第32話 一方その頃

 「権田先生、先生にお会いしたい方がお見えです」

 事務員からそう言われた権田は「誰ですか?」と、尋ねる。

 事務員が来訪者の名前を言う前に「お久しぶりですね、権田先生」と、職員室に響く声。

 職員室に入ったのは冴木、冴木の姿を見て驚きと何故彼がの気持ちになる教員達。

 しかし、当の権田は「お前か冴木」と、冴木を下に見るような態度でいる。

 「今日、先生にお見せしたいものがありましてこうして久々に学校にまで来たんですよ」

 にこやかに話す冴木に「自らやめたお前と話すことはない」と突っぱねる権田。

 「そう言わずに……ねっ?」と、話す冴木に権田は渋々近くの椅子を差し出す。

 「ありがとうございます」

 感謝の言葉を言いつつ、冴木は大きい茶封筒から大量の写真と紙を取り出す。

 「――何だこれは?」

 「おや、これらを見ても何もお気づきにならないのですか?」

 含みのある冴木の言い方に疑問に思いながらも取りやすい位置にあった1枚の写真を手に取る。

 「なっ!?」

 驚く権田をよそに冴木は「その写真、綺麗に写ってますよね? あんたが女子生徒にセクハラ行為をしている姿が」の言葉に、権田は冴木を睨む。

 冴木の声は職員室に響き、冴木と権田に教員の視線は集中する。

 居心地の悪さ、或いは己の悪行がバレる前にと顔に出しながら「何を言い出すんだお前はっ! 名誉毀損だぞ!!」と、言い返す。

 「名誉毀損、ね……。なら、これを聞いても同じことが言えますか?」

 ポケットからボイスレコーダーを取り出し録音された音声を再生する冴木。

 音声は男性と女子生徒二人の声を録音しており内容は男性が女子生徒に性的行為や発言、そして何かを殴る音が記録されていた。

 権田はボイスレコーダーを握って床に叩きつけ、足で何度も踏みつける。

 再生は中断され、冴木の胸ぐらを掴む権田。

 「大人を舐めてんじゃねぇぞ冴木っ!!! お前一人に何が出来るんだっ!?」

 冴木につばを飛ばしながら怒鳴る権田とは対象的に冴木は冷然とした口調で言葉を紡ぐ。

 「大人? 冗談も程々にしておけよ。年下相手に威張り散らしているあんたはただのクソガ」

 まだ話している途中で冴木は右頬からの強い衝撃で眼鏡は吹き飛び視界は霞む。

 「舐め腐った態度を取りやがって! 俺は昔っからお前のその態度が気に食わなかったんだよっ!!!」

 壁に叩きつけ冴木を殴る権田。

 流石にその行動で悲鳴と数人の男性教師による仲裁が入る。

 「一体何事ですか!」

 教頭が騒ぎを聞きつけ職員室に入り別の先生から事情を説明されている間、冴木は止めに入った教師手を振り払い床に転がっていた自身の眼鏡を拾う。

 その間も目の前の教師の風上にも置けない男は何かを喚き散らしていた。

 教頭の怒鳴り声で教頭の存在に気づき、慌てふためいて言い訳を並べる男の顔面めがけて冴木は殴った。

 殴った右手の痛みを和らげるためにひらひらさせながら冴木は権田へ近づく。

 怯えた顔で冴木を見る権田に「座れ」とだけ、命令する冴木。

 「何ッ!?」

 「聞こえなかったか? 椅子に座って黙って聞いてろって俺は言ったんだぞ?」

 ゴミを見る目で権田を見下ろす冴木に、再び仲裁に入ろうとする男性教師に「あんたは引っ込んでろ!」と、肌を突き刺す殺気で後退りする。

 その殺気で近場の椅子に座った権田を見て冴木は先程の場所から写真と紙を持ってきて再び机の上に広げる。

 そして……。

「さてと、『遠藤三咲』さんの自殺未遂及び三咲さんを含めた複数の女子生徒へのセクラは行為について顧問の権田先生はどう思われているのかお話をお聞きしたいですね?」


 目の前のゴミがはっきりと喋らないのでだんだん苛立つ冴木。

 完全に萎縮しきっているゴミが話そうとする前に「あっ、そうだ」と、他の教師陣に伝え忘れていた事を思い出す冴木。

 「今回の件についでですが、理事会は相当お冠でしてね? 何かしらの処罰が下されるかと思いますのでその点だけお伝えしておきますね」

 ジンジンと殴られた箇所が痛むが満面の笑みで告げる冴木に段々と青白くなっていく教員達。

 「あっ、でも東先生に関しては一応処罰は軽めにとはお伝えしてありますんで」

 突然自分のことを言われた東は「な、何で私だけ……?」と言葉を漏らす。

 「見て見ぬふりをした時点で同罪ですけど、被害を受けた女子生徒の精神的ケアをしていたと妹から聞いていたので」

 冴木の口から出た妹に首を傾げる教員一同。

 「ああ、言ってませんでしたね? 木村葵は俺の実の妹でして」

 その言葉に肩を震わせる権田、冴木は権田の顔に近づいて「三咲さんのことで葵は自分性だって思い込んでて兄としても今回の件は絶対に解決させなきゃいけないと思ってね……?」と、見開いた目で話す。

 脂汗を流す権田から離れて「さてと、何も言わないんじゃあ仕方ないからちょっと来てもらいますか」と、口にする冴木。

 「ど、何処に……?」

 「それは行ってからのお楽しみってやつですよ」

 そう言って冴木は権田の髪を鷲掴みにして引きずり出す。

 ブチブチッと毛が抜ける音と痛みで痛いと声に出す権田。

 「痛いだぁ? お前がしょっちゅうしてた行為だろうが?」

 問答無用で引きずる冴木は職員室の扉を開けて出ていく前に「あっ、この後マスコミと警察来ますけど対応はそちらさんでどうにかしてくださいね」とだけ、言い残して冴木と権田は職員室を後にするのだった。

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情報屋探偵の事件録 ハート・パーティントン計画 榊原 秋人 @kojp24

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