第23話 名探偵と咎人

 「ここは……?」

 胡桃沢を庇う形で銃弾を受け止めてからの記憶がない俺。

 気づけば見知らぬ場所に一人立っていた。

 辺りを見回すが、一面真っ白で閉ざされた空間にも思える。

 「あるいは、ここが人生の終着点か?」

 「半分正解で半分は不正解と、私から言わせてもらおう」

 突然だった。声が聞こえたかと思えば真っ白な空間は端っこから景色を一変させた。

 そして俺が立っていた場所は一度も見たことがないのに、何故だか懐かしさと既視感を抱かせる。

 部屋の左側の方に置かれているアンティークイスに座る一人の男性、その男性に俺は覚えがある。

 「あ、貴方は……」

 「こうして、君と会うのは初めましてだが……。まずは、かけたまえ」

 相手に促されて対面に置かれている椅子に座る。

 直にこうして対面すると、何を話せばいいのかだとか罵倒されるのではと思っていた。

 「君の活躍はある人物を通して聞き、見させてもらっていた。最初は微塵も興味がなかったが……、よく頑張った」

 不意に言われた言葉に、俺は感謝の言葉が出なかった。

 「お、俺は。貴方にそのような言葉を送られる程の人間じゃ」

 「無論、君がそう返すのは分かった上で私は言った。しかし、君が誰かを守ろうとした結果人を死なせてしまった事実はある意味では私にも当てはまるのだよ」

 「それは!」

 声を出したものの、何を言えばいいのかが途端に分からなくなった。

 動揺している俺に「私は作品の中で教授と共に滝へ落ち、私は生き残り教授は死んだ。公共の利益の為に僕は喜んで死を受け入れようと告げたのにも関わらずにだ」と、話す。

 「皆は悪は滅ぼされるべき、教授の死は当然の報いと言われたが……。晩年の私はそうは思えなかったのだよ」

 「見方を変えればそれも

 その言葉に頷きその人は「しかし、私はあの時の行動に後悔はしていない」と、答えた。

 「君がした行動は正しいのだよ。手段は兎も角、君の信念は私の――『シャーロック・ホームズ』の意思を継いでいる。

 名探偵であり、そして俺の先祖であるホームズ氏の発言。

 俺は素直に受け取ってよいのか、悩んでいた。

 だが、その小さな悩みもすぐに霧散する。

 「ホームズ、もう少し言い方というものがあるだろう?」

 扉が開かれ入室した人物が誰なのかは、俺が口にするまでもなかった。

 「ワトスン、君はもう少し空気を読む」

 「普段ならば空気を読むが、今は読まないぞ。君の子孫である彼にもっとはっきりと言うべき言葉があると思うんだが?」

 ジッとホームズ氏を見るワトスン博士。

 彼の視線に気まずそうに視線をそらして「あぁ~その、なんと伝えればよいのか」と、そらしたまま話そうとするが、言葉に詰まっている。

 「はあ、君がそうなら私が代わりに伝えるぞ」

 「待ち給え、私が話す」

 博士を制止させてから俺に「君は自分自身を許すべきだ。過去は変えられない、ならばそれ以上の善行をなしていきなさい」と、言われてしまった。

 俺はホームズ氏に言おうとしたが、意識が突然遠のいていく。

 「ここは人生の終着点ではない。生と死の狭間、君は現実へと帰りなさい」

 「頑張るんだぞ!」

 先祖とその相棒からの声援をを最後に、俺の意識は完全に途絶えた。


 「さて、これで満足かな? アカシア」

 「ええ、自分の代わりに代弁してくださりありがとうございます」

 冴木が消えた後、入れ替わりでアカシアが姿を現す。

 満足そうにしているアカシアに「私に慣れないことをさせないでほしい」と、ホームズから言われてしまう。

 「そうは言いましても、実際問題貴方からお伝えした方が良いと思って提案したまでですよ?」

 アカシアの指摘にホームズは「その言葉をそっくりそのまま君に返そうアカシア」と、返す。

 「君はだ。君から直接言えばよいだろう?」

 「分かってないですね? 自分は彼らからは『嫌われるべき存在』でなければならないんですよ」

 そう答えたアカシアの表情は、なんとも言えない微妙な顔をしていた。

 心の内に何かを隠しているのは明白だったが「さてと、お礼も伝えたので失礼しますね」と言ってさっさと帰ってしまった。

 「彼の真意は全くもって分からない」

 ワトスン博士の言葉にホームズは「どうやら、彼はあの子達だけは別みたいだね」と、口にするがワトスン博士は首を傾げるしかなかった。

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