第11話 疑問と答え

 「さてと……」

 横浜警視庁捜査一課、大霧警部はとある所へ電話をかける前に周囲を見回して誰かが監視していないかの確認をしてから電話をかける。

 数回コール音が聞こえて『はいこちら、防衛省です』が電話越しから聞こえる。

 「もしもし、私横浜警視庁捜査一課の大霧と申します。防衛装備庁の『沼川』さんは出勤されてますか?」

 大霧の質問に電話の相手は『確認いたしますので少々お待ち下さい』と言い、保留音が流れる。

 数分待ち、保留音が解除されると『申し訳ございませんが、そちらの質問にはお答えできかねます』と返された。

 「そうですか……。お手間おかけいたしました」

 失礼しますと言ってから通話を切る。

 深く息を吐く大霧警部。

 ここまで予定通り、後は相手の出方次第と思っていると早速「大霧っ!!」と、怒り心頭の上司の姿が。

 「たった今、防衛省から苦情の電話が来たぞっ! 一体何を考えていやがるっ!?」

 「勿論、捜査の一環です」

 「捜査だぁ~!? 一体何の事件と防衛省に繋がりが!!」

 荒れている上司に大霧警部は冷静な口調で「無論、連続失踪事件及び今日未明に起こった新みなとみらい区の事件にですよ」と告げる。

 「またお前はよその事件に首を突っ込みやがって……!!」

 上司の様子に他の職員達は関わらないようにするが、大霧はふと連続失踪事件の会議室に入る一人の男が目に入る。

 「おい」

 大霧警部はそう言ってその男の元へ向かい出す。

 「まだ話は終わっていないぞ大霧っ!」

 大霧の後を追いかける上司だが、大霧警部はその男の右手を掴み「それ、何処で手に入れた?」と問いかける。

 「こ、これは市内の店で買ったんだよ」

 嫌悪感をあらわにする男だが、大霧警部は「そうか? それは一点ものでしかもそれを所有している人物を知ってるんだ」と、告げる。

 「へえ、そいつは一体誰なんだ?」

 「今日未明に誰かに消されたかもしれねえ探偵だよ」

 大霧警部の発言で職員達は動きを止め、彼らの方を見る。

 「おい、お前本気で言ってんのか?」

 「本気に決まってんじゃないですか」

 上司の言葉にそう返した大霧警部は男の手を引きPCの前に座らせる。

 「自分の持ちもんだって言うならこいつのパスワードくらい、分かるよな?」

 画面に表示されるパスワード入力欄、男は「と、当然だろ?」と言って打ち込んでいく。

 そしてエンターキーを押す直前で手を止める。

 「何で押さないんだ?」

 男に問いかける大霧警部、男は汗を流しながら無言を貫く。

 「だったら俺が押すぜ」

 ま、待てと男が止めようとしたが先に大霧警部が押した。

 そして画面に表示される再入力の表示。

 「おい、こいつを取調室に連れていけ」

 大切警部に言われて職員二人が男を取調室に連れて行く。

 男と入れ違いで「警部」と、若草が戻ってきた。

 「一体、何が……?」

 「冴木のUSBメモリを持ってた奴が居たんだよ、しかも失踪事件を捜査するチームにな」

 「な、何ですってっ!?」

 驚く若草に「これで分かりましたか? 相手は俺達警察に共犯者を潜り込ませて捜査の進展を妨害、そして真実に近づこうとした冴木の事務所を襲撃した……。それらには防衛省が絡んでいる」と大霧警部は上司に説明する。

 「だ、だが……」

 言い淀む上司だったが「そうなれば捜査はより慎重に行わければなりませんね」と、源警視が姿を現す。

 大霧警部からUSBメモリを奪い「これは大事な証拠ですのでこちらで預かります」と告げる。

 「解除できないと思うぜ?」

 「やってみなければ分からないでしょう?」

 互いを睨み合う警部と警視だったが「お二人共そこまでです」と、第三者の声が遮る。

 「貴方様は……」

 姿を現したのは月人だ。彼はゆっくりと二人へ近づき「お互いに争っても意味がありません。今回はお互いに手を取り合いましょう」と提案する月人。

 「あ、貴方様がそう仰っしゃられるのであれば……」

 源警視は受け入れたが大霧警部の方は不服な表情だ。

 「大霧警部、貴方が僕達のことをどう思っているのかは知っていますが、今回は冴木のことを思って……ね?」

 冴木のことを出され渋々「――――分かりました」と承諾した。

 「それより、何故貴方様がこちらに……?」

 源警視の質問に「先程、大霧警部が防衛省に電話をかけたと聞いてちょっとお話に」と説明した。

 「ですので、僕と一緒に来て下さい」

 面倒なことになった……。

 大霧警部は内心そう思いながら月人と一緒に場所を変えた。


 「私にお話があるとのことでしたが……」

 「そう畏まらないでいいですよ? 今回僕はただの共通の友人を通して来ただけですから」

 月人の言葉に「そうですか」と返す大霧警部。

 年下だが、相手は四ヵ月家一角を担う十七夜月家の子息。

 警戒する大霧警部だが、月人は普段と変わらぬ様子で「防衛省に電話をかけたのは、冴木からのアドバイスがあったからですね?」と言われて「いいえ」と返す。

 「変に気を使わなくていいのに」

 「そうは仰っしゃられましても仮にも貴方様は十七夜月家のご子息ですので」

 冷たいなぁと、こぼす月人。

 「じゃあ、これには答えなくても構いませんが」

 そう前置きを口にした月人は大霧警部に「貴方はどこまで知ったのですか?」と、問いかける。

 「……貴方様の仰る意味が分かりませんね」

 「じゃあ質問を変えましょう。冴木の口からなにかの計画名とか聞いてませんか?」

 計画……?

 心当たりがない大霧警部は「聞いてません」と、答える。

 「――――そうですか」

 一応の納得をした月人だが、意味ありげな視線に大霧警部は気づくが無視する。

「お仕事の邪魔をしてすいませんでした」

 月人の後は出てどうぞの視線で大霧警部は先に退室する。


 「彼にはあえて言わなかったのかな?」

 そこが冴木らしいと思っている月人。

 彼が横浜警視庁へ訪れたのは大霧の件もあったが……。

 「(警察上層部へ圧力がかけているのは分かったけど……、理由が分からない)」

 月人が思っていた以上にこの一件は複雑に絡み合っており四ヵ月家の権力を行使すれば強引に解決することもできるが、それは本質的な解決にはならない。

 「はあ、やっぱり冴木に頼んだ方が得策かな?」

 絶対に彼は嫌な顔をするのは目に見えているが、現状彼に頼むしか方法がない。

 「その代わり、僕には僕しかできないことをするよ」

 チラリと扉の方を見る月人。誰もいない扉を見てから彼は立ち上がり部屋から退室した。

◆◇

 「探偵さん……」

 立花桃香はスマホで新みなとみらい区第二人工島の事件のニュースを閲覧していた。

恐らく自身が依頼した事件で命を狙われたのだと思っており、彼に対する罪悪感を抱いていた。

 そんな彼女に一人の男が近づく。

 彼女に話しかけようとした瞬間、男の手は桃香によって弾かれ「貴方、誰ですかっ!」と言われる。

 「おいおい、話しかけようとしただけなのに扱いが酷いもんだ?」

 やれやれと、言いながら「俺は梶井ってんだ! お前さんが立花桃香だな?」と彼女の名前を尋ねる。

 見ず知らずの相手に警戒する桃香だが、梶井は「警戒する気持ちはまあ分かるが、俺はあんたにとって大事なものを持ってきたんだぜ?」と話す。

 「大事なもの……?」

 梶井が口にした単語に心当たりがない彼女だったが梶井の次の一言で理解する。

 「ある探偵から手紙を託されたんだ。探偵の名は冴木だ」

 冴木の名前が出て「探偵さんが?」と、まだ梶井に警戒心を抱きつつも彼を見る桃香。

 「ああ、ここじゃあ誰かに聞かれるかもしれねぇから場所を変えよう」

梶井の提案に桃香は承諾し一緒に近くの喫茶店へと歩きだす。


 「さてと、これが冴木から託された手紙だよ」

 梶井と一緒に喫茶店に入店した桃香はアイスティーを注文し待っている間に冴木からの手紙を読んでいた。

 「んで、手紙には一体何が書かれてんだ?」

 手紙の内容が気になる梶井だったが「教えません」と桃香が返す。

 「おいおい、俺はあんたの元に手紙を届けてやったんだぜ? 少しくらい話してくれたって良いだろ?」

 反対側に座って口出しする梶井に「探偵さんが生きていることとこの事実を貴方以外には口外しないことが書かれていました」と、一部だけ話す桃香。

 「ふっ、そうかい」

 そうしていると注文していたアイスティーが出され口にしようとしたが、梶井に止められた。

 「飲むな」

 そして梶井はアイスティーを運んできた店員に「お前さん、これに毒いれたろ?」と、衝撃的な言葉を発する。

 「えっ、一体何を言い出して……」

 「そうですよ! いくら何でも」

 「言いがかりじゃねぇよ。この店は俺が気に入ってる店でな? 昨日も来たがあんたみたいな店員は見たことないんだよ」

 そこにいる店主も知らねぇ人間だよ、と話す梶井の言葉に店内は静まる。

 互いに顔を見合わせ相手の出方を伺う。

 場の空気で動けずにいる桃香のスマホから通知音が鳴る。

 その音を合図に店主と店員が隠し持っていた拳銃を抜き出し桃香と梶井を射殺する前に、梶井の方が早かった。

 テーブルに置かれていた灰皿で店員の首元に投げつけ店主の手元にクイックドロウした拳銃で撃つ。

 「逃げるぞ」

 桃香の手を引いて店から飛び出す梶井。

 狼狽えていた店員が飛び出した二人を追いかけようと外に出たがすでに二人は車で逃げ出した後だった。


 「追ってはいないみたいだな」

 ミラー越しから追ってがいないのを確認する梶井。

 助手席に座る桃香は「な、何で……」と体を震わせていた。

 「そりゃあ決まってんだろ? お前さんの依頼だよ」

 梶井の言葉に「えっ……?」と、言葉を漏らす桃香。

 「どうやらお相手は冴木だけじゃなくてお前の命すらも狙ってでも秘密を守り通したいんだろうな?」

 「そ、それだけのために……?」

 「お前にとってどれだけ下らないものでも、相手には関係ないのさ」

 少しの間車内で沈黙が流れるが、黙っていた桃香が口を開く。

 「――――貴方、誰ですか?」

 「おいおい、いきなり何を言い出して……」

 「梶井、協会のホームページで調べましたが一件もヒットしませんでした」

 桃香の言葉に梶井は「俺は協会に属して」と説明するが「それでも、免許すら持っていないのはどうしてですか?」で梶井は沈黙する。

 震災以前は探偵事務所開業は出来たが、現在は出来ない。

 もしそんなことをすれば法律に基づき罰せられる。

 桃香は梶井からの説明を求める。

 「――――梶井という偽名で騙したことは認めよう」

 梶井の発言で桃香は「どうして、偽名を?」の質問に梶井は答える。

 「少々特殊な立ち位置にいるが故にな」

 特殊な立場、彼の真意が読み取れない桃香だが。

 「情報屋闇鴉、とでも名乗れば君でも分かるだろう?」

 情報屋と名乗る犯罪者、横浜事変で暗躍したとされている彼は表情を変えることなく「だが、冴木探偵の件と君にこの手紙を託されたのは事実だ」と話す。

 「無論、信じられないのは重々承知している。しかし、先程命を狙われて実感しただろう?」

 無言で頷く桃香。

 車はとある場所で停車し「しばらくは家から出ないことを勧める。相手は君の家の住所までは把握していない」の説明に違和感を覚える桃香。

 「でも、探偵さんの事務所を襲撃したなら……」

 「住所も把握している、だろう? 彼らには名前以外の情報は得られていないんだよ」

 彼のことだから一番重要な情報は別の場所に隠しているのだろうさ。

 梶井と名乗っていた闇鴉は桃香に説明し「今後、君と会うことはないだろう」と告げる。

 「――――助けていただいたことだけは感謝します」

 「ふっ、それだけでも構わないとも」

 桃香は車から降りて扉を閉めるとゆっくりと車は動き出し去っていった。

 残された桃香は世間で報じられている彼と直に話してみてその違和感だけが拭い去れずモヤモヤした気持ちだった。

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