第6話 少女は全力で土下座する

 ルルルンの魔法により巨大な魔人機が塵となった、その場にいた誰もが驚愕し、目を見開く。

 ルルルンの使った魔法は分解魔法、あらゆる存在を分解し塵にする絶界魔法の一つ

、乗っていた魔法使いだけは分解されずそのままの勢いで地面に転がっていく。

 地面に転がった魔法使いは信じられないといった表情で目を丸くする。


「あ?」

「もったいない事をしてしまった……」

「え?」

「お前のせいでロボット消しちゃったじゃん、どうやって動いてるのか知りたかったのに、ああああ、しまったぁ」


 感情に任せて分解魔法を使ったことを棚に上げ、ルルルンはテンプレ悪党に文句をつけている。


「あの?私の魔人機は?」

「だから、消しちゃったんだってば!」

「消した?どうやって?」

「魔法で」


 魔人機のパイロットは状況が理解できず、口をパクパクさせ、消えた魔人機を探している。


「あ、自分どうしたらいいですかね?」

「え?あー、覚えてろよ?でいいんじゃないかな」

「え?あ、うん……おぼえてろよ??」

「うん、おぼえてろよ」

「あ、はい、おぼえてろよ」


 魔法使いの取巻きが、放心して覚えてろよと口にする男を引きずり逃げていく。

 その姿を見送り、ルルルンは改めて自分の掌を見つめて魔法の感触を再確認する。


「絶界の魔法までは余裕でいけるか」


 自分の出来る事がだいたい理解できたルルルンは、自分を襲った魔人機を思う。


「腕ぐらい残せばよかったなぁ……」


 夢にまで見た魔導機動騎士、この世界で魔人機と呼ばれる巨大ロボを消してしまった事を後悔していた。しかしそれは確かに存在し、ルルルンの眼前で動いてみせた、つまりはこの世界で巨大ロボットは製造できるという事だ。生前叶う事のなかった夢の実現ができる、それだけでもルルルンにとっては貴重な収穫であった。


「あとは……」


 そして、ルルルンは次のステップに進むため、拘束しているライネスに近づく。


「お前は……なんなんだ?魔女……いや、あのような魔法を魔女は使わない」

「だから、魔女じゃないんだってば」

「だめだ、頭がおかしくなる、私は夢をみているのか?」

「夢じゃないけど」


 ルルルンはライネスをじーっと見つめ、対話の覚悟を決める。


「君と誤解が無いよう、色々と話をしたい」

「貴様と話す事などない……早く殺せっ」


 次々と起こる出来事に疲弊したライネスは項垂れて、諦めに近い態度でルルルンにそう言った。


「いや、だから、俺は、君を殺さないってば、何故か?殺す理由がないからだ」

「そんな言葉信じられるか」

「分からず屋だねぇ、さっきも話したけど、殺すつもりならいつだって殺せる、でも殺してないの、分かる?その必要がないから、必要ないし君には聞きたいことが沢山ある、これ何回言えばいいの?」

「聖帝騎士団の序列一位が魔女に敗北し、このような醜態を晒して、私はもう生きている価値など無いのだ、早く殺せ」


 繰り返す「早く殺せ」にいい加減ムカムカしてきたルルルンであったが、その言葉には重みがあった。覚悟の重み、気が付いているからこそ、ルルルンはその言葉を無碍にはできない。

 ライネスは歯を食いしばり、弱気な声で懇願する。しかし、ルルルンは真剣なトーンで諭すようにライネスに語りかける。


「いいか?生きる価値とか、そういうのは自分が決める事じゃない、自分で自分の価値を決められるのなら、それは本当に君の価値なのか??騎士団の序列一位って言うくらいなんだから、君を必要とする人は沢山いるんだろ?」

「そんなこと」


 ルルルンは正論を続ける。


「人の価値っていうのは他人の裁量で判断されるものだと思うけど、違う?君は必要とされている、必要とされている人間に価値が無いなんてこと、ありえない」

「そんなこと分かっている!!!!」


 その言葉は、常に魔法使いの頂点として評価され続けたヨコイケイスケだからこその言葉だった。

 必要とされたから頑張れた日々、それは悪くない充実した日々だった、自分を評価してくた人達に恥ずかしくない人間であり続けたヨコイケイスケは、ライネスの弱気な発言を看過できず、言い返せない正論をぶつけてしまう。


「そんなことわかっている……」


 ルルルンの言葉に、ライネスは声を詰まらせる。

 そんな価値観に触れてこなかったから、ライネスには理解しがたいもので、だがそれは、ライネスの心に酷く刺さる価値観で、喉の乾きを感じる程に言葉を出せず、頬を汗が伝う。


「俺が思うに、君は理解力のある女性だと感じる、だからこそ見極めてほしい、俺と言う存在が、君たちに害をなす存在かどうか、だから、だからこそ君が価値を決めてくれ、俺が魔女なのかそうではないか」

「私が決める?」

「そうだ」

「そんなこと……決まって……」


 言葉に詰まる、ライネスも心のどこかで目の前の魔法少女と名乗る女が、魔女ではないのでは?と思い始めている。認めてはいけないのに、魔法少女の言葉一つ一つが決意を鈍らせる。


「どうすれば信じてもらえるのか見当つかないけど、俺は魔女じゃなくて、魔法少女だ、何度聞かれても自分の答えは変わらない」


 ルルルンは明確な想いをライネスに伝える、伝わらないかもしれない。でもこの女性なら理解してもらえるのではないか、ルルルンは自分の勘だけを頼りに言葉を選んでいた。


「魔法少女は君の言う【魔女】じゃない、たしかに魔法を使える女の子だけど、敵とかそういう厄介な存在じゃない、事実俺は君を殺すなんて考えてない、むしろ対話をしたいと願ってる、信じてほしい」


 ルルルンは冷静に、淡々と事実を並べ、一方的ではあるが対話を続ける。


「私を拘束しておいて、信じろと言う方が難しいと分からないのか?」

解除ディスパ


 指を鳴らしライネスを拘束していた魔法を解く。


「な?どういうつもりだ貴様!?」


 拘束を解かれたライネスはすかさず、体勢を直しルルルンに剣を向ける……が。

 ルルルンの姿勢は何故か低く、ライネスは虚をつかれる。


「なんだそれは?なにを企んでいる!?」


 自分を拘束していた本人は頭を地面につけ見事な土下座をしている。ライネスはその異様な様子に動揺する。


「信じてほしい」

「な?」


 嘘偽りない言葉をライネスにぶつける。


「俺は何も企んでない!拘束もしない!対等な立場で君にお願いをする!」

「対等な立場だと?」

「これは土下座!俺の知る限り、世界最強のへりくだってお願いをする姿勢だ!!」


 その返答にライネスは混乱するばかりだった。


「俺が怪しいのは100も承知、でも信じてほしい、俺は魔女じゃない、そして教えてほしい、この世界のこと」

「お前は……なんなんだ?」

「それに答えたら、教えてくれるのか?」

「え?いや、そういうわけじゃ」

「君すごく色々知ってそうだから、お願いします!!本当にお願いします!!」

「わわわ、ちょっとまて、ちょっとまってくれ?」


 土下座の姿勢のまま近づいてくる異様な魔法少女にたじろぐ最強の騎士は、まったく敵意のない相手に対して向けている剣を収める。


「やめろ、やめてくれ」

「だったら!?」


 あまりにも異端な存在、魔法少女と名乗る恐ろしい力を持つ魔法使いに、この世界で最も優れた剣士であるライネスの興味は惹かれるばかりであった、好奇心か恐怖なのか分からないその感情は、ライネスの冷静さを奪っていた。


「お前は本当に……何者なんだ?」

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