第22話 砂塵を潜り
「やっちまえっ! ズィービッシュ」
「ファウルも倒されてんじゃねえ。立ってやり返せっ」
野次馬が集まり、二人を囲んだ。
「……の野郎っ」
ファウルはズィービッシュにタックルをかまして転ばせ、馬乗りになった。
野次がますます高まる。
「おまえらっ、なに騒いでんだっ」
近づいてきたのは、コーザだった。
ズィービッシュは、内心にんまりした。日頃からムカついていた奴が、むこうからやって来る。こいつは幸先がいいってやつじゃないか?
「トランプ如きで熱くなりやがって。馬鹿共が。さっさと散れっ」
コーザは、これみよがしに銃を抜いて威嚇した。
「完全にタバサの傀儡となってやがる。そういうところがムカつくんだ」
ズィービッシュは、怯まずコーザの前に立った。
彼の鋭い視線を受け精神的圧迫を感じたコーザは、日中とは雰囲気が違うことにようやく気付いた。
「な、なんだ。おまえ、逆らうのか?」
「銃を持ったくらいで、威張ってんじゃねーよ」
銃を持っているコーザの方が飲まれている。虚勢を張っている小心者が矜持を傷つけられ、かっと顔が熱くなった。
野次を飛ばしていた連中も、只ならぬ重たい空気に騒ぐのをやめ、成り行きを見つめている。
「おまえっ、ナメてるのかっ?」
「馬鹿言え。お前みたいな汚いもん、舐められるか」
「くっ」
ズィービッシュの挑発に乗り、コーザは引き鉄を引こうとしたが、いきなり後ろから羽交い締めにされた。
「なっ?」
ズィービッシュの計画に賛同した者たちが、ぞろぞろと集まってきた。
「なんだ……? なんだ、お前らっ。こんな真似してただで済むと思ってるのかっ」
「お前こそ、勘違いして自分の立ち位置を間違えてんじゃねえ」
「ディビドが消滅してもいいのかっ?」
コーザの一言は、ズィービッシュの心を冷まし、それはそのまま冷徹さに変身した。
「ほお? だったら、タバサはいつ助けてくれるんだ? 俺たちに、いつまで捜索を続けさせるんだ?」
「だから……、あれの進行を食い止めるために、古代魔法を復活させる必要がある。それを……」
「デタラメ言うなっ」
ズィービッシュの怒声が爆ぜた。
「タバサは、あれを食い止める気なんかないんだよ。街人の助かりたいという心理を利用して、労働力を得たいだけだ。タバサが掘り当てたいのは、別のなにかだ」
「きさま……。あの方に対して、それ以上の侮辱は……」
「許せないってか」
ファウルが、コーザから銃を奪い取った。
「おまえ、銃なんか撃ったことあるのか?」
ズィービッシュが揶揄すると、ファウルは口角を上げた。
「こんなもん、狙いを定めて引き鉄を引くだけだろう」
シリンダーを回し、弾丸をシャッフルした。
「おまえ、この銃にどんな魔法が装填されてるか教わったか?」
コーザは、ブルブルと首を振った。
「じゃあ、とんでもないもんが入ってるかも知れねえなぁ」
「噂じゃ、喰らったら死んじまう魔法もあるらしいな」
ズィービッシュは茶化すように言ったが、コーザの顔は血の気が引いていった。
「さすがに、そりゃないんじゃないか? そんなもん、お話の中だけの魔法だろ。でもよ、一生、まともに動けなくなるとかはあるかもな」
「待て。待ってくれ。俺はあの方に言われてお前らを監視していただけで、敵対するつもりは……」
「あの方におまえらか。それが、おまえの立ち位置ってことだな?」
「いや、違うっ。今のは違うんだ」
コーザは、今にも泣き出しそうな声を出し必死に弁解したが、とっくに、それが通じるほどぬるい状況ではなくなっていた。
「おい、撃つぜ」
ファウルは非情に言い放ち、ズィービッシュの返事も、真冬の外に放置された鉄のように冷たかった。
「ああ、撃て。始まりの合図は大きいほどいい。外に仲間がいる。そいつらに聞こえるように、派手な音を立ててくれ」
ファウルは、引き鉄に掛けた人差し指に力を込めた。
いきなり、一発の銃声が鳴り、発掘現場にこだました。光来の体が、思わず跳ねた。続いて、休憩所から次々と飛び出す男たちの濁声と悲鳴が混じり合って響き、静かだった現場はたちどころに喧騒の舞台と化した。先程の銃声は、まさに合図だった。
「行くわよ」
リムが駆け出した。遅れじと光来とシオンも後に続く。たちまち、光来たちも騒動に溶け込んで、その一部となった。
あちこちで怒声、悲鳴、銃声が聞こえた。ごちゃまぜになって入り混じり、乱戦の様相を呈した。
リムは、一直線に目的の遺跡に向かって駆け抜けた。銃を向けてくる者は、誰かれ構わず撃ち抜いた。
光来はルシフェルを手にしているが、簡単に撃つことはできない。引き剥がされまいと必死に追った。
リムが向かう方向から、目指すべき遺跡の見当がついた。ひときわ大きな建造物で、外観から察するに三階~四階建てのようだ。相当に古いもののようで、あちこちが崩れて朽ちている。
砂塵をくぐり、遺跡の入口まで辿り着いた。リムは壁を背にして、中の様子を伺った。
内部は意外と複雑な構造をしているらしく、日の光が差し込まない、影になる部分がいくつもあった。目の前の乱闘など、どこか遠くの出来事であるかのような静けさだ。
「付いてきて。道順はしっかり覚えている」
リムは素早く遺跡内に体を滑り込ませた。
「待って。なにか変」
シオンが叫んだが、わずかに遅かった。奥の暗闇から放たれた矢が、リムに襲い掛かった。
「くっ⁉」
リムは身を低くし、当たる寸前でかわした。矢はリムの頭上スレスレをかすめ、壁に突き刺さった。
矢の先端からオレンジレッドの魔法陣が広がり、爆発が起きた。エクスプロジィオーンの魔法が発動したのだ。
「きゃあっ!」
凄まじい爆風に煽られ、リムの体が宙を舞った。
「リムッ!」
光来が叫んだ。助けに行こうと身を乗り出すが、次々と放たれる矢に阻まれ、近づくことができなかった。
「罠だっ。待ち伏せされてたんだっ!」
光来の叫びに呼応するように、壁に突き刺さった矢が次々と爆発を起こした。遺跡内に熱気と煙幕が充満していった。
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