ショッピング
慌てて美容室を後にして、二人は行く宛もなく道を進むのだった。
「危なかったな」
「ごめん……」
しばらくして、二人は話し出すのだった。少女は、寝起きでの行動に申し訳なさそうにしていた。気付けば、店内では外していたマスクを少女は付け直していた。
「……良いよ。とりあえず、誤魔化せたみたいだし」
「……どうかなあ」
少女は心配そうにしていた。
粟飯原と仲が良い分、彼女なりに気になることがあるのかな、と誠二は思うのだった。
ただ、今日は心配事を増やすために外に出たわけではない。お出掛けしに来たのだ。であれば、これ以上悩んでもしょうがない。
「とりあえず、買い物に行こう。それが今日の目的なわけだし」
そもそもその目的の前に一つの用事が出来たのは、日頃から散髪出来ていなかった誠二のせいでもあるわけだが、誠二は一先ずそれを棚に上げるのだった。
少女は落ち込んでいる様子だったが、しばらくすると気を取り直したようだった。
「どこ行こうか」
そして、誠二に行先の提案を求めるのだった。
「そうだね。どこ行こうか」
生憎誠二は、最近のティーンエイジャーが行くお店を知らなかった。だからこうして、少女の問いかけにオウム返しをしてしまったのだった。
「行きたい場所、ないの?」
「うん。ない」
少女の問いに、誠二は即答していた。元々誠二は、少女の外行きの服が学校の制服しかないのが居た堪れなかったから服を買いに行こうと思っただけで、行先までは考えてはいなかったのだ。
「じゃあ、あたしが決めて良い?」
「勿論」
少女は、少し嬉しそうにしているのだった。
「じゃあ、駅に行こう」
少女は、行きたい場所があるらしい。
この辺はビジネス街となっているため、どうやらお目当てのお店はないそうだ。
「わかった」
二人は再び電車に乗り込むのだった。
先ほど下車したターミナル駅から電車に乗り込み、より大きな駅で一度降りて、別の電車に乗り込んで。
まもなく、二人が乗り込んだ電車は海岸沿いを走りだすのだった。
高速道路と並走していくこの路線は、逆の降り口からは工場地帯が望めた。その工場の向こうに海。海に浮かぶコンテナ船。
太陽の光が反射する水面を、少女は憂うような目で見ていた。
車内は、通勤ラッシュの時間を抜けて人だかりは減っていた。
声をかけるのも忍びなく、誠二はぼんやりとつり革を掴み、刻一刻と変化していく景色を眺めていた。
大きな観覧車。
有名遊園地。
それらを更に超えて行き、二人は隣県にある商業街にある駅へと辿り着いたのだった。
「着いたっ」
一時間に近い電車旅に鬱憤が溜まっていたのか、少女は改札を出た途端に背筋をグーっと伸ばすのだった。陽の光を浴びながら、楽しそうに微笑んでいた。
「で、どこ行くの?」
一喜一憂する少女に、すっかり保護者気分になっていた誠二は、少女に尋ねた。
「うん。アウトレット行こう?」
「アウトレット?」
そんな上等な施設、この辺にあるのか、と誠二は辺りを見回すのだった。
「あそこ」
「わ、近い」
思ったよりも駅近にあったアウトレットに、誠二は驚いた。
「じゃあ、行こう……か」
早速、アウトレットへと足を運ぼうとした少女だったが、不意に足を止めるのだった。
「どうした?」
誠二は尋ねた。
「いや……」
少女は、申し訳なさそうな顔をしていた。
「思えば、アウトレットで外出用の衣服を数着買うって、結構お金かかるなって」
誠二は、ぽかんと口を開けていた。
「別に良いよ。行きたかったんだろ?」
「そうだけど……」
困ったような少女は、ふとあるビルを見つけるのだった。正確には、ビルに入っている店舗のポスターを見つけた、と言うのが正しかった。
「あ、あそこ行こっ」
少女が見つけたのは、どこにでもある有名チェーンファッション店。
「え、ここまで来て?」
さすがにそのお店の名前を知っていた誠二は、ここまで乗り継いでどこにでもあるそこに行くのか、と問うように言った。
「うん。あそこが良い」
「本当に?」
「……うん」
名残惜しそうに、少女が頷いた。
財布の心配をされる、とは。
粟飯原と言い。この少女と言い。
ブラック企業に勤めているとはいえ、薄給を心配されているようで、誠二は少し気分が悪かった。
そりゃあ確かに、誠二の給料は誠二よりも仕事をこなしていない同期よりも悪い。同期よりも評価が悪いから。
だが、その分。
その同期よりも働いている分。
遊び暇のない誠二の貯金は、かなりあるのだ……!
見くびられるのが気に入らなかった誠二だが、悲しい事実を得意げに言うのも格好が悪いから、渋々少女の提案に乗っかることにしたのだった。
……ただ。
「じゃあ、あそこで色々買った後、アウトレットにも立ち寄ってみよう」
誠二は、少女にそう提案した。
別に何も買わないからと言って、冷やかしにアウトレットに入っている店舗を物色するのは駄目、と言うわけではないだろう。むしろ、そう言う人の方が多いだろう。
そこに思い至っていなかった少女は、ぽかんと口を開けてしばし、
「うんっ!」
嬉しそうに、そう頷いたのだった。
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