第57話 騎士の涙

「!!??」

「な?」


 走り抜けた稲妻が、エクスキャリバーンの胴体を一刀両断にする。

 

 凄まじい威力と鋭さ、それと同時に感じる懐かしさと頼もしさ。

 金色になびく髪が稲妻に照らされ光輝いていた。


「ケイスケ!!!!!!!!!!!!!!!」

「ライ……ネス……」


 稲妻の正体は、ラザリオンを使い全力で駆け付けたライネスであった。

 エクスキャリバーンを一太刀で切り伏せたライネスは、慌ててケイスケに駆け寄る。


「生きてるか?酷い……ケイスケ……なんてことだ……あぁ、死ぬな、頼む、死なないでくれ……」


 死に体のルルルンにどう接していいのか分からず、狼狽し何もできず、ライネスは声にならないような声で呼びかける。


「嫌だぁ、頼む、死なないでくれ、ケイスケ」


 情けない顔、先ほどまでの鬼神のような頼もしい表情は何処へ行ってしまったのか、ルルルンはそんなライネスへ精一杯の強がりで答える。


「そんな顔するなって……聖帝騎士団の最強騎士だろ……」

「仕方ないだろ……こんな……私も、どうしたらいいのか……わからなくて、だって……」

「なんでそんな……」


 理解できないライネスの取り乱し様に、ルルルンは驚く。


「俺なんかのために」


 ライネスは、目に涙をためてルルルンの横で崩れ落ちる。


「大切な人が目の前で死ぬのは、もう嫌なんだ……」


 まるで子供みたいに、目から涙をポロポロとこぼしているライネスは、すがる様に言葉をこぼす。普段の凛々しく、誰からも頼られるライネスからは想像もつかない、情けない声と瞳、取り繕うことのない素直なライネスの感情が涙になって零れ落ちる。

 そんなライネスの涙をルルルンは指でぬぐう。ライネスの目元にルルルンの血が付き涙で滲む。


「泣かないでくれよ……ライネスにそんな顔……似合わない……」

「誰のせいで泣いてると思ってるんだ!馬鹿者!」


 ルルルンは少しでもライネスを安心させねばと明るく振る舞い、言葉をかける。


「大丈夫、ほら、回復魔法で回復はしてるから……死んだりはしない……今は、割としんどいだけ……」

「本当か?本当に大丈夫なんだな?」


 わずかな魔法の光がルルルンの身体を包み、少しずつだが傷を癒している。それを見て少しだけ安堵するライネスだが、表情は変わらず不安気なままだ。


「大丈夫……ライネスを残して……先に死んだりしないよ……」

「ケイスケが死んだら私は……」

「負けっぱなしのまんまじゃ……ライネスも……嫌だもんな……」

「そ、そうだ、私はお前にいつか勝つ、それまで私を鍛えてくれないと、そうじゃないと、だめだから……だから……無茶はやめてくれ……」


 顔を近づけて懇願するライネスの頬に、ルルルンはそっと手を添え、そのまま頭を優しく抱き自分の胸に引き寄せる。


「あっ……」

「ありがとう……ライネスは命の恩人だ……ありがとう」


 感謝を伝えると、ライネスの表情がルルルンの胸の中で少しだけ和らぐ。喜びと照れと安心の入り混じった何とも言えない感情がライネスの心を包む。


「お前の授けてくれた魔法のおかげだ」


 胸から顔を上げるとライネスの表情は、現状を理解し、すぐに曇った表情に変わる。


「ケイスケ……すまない、私がもっと早く助けに来ていれば……」


 ライネスはルルルンに自分がもっと早く救援にこればと謝罪する。

 謝罪される事なんか一つもない、ライネスは最善を尽くした、誰が見てもそう思う結果である。

 それでも彼女にとってこの結果は自分の力不足が招いたもの、そう思っているのだ。

 自分の大切な存在が命を落としかけた、その責任は自分にある、その事実がライネスの視線を下げる。


「ライネス……」


 ルルルンはライネスの身体中が、ラザリオンの反動でボロボロになっている事に気が付く。


「お前……ラザリオンで……」


 どれだけ無理をしたらこんな事になるのか……。


「無理したな……」

「……これしか間に合う方法がなかった」

「魔法の力……見直した?」

「ああ、お前の魔法はすごい魔法だ……」

「でも……使い方がまだまだ……だな」

「お前の教え方が下手なんじゃないのか?」

「いやいや……ライネスが覚え下手なんでしょ……」

「よく言う」


 泣いていたライネスの顔に笑顔が戻る、やっぱりライネスはこの顔がいい、ルルルンは心の底から安心し、無理してまで助けに来てくれた騎士に、改めてお礼を言う。


「ありがとな……ほんとに助かった、さすがライネス……俺の……騎士だ」

「いつから、お前の騎士になったんだ?馬鹿者!!」


 俺の見込んだ騎士と言いたかったが、言葉が出てこず、ものすごい傲慢な励ましになってしまった。そう言われたライネスは、否定的な素振りを見せるが満更でもなく、ルルルンの傷口の応急処置をし、ルルルンを抱きかかえる。


「安心しろケイスケ、すぐに病院に連れて行ってやるぞ!」

「ありがたいんだけど……」


 この状況、お姫様抱っこというやつだ。


「あの……」

「なんだ?痛いか?もっと優しく抱えた方がいいか?顔が赤いぞ、熱があるのか?」


 ルルルンは恥ずかしく、申し訳ない気持ちになるが、ライネスに悪気は無く恥ずかしいとは言い出しにくい。


「……ま、いいか」


 身動きが取れないルルルンは、お姫様だっこを受け入れるしかなく、ライネスの頼もしさに甘えることにした。なんだろう、謎の安心感がルルルンを包む。


「そりゃ、モテるわけだ」

「なんだ、そんなに……顔を見て、何もないぞ」

「ごめん、ごめん、ちょっとね」

「ちょっと?なんだ?」

「それより……」


 ここから立ち去る前に、しっかりと確認しておくべきことがある。


「ライネスちょっといいか?」


 ルルルンはライネスにお願いして、エクスキャリバーンの胴体の上半分が吹き飛んだ場所まで連れて行ってもらう。

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