第27話 後始末
引き金に指をかける冴木にいつでも射殺態勢になるSPや警官達。
葵や胡桃沢達が止めに入る前に「そこまでだ、冴木」と、第三者の声によって阻まれた。
「十七夜月隼瀬……」
「こうして面と向かって会うのは久しぶりだな」
四ヵ月家トップ十七夜月家の当主と、名も知られていない無名の探偵が何故面識があるのかなど、聞きたいことが山程あるなかで隼瀬は「奴を連れて行け」と、自身のSPへ指示を出す。
安堵した様子でSPに立たされた悠玄に「望月悠玄、貴様は横浜警視庁の方々と一緒に行くといい、己の犯した罪を償うがいい」と、告げられる。
そのまま連行されていった悠玄を見向きもせずに隼瀬は冴木に「君には迷惑をかけた、済まなかった」と、謝罪の言葉を口にする。
それだけでも驚きの光景だが「そんな安っぽい言葉で済むと思ってんのか?」と、言い返す冴木の言動に皆が驚く。
「相変わらずだな?」
「御託はいい、この後のことはどうするんだ?」
冴木の問いかけに「被害者一族には賠償金を支払う。無論、事件に巻き込まれ事務所を荒らされ闇鴉だと疑われた君にも賠償金を支払う」と答える。
「それで被害者達が納得するならすればいいさ。だが、一切の忖度すんなよ?」
「ああ、四ヵ月家に連なっていたとはいえ罪を犯した。償うのは当然だ」
冴木と隼瀬は一切顔をそらすことなく互いを見る。
緊迫した空気の中で先に動いたのは冴木だった。
「話すことはそれだけだ」
そう言って葵達の元へ戻る冴木に「冴木秋」と、隼瀬が呼び止める。
「何だ」
「協力感謝する」
冴木は何も言わず歩き出す。隼瀬もそんな冴木から背を向けて立ち去る。
異様な空気にマスコミは取材をするべきか悩んでしまう程に、彼らの関係性は触れてはならないものだと察する。
「? 何だよ、全員揃いも揃って変な顔して」
「バッ!? お前あの人が一体誰なのか分かってんのかよっ!?」
動揺している橋本に「いいんだよ、あれで」と返す冴木。
更に反論しようとした橋本だったが「探偵さんっ!」と駆け寄る少女の登場ですることはなかった。
駆け寄ったのは依頼人の立花桃香だ。息を切らした様子の彼女。
「あのっ、本当に……!」
「気にすることはないさ。それよりも、早く彼女の元に行ってあげな」
チラリと視線を動かした冴木に気付いて視線の先を見る桃香。
その先には始皇帝達によって囚われていた研究員とその家族達がいた。
彼らの中に吉川巴の姿も見える。
巴は自身に向けられている視線に気づいたのか、冴木達の方を見て目を見開く。
桃香は冴木に一礼してから巴の元へ走っていった。
依頼は無事完了したので一息つけそうだと思っていた冴木だが、後ろから「一通り終わったことだ、しっかりと検査をするぞ秋?」の、一言でギギギと動きの鈍いロボットのように後ろを見る。
「か、義母さん……」
後ろに立っていたのは朱里だ。
冴木の服を掴んで「ほら、さっさと行くぞ」と言って連れて行く。
先程の隼瀬との会話だけでも驚きだったが、更に鷹月医師とも関係がある。
特ダネに特ダネを重ねた冴木秋という人物についてマスコミ各社は彼への取材申し込みするべく本社へ連絡を取っていた。
「異常なし……?」
人払いを済ませてから医療テントで冴木の身体検査を一通り終えて朱里は驚いていた。
問題だらけだった冴木の身体は健康体そのものになっていたのだ。
現代医学でも説明するのが出来ないこの現象に眉をひそめる。
「一体何をしたんだ」
冴木に問いかける朱里に「何もしてない」と、冴木は返す。
「お前の身体は死人同然、死んでいてもおかしくなかったのにも関わらず全てが正常値はおかしな話だろう?」
朱里の言葉に冴木は分かっているが、そうなった原因については本当に心当たりが無いので知らないとしか言えないのも事実。
「あの……」
遠慮がちな声で医療テントに来たのは胡桃沢だ。
「おや、君は警部の……」
「胡桃沢水紋です」
朱里に軽く会釈をしてから「冴木君の検査結果……私が関係しているんです」と、告白した。
「胡桃沢が?」
「うん」
そして胡桃沢は冴木が死にかけていた時に自身の先祖と思われるジャンヌ・ダルク本人から偉人の力を譲渡、その力を使ったことを二人に話した。
話を聞き終えた朱里は「成程、ジャンヌ・ダルクに人を生き返らせる逸話はないが……」と、小声で思考を巡らせる朱里。
冴木は「ああなった義母さんは何度声かけても無駄だからな」と、胡桃沢に伝える。
「でも、俺のために力を使ってよかったのか?」
「私は!」
冴木の発言を聞いて胡桃沢は声を大きくする。
「確かに私は偉人の力とか、ジャンヌ・ダルクの子孫だとか嫌だったよ。――でも、それでも私は冴木君を助けられるなら嫌っていた力も使うよ」
胡桃沢の言葉に冴木は「お、おう……」と、予想外の発言で微妙な反応をしてしまう。
「未だ解明できていない部分がある偉人の力と言われれば納得する。が、あまりその能力を過信、再度使用できると思わない方がいい」
朱里が不意に喋りだして驚く二人。
「そして何より、そのことは私達だけに留めておこう。良からぬことを考える輩が出るのは目に見ている」
それもそうだと答える冴木。
そしてテントの入口側を見て「そこで立ち聞きしてないで正々堂々入ってきたらどうだ?」と、言葉を投げかける。
「――――いやはや、お前さんのその気配察知能力には脱帽させられるわい」
第三者の声が返ってきた。
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