから彼を撃たないでっ!」
胡桃沢は冴木が持つコアを取ろうとするが、冴木は強く握って放さない。
「冴木君……」
「駄目だ、絶対に俺は放さないぞ……!!」
冴木の悲痛な言葉は懇願にも聞こえた。
君だけは、君だけは行くなとも受け取れる言葉に胡桃沢は。
「ごめんなさい」
一言、彼に謝罪をしてコアを持って始皇帝とワイズマンの元へ向かう。
「行く、な……! 行くな胡桃沢っ!!」
冴木の叫びは虚しく、胡桃沢はコアを始皇帝に渡す。
ようやく手元も戻ったコアを部下に預け、ボスは「では、始めるとしようっ!」と叫ぶ。
「だが、その前に……」
部下に目配せをするボス。
部下の一人が冴木に発砲した。
「! 待って、話が違うっ!!」
「日本人は全員殺す。例外なくな」
その瞬間を突いて冴木はその場から逃走した。
逃がすなとボスは追跡を指示しようとしたが『ほっとけ、どうせ直に死ぬ』とワイズマンが告げる。
本当は、冴木の元に行きたかったが、そんな資格はもうないと諦めて胡桃沢は連れて行かれた。
一方、第五人工島から近い南本牧埠頭には始皇帝メンバーの一斉検挙に向けた対策本部が設置されていたが、実際は冴木の身柄確保の本部ではある。
四ヵ月家を筆頭に横浜警視庁、自衛隊も参加しておりマスコミはその異様なまでの光景をカメラを通して世間に報道していた。
「一刻も早く国家転覆を目論んだ犯人を確保しに行くべきだ!」
「だがまずはテロリスト達に囚われている研究員達をだな……」
不毛で無意味な話し合いを十七夜月家当主『十七夜月』は黙って聞いていた。
その直後、「報告しますっ! 第五人工島にて動きがありますっ!」と、報告が入る。
「確認はできたのかっ!?」
「突入隊からの報告によりますとロボットらしき物体が倉庫を破壊して出現した模様です!」
ロボット、その言葉から自衛隊は「恐れていたことが……」と、言葉を漏らす。
「一つ確認だ。もし仮に武装ロボットを完全停止させる方法はあるのか?」
「コアを破壊すれば停止します。ですが、コア周辺は戦車の砲弾を五発当てなければ破壊できない設計になっております」
自衛隊幹部の発言に「な、ならば巡航ミサイルで破壊するしか」や「それでは甚大な被害が」などと、また議論が始まる。
すると、彼のスマホが鳴る。
「失礼」
一言断りを入れてから「私だ」と、電話に出れば「どうも……」と、弱々しい声が耳に入る。
「随分と弱気な声だな?」
「もう、意識を保つのが精一杯でな? 直に俺は死ぬ……」
彼の様子に隼瀬は「お前らしくもない」と言い返すが、呼吸音だけが耳に入るだけ。
「そう、かもな……。だから、これは俺の……世迷い言だと思って、聞いてほしい」
「聞くだけ聞こう」
「義母さんに――妹に、親友達にごめんって……冴木が言っていたと伝えてくれないか」
その言葉を最後に、通話は終了。
隼瀬は「お前……」と、呟いた。
十数秒後に爆発音が響き渡る。
対策本部のテントから出て第五人工島の方を見ると……。
「あれは」
二機の武装ロボットが、第五人工島で暴れ回っていた。
そしてこちらに向けて何かを放とうとしているのが見え「総員、退避っ!!」と、叫ぶ。
混乱する現場に無慈悲に、ミサイルが向けられた。
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