第15話 憎しみと計画

 泣きつかれソファーで眠っている九の頭を優しく撫でる相原は「さっきの話、本当ですか?」と闇鴉を睨む。

 相原は一人裏路地で蹲っていた九を保護し、仲間に加えた。横浜事変で父親を亡くしたとは聞いていたが、目の前の人物がその元凶とは知らなかった。

 先程の様子と一変した相原の様子に闇鴉は「そう睨むな」と返しながら右肩の治療を一人で行っていた。

 弾が貫通していたのが幸いで傷口を塞ぐ処置をするだけで済んだ闇鴉は包帯を巻きながら話し出す。 

 「世間の共通認識は横浜事変は吾が引き起こし、黒幕だと言われているが実際は違う」

 「じゃあ誰がやったんですか?」

 「それは極秘事項に該当する。吾のではなく政府のな」

 「せ、政府……」

 国が絡んでいる事実に驚く黒木に対して相原は「どうせハッタリだろ?」と反論する。

 「どう思おうが思いまいが勝手だ。だが、吾の仕事の件は受けるのだろう?」

 「はい、受けます」

 相原が否定する前に、黒木が承諾した。

 「良かろう、二日間猶予を設けよう」

 情報集めに励むが良い。

 扉から出ていく闇鴉が扉によって姿が見えなくなってから「黒木、どういうつもりだよ」と怒気を孕んだ声で話す。

 「少し冷静になったらどうなの、理来人」

 下の名前を出して注意する黒木に相原はうっと唸る。

 「僕は明日から調査を始めるよ。あくまでも子供達のため、そこは理来人と同じだけど冷静さを失って行動するのは愚策だからね」

 釘を差して立ち上がった黒木は「後、そんなあからさまに九に好意抱いているなら早く伝えなよ」の発言に相原は「ばっ!? な、何をっ!!?」と、混乱している様子。

 「九は知らないけど理来人の様子を見ればすぐに好意を抱いていることくらい分かるよ」

 黒木からの幕藩発言で混乱する相原は自分の横で眠っている九をその日は見れなかった。


 二日後 防衛省にて


 「おはようございます」

 「おはようございます」

 防衛省の廊下で掃除用具カートを押す清掃員と防衛省職員がすれ違う。

 清掃員は慣れた動きで用具室へ入ると来ていた服を脱ぐ。

 「相変わらずザルだな」

 そう、彼は変装した闇鴉だ。何故防衛省へ潜入しているのかと聞かれれば理由は唯一つだ。

 「さて、これで目的の人物へ会えるな」

 スーツ姿へ格好を変え用具室から出ると一直線に目的の部屋へ向かう。


 防衛大臣『郁田啓介いくたけいすけ』は扉のノック音が聞こえたので「入れ」と許可する。

 「ではご遠慮なく入室させていただきますね」

 聞き覚えのない声だと思い書類から目を離した。

 「なっ!?」

 「初めまして、が適切ですね? 防衛大臣郁田啓介氏」

 そこに立っていたのは見知らぬ人物、命の危機を感じて内線で助けを求めようとする郁田氏だったが「おっと、他の人を呼ぶのはご勘弁願いたい」と、ベレッタの銃口を向けられる。

 「その銃……。貴様、闇鴉だな?」

 「ご名答、でしたら吾がこの場に現れた訳も察しているのでは?」

 闇鴉の問いかけに黙る郁田氏。

 「まあ、良いでしょう」

 そう言って闇鴉はソファーへ、ドカッと座る。

 「ハート・パーディントン計画」

 「っ!?」

 あからさまに表情を変えて闇鴉を見る郁田氏に「その計画について、教えてもらいましょうか?」と、計画の詳細をついて話すように催促する。

 「貴様に、話すことなど……」

 「既に情報漏洩され防衛装備庁の職員がテロ組織によって捕らわれているのにまだ悠長なことを仰る気で?」

 指摘を受けてもなお、話す姿勢を見せない郁田氏。

 「――――私を脅して口を割らせることだってできるだろう?」

 「極力その様な行為はしたくないのですよ」

 闇鴉と郁田氏は互いの目を見る。

 目を見て郁田氏は己の中で自問自答を繰り返した果てに、覚悟を決めた。

 「ハート・パーディントン計画について、どこまで知っているのだ?」

 「計画名と本来の運用方法とはまた違った運用も考えられていたと」

 闇鴉が話した内容に「そうか」とだけ呟く郁田氏。

 彼の表情には自分ではどうしようもない諦めと、闇鴉に対する期待が入り混じっていた。

 「ハート・パーディントン計画とは、日本とイギリスの共同でとある兵器を開発する計画のことだ」

 「兵器?」

 「ああ、その兵器とは『武装ロボット』だ」

 武装ロボット、計画名で薄々察していたが事はそう簡単に済む話ではなさそうだと、闇鴉は考える。

 「何故開発を?」

 その問いかけに「知っているだろうが震災時に起こった『山口・福岡侵攻事件』が関係している」と郁田氏は答える。

 「あの事件が?」

 「ああ、某国が震災によって政府としての機能が麻痺している間に我が国に侵攻、民間人や自衛隊計十万人以上もの死傷者を出したあの忌々しい事件だ……!!」

 ダンッ! と、握って右手で机を叩く郁田氏の様子に闇鴉は彼の心中察する。

 「あの事件後、我々は復旧目的に武装ロボットの前身となる物を開発することが決定した。その開発途中で英国に技術協力を求め、本格的に武装ロボット、通称ハート・パーディントン型の開発計画が決定した」

 彼の話を聞いた闇鴉は「計画名を聞いて最初は新型の潜水艦を開発しているのかと思いましたが……。そうですか、日本復興の手助けとなるロボットを」と話す。

 「ああ、本来のコンセプトは変わらずに復旧用であるが、装備を切り替えれば防衛用へと変わる仕様として開発していたが」

 そこで、彼の表情は暗い影に落ちる。

 「三ヶ月前、一人の研究員が無断出勤した。その日に始皇帝と名乗る組織が研究員を拉致したと連絡があった」

 「警察には通報したのだろう?」

 「無論、

 郁田氏のこの発言で闇鴉は違和感を覚えた。

 「(取っただと? ならばあいつらは当然把握しているはずなのに何故あのような態度を取っている……?)」

 疑問、仮説推論、そして答えを導き出して闇鴉は怒りを覚える。

 「ふっ、成程な」

 郁田氏には闇鴉の発言が理解できずにいた。

 「確認だ、連絡を取ったのは四ヵ月家の」

 闇鴉の言葉は途切れた。

 「避けろっ!」

 叫ぶがそう簡単に人は動くことは出来ない。

 郁田氏を突き飛ばし郁田氏に覆いかぶさる闇鴉。

 文句を言おうとした郁田氏だったが、その言葉は爆音と共にかき消された。

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