第22話 そして……。

 「これで、我々の計画が達成されるっ!!」

 コアが接続され、武装ロボットが起動する。歓喜するボスは操縦席に乗り込む。

 「お前はこっちだ」

 ワイズマンに手を引かれて無理やり彼が操縦する武装ロボットへ乗り込ませられる。

 『さあ、日本終焉のシナリオは始めようっ!!』

 その言葉と共に第五人口島内の居住区エリアに向けてミサイルが発射される。

 その一発で爆炎が周辺を包み込み、その威力を目に焼き付けさせる。

 『なら、今度はこっちだな』

 ワイズマンが向けた先は南本牧埠頭、胡桃沢は「やめて!」と、無理矢理にでも止めようとしたが「邪魔をするなっ!」と、座席に叩きつけられミサイルが発射される。

 だが、標準がズレていたらしくワイズマンが狙っていた場所とはまた違う場所に着弾、爆発した。

 しかし、それに気づかないワイズマンは「ははっ! 最高だなっ!!」と、悦に浸る。

 「んじゃあ、今度は……」

 そう言って胡桃沢の手首になにかの装置を装着させると「聖女さんの力見せてもらおうかっ!」と、叫ぶ。

 胡桃沢の身体の中で一気に力が抜ける感覚に襲われる。

 「おぉ、おおおおぉぉぉぉ!! メーターが振り切れてやがるっ!!! これが聖女ジャンヌ・ダルクの力かっ!!!」

 どのような原理で動いているのか、知るよしもないが……。それを使っては危険であることは理解できる。

 無理やり装置を外そうとする胡桃沢に「無駄だ!」と、ワイズマンは告げる。

 『さて、次は首都横浜を滅ぼすぞ』

 『了解』

 始皇帝ボスに返答し、横浜へ上陸しようとする二機の武装ロボット。

 だが、その足取りはロボットにとって貧弱な装備によって引き止められる。

 『あ?』

 地面の方を見れば、散弾銃『ケルテックKSG』を構える冴木の姿が。

 「チッ! さっさと死にやがれっ!!!」

 ロボットで踏み潰そうとするワイズマンだが、冴木は死ぬ覚悟で身体を動かす。

 「チッ! さっさと死にやがれっ!!!」

 ロボットで踏み潰そうとするワイズマンだが、冴木は死ぬ覚悟で身体を動かす。

 機敏、とは言えないがロボットよりは速い動きで足元に近づき、よじ登る。

 『おいっ! 俺の機体に張り付いている虫を殺せっ!!』

 『死角になって狙えないぞっ!!』

 そうこうしている内に冴木は操縦席を覆う強化ガラスを散弾銃全弾撃ち尽くす勢いで引き金を引く。

 ワイズマンもただでやられる訳にはいかない。

 冴木を振り下ろそうとするが、冴木の目に宿る執念はワイズマンの動きには動じず、始皇帝ボスもガトリング砲を発射しようにもそれが出来ない状況だ。

 強化ガラスにヒビが入り、破壊された。

 「くそっ!」

 銃を冴木に向けようとしたワイズマンに胡桃沢はチャンスと考えて銃を掴む。

 「大人しく、しやがれっ!」

 再び座席に叩きつけたワイズマンの顔に冴木の渾身のパンチがめり込む。

 ポッケから折りたたみ式ナイフを取り出し胡桃沢の手首を拘束する装置のケーブルを切断、胡桃沢を抱きかかえて飛び降りる。

 「あんにゃろ……! だったら聖女もろとも殺してやるよっ!!」

 頭に血がのぼったワイズマンはガトリング砲を地面に撃ち込んでいく。

 始皇帝メンバーに被弾する中、冴木は必死に走り物陰に隠れようとしたが……。

『終わりだ』

 ノーマークだった始皇帝ボスからの狙撃、胡桃沢が標的にされ胡桃沢は本能で死んだと思った。

 そして……。

◆◇

 「よ、かっ――――」

 冴木君の声が、途切れた。

 物陰に滑り込んだ形で入った私と冴木君。だけど、私に向けられていた銃口は……冴木君が身代わりになって私は助かった。

 「い、嫌だ……」

 信じたくない、あり得ない。

 目の前の現実を信じたくなくて、私を騙そうとしている冴木君の演技だと自分に言い聞かせて体を揺らす。

 「冴木君、じょ、冗談がきついよ……」

 声が震え出す。

 「おき、て」

 嫌だ、イヤダイヤダイヤダイヤダ!!

 「起きてっ、起きてよ冴木君っ!!!!」

 流れ出る血と否応無しに私に突きつけ徐々に冷たくなっていく冴木君の体温。

 ――――私のせいだ、私が油断していたから。私が、私が……。

 「嫌だよ、死んじゃ嫌だよぉ!!!」

 彼を死なせてしまった現実が私を嘲笑う。

 もう、冴木君と話すことも一緒に笑うことも出来ない。

 「どうして……、どうして私は彼を助けることが出来ないのっ!!!!」

 自分自身に対する怒りが爆発する。いっぱい、いっぱい彼に助けてもらったのにどうして私は彼を助けることが出来ないの……?

 自分の行動が裏目に出て彼に怪我を負わせて苦しませる。

 唇をかみしめて血が流れる。でも、冴木君は戻ってこない。

 泣くことしか出来ない私に――――声が、聞こえた。

『彼を救いたいですか?』

「えっ……?」

 顔をあげるとそこには一人の少女が立っていた。

 ボロボロの中世時代の鎧を身にまとって手には旗を持っている。

 『彼を、今命の灯が消えんとしている彼を救いたいですか?』

 私にとってそれは愚問な質問だ。

 「救えるなら救いたいっ!」

 私の返答を聞いた少女は『その手段として貴女が嫌っていた聖女ジャンヌ・ダルクの力を使うことになっても? 場合によっては貴女自身の命を代償になったとしてでも?』と、私に告げる。

 「構わない」

 『何故です? 貴女は今までそれから逃げていた。それにも関わらず何故彼の為にそこまでするのですか?』

 その質問に私はなんて答えればいいのか、どんな言葉が適切なのかが分からなかった。

 「そ、それは……」

 ――大切な相棒だから? 違う。

 ――元同じクラスメイトだから? 違う。

 ――後輩のお兄さんだから? 違う。

 違う、違う違う違う!

 どれもこれも違う、正しくない。

 そして、私の中で考えもしていなかったある一つの思いを口に出した。

 「わ、私は……」

 声に出すよりも先に、頭の中でそれを自覚して気付かされた。

 「彼……ううん、秋君のことが好きだから……。秋君のことが大好きだから死んでほしくない。秋君が生き返れるなら私は自分の命を差し出したっていい……!!」

 ――――あぁ、そっか。

 私は、彼のことが好きだと、今自覚した。

 無意識に目をそらし続けて、私自身に嘘をついていた本心を、まさかこんな形で気付かされるなんて……。

 『そうですか……』

 自ら問いかけたのに微妙な表情をしている少女は『――――貴女の恋路が、叶うことを私は願いましょう』と、言って微笑んだ。

 突然そんなことを言われて反応に困っている私に『さぁ、手を』と、言われるがまま手を差し出す。

 少女の手を取ると、じんわりと温かみのある光が入ってくる。

 初めての感覚なのに、身体にゆっくりと馴染んでいく。

 『今、貴女の体内に私の力を授けました。彼と口づけをすれば命の灯は再び燃え盛るでしょう』

 口づけ、つまりキスをすれば秋君は生き返ると目の前の少女は私に告げる。

 さっきまでの私だったら躊躇ったけど、そんな悠長なことはしてられない。

 私は言われた通り、死にゆく秋君の唇と自身の唇を重ねた。

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