第16話 サヨナラ
爆発が起こる二時間前
「後はこれを買えば……」
買い物リストのメモを確認しながら中心街を私は歩いていた。
兄さんの生死不明を聞かされて意気消沈していた私を心配して気分転換も兼ねてこうして私に買い物を頼んだと思うと……、申し訳ない気持ちが少なからずある。
「て、あれ……?」
そう思っていた私の視界に焦った表情で何度も後ろを確認しながら路地に入っていく澪の姿が入る。
「どうしたんだろ、澪」
挙動不審な親友が心配になった私は、澪が入った路地へ入る。
入り組んだ路地を進んでいくと開けた場所に出て、肩で呼吸する澪の姿を見つけて「澪?」と、声をかける。
「!? あ、葵何でここに……」
「澪のこと見かけて追いかけて来ちゃったんだけど……」
そんな私に澪は切羽詰まった表情で「は、早く葵だけでも逃げてっ!!」と言ったけれど……。
「もう遅いぜ?」
知らない声と一緒に路地を塞いで私と澪に銃口を向ける人達が立っていた。
「私が目的なんでしょ! 大人しくついていくからこの子だけは見逃してっ!」
「澪、何を言い出すの……?」
親友の口から放たれる言葉に動揺する私。
銃口を向ける人達のリーダーらしき人が一歩前に出て「俺は別にそれで構わねぇが、他の奴はその女を殺すだろうな?」と言い放つ。
「こ、殺す……って」
「それが最低条件よ! その条件がのめないってならここで葵と一緒に殺された方がマシよ!」
場の状況についていけてない私の手を、握る澪。
澪の顔を見ると、悔しそうな顔で「ごめんね」とだけ、謝る。
「んで、お前さんらはどうすんだ?」
その問いかけにヒソヒソと話す人達。数分待って「良いだろう」と返される。
「それは嘘だよ」
聞き慣れた声が聞こえたと同時に男の人の唸り声が数人分聞こえて振り返る。
「せ、先輩……?」
「おぉ! やっぱり生きていたがったか聖女ジャンヌ・ダルク!!」
「その名前で呼ばないで」
普段の先輩とはかけ離れた雰囲気と、近代的な装備を装着した先輩は私と澪の前に立つ。
「この子を狙ったのは防衛省襲撃するために必要な人質だったからでしょ?」
「へえ、何で分かったんだ?」
「それは企業秘密よ」
企業秘密ときたかっ! と、言って笑うリーダー格の人は「――――で、通じるとでも思ってんのかよ?」と、冷酷な声を出す。
背筋が凍る目つきと声で、私は無意識に「ひっ」と、小さな悲鳴を出していた。
「私の大切な後輩を怖がらせないでくれる?」
「おおっと、それは失敬。だが、のこのこ俺達の目の前に出てきたってことは何か話があってのことだろ?」
「勿論よ」
そう答えた先輩は「聖女の力が欲しいのなら私を連れて行きなさい」と、言い放つ。
「へぇ~? だが、その様子じゃあ条件を出すんだろ?」
「二つだけよ。この子達を見逃すのと、数分だけこの子達だけで話をさせてほしい」
条件を聞いたリーダー格の人は「悪かねぇ条件だな」と、答えた。
「おい! 勝手に話を」
近づいて抗議する人の腹部にナイフを突き刺して「さっきからごちゃごちゃうるせぇんだよ? そもそも、おめぇらのせいで余計な仕事が増えたんだろうが?」と、言ってナイフを引き抜いた。
傷口から真っ赤な血が吹き出た直後に「見ちゃだめ」と、言われて先輩の背でその後のことは分からないけど、何となく想像できる。
「っま、それのおかげで聖女が手に入るんだ。僥倖だな」
そして「おい、少し離れろ」の声が聞こえると先輩に「こっちで」と言われる。
言われるがままあの人達と少しだけ距離を空けると先輩から謝罪の言葉が出た。
「ごめんね、二人を危険な目に合わせて」
目尻を下げて謝る先輩に「先輩は、何も悪くなんか……」と、口に出したけれどその後の言葉は出て来ない。
「葵ちゃん」
名前を呼ばれると手のひらに何かを置いてそれを握らせる。
「これを冴木君に渡して、それと――――約束破ってごめんなさいって伝えて」
「えっ?」
兄さんが生きている?
その事実だけでも私は困惑するのに何で、どうして先輩は……。
「澪ちゃんは急いでお父さんに伝えてあげて。これ以上怪我人を出す前に」
一方的に伝えて離れていく先輩に「先輩っ!」と手を伸ばす私に「葵!」と、澪に止められる。
「は、離してよっ!」
「今葵が行けば、胡桃沢先輩が託したものが無駄になるんだよっ!」
分かってる、それくらい分かってるよ。
でも、それでも……。
「お前ら、聖女との約束は守れよ?」
リーダー格の男の人の後をついていく先輩はこちらを見て微笑んだ。
目の前からいなくなる先輩を、助けることすらできない無力な私は地面に膝をついて大声で泣いていた。
「は、早く伝えなきゃ」
情報収集していた黒木は一連の出来事を目撃して急いで闇鴉へ報告しなければと慌てる。
走っていた黒木は大きな爆発音が聞こえて足を止めて「な、何が起きたのっ?」と声を出していた。
この襲撃事件をきっかけに横浜を揺るがす事件の序章になるだろうとこの時、誰も知らない。
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