第2話 魔法少女になっちゃったんだけど
「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁあああああ!!!!」
女、しかも自分の会社のマスコットキャラクター【ルルルン】になってしまった現実に絶叫する。
フリフリの衣装、風になびく長い青い髪の毛、大きな瞳と長いまつ毛、見間違うはずもない、これは自分の会社のマスコットキャラクター、自分がデザインした魔法少女ルルルンなのだから。
「いや待て、落ち着け、そうだ!これは夢!夢という可能性、可能性が……」
改めて自分の身体という身体を確認する、ダメだ、女だ。
「女だ」
もう一度触る、見る、一回転してもう一度見る、ダメだ、女だ。
どうやっても、どうゆう確認方法を試しても、女だ、女子の肉体……その確認行為はケイスケが自分が女になってしまった現実をハッキリとさせるだけであった。
「なんで、どうして?俺は、たしか、会社を出て……カオリと一緒に駅に向かって」
フラッシュバックする真っ赤な記憶。
恨みの末、果たされた復讐劇。それは確かな記憶としてケイスケは確実に認識している。
「俺たちは……俺を恨んでる競合会社の社長が運転するトラックに撥ねられて……」
トラックに撥ねられてという所でケイスケは気が付く。
「あぁ、これ」
アニメとか漫画である例のあれだ……。
「転生ってやつ?」
漫画でよく見た展開である、がしかし。
「ははっ、せめて、あれだよ、性別は固定してほしかったかなぁ、でもあれか、今は+αの要素がないとダメか、そうゆうやつ?」
世にいう異世界転生、しかも性別変換のおまけつき、なんということでしょう。
「あああああああ!!!」
突然叫んだケイスケに街ゆく人たちが驚く。顔を二回ほど叩きケイスケはその蒼く輝く澄んだ大きな目を見開き、天を仰ぐ。
諦めにも似たその叫びは意外や意外、逆の物であった。
「ありがとう神様、形はどうあれ、俺は今生きてる!多分だけど、そう!生きてる!」
生の充足感がケイスケに前を向く力を与える。生きてさえいればなんだってできる、そう!たとえ魔法が使えなくても、ルルルンになってしまったとしても、ケイスケはただただ当たり前の生への感謝と喜びを噛みしめる。
「原因は分からない、けど!そんなのどうでもいい、生きてる事実が重要だ、俺は今確実に【生きてる】」
異世界転生という事であれば、世界の風景の差も納得がいく、中世のようなファンタジーを感じさせる建築物と人々の服装、ここは自分のいた世界ではない。
なぜ転生したのか、この世界はなんなのか、そんな事はおいおい考えればいい、そんな事より生きている事実のほうが何倍も重要だ。
「だったらカオリは?」
自分が生きているという事は、自分の胸の中にいたミズノカオリはどうなったのか?転生したのが自分だけならば、カオリは助かったのか、真実は分からない、だが今ここにカオリはいないのだ。
「こんな時魔法が使えれば、簡単に探せるんだけどな……」
そう言うと同時にケイスケは、得も言われぬ違和感を覚える。
「あれ?」
その違和感は、大気に混じり、ケイスケの忘れかけた感情を刺激する。
風の中に、大地の中に、あるはずのない無くなってしまった懐かしいものを感じる・・・。
「魔素?」
世界から失われた、魔法の源である魔素を感じるのだ、ありえないその感覚に狼狽していると、人で賑わう商店街の大通りから悲鳴が聞こえた。
「お願いです!やめてください!」
大きな声に振り返ると一人の女性が、男たち数人に絡まれていた。
「いいじゃねえかよねえちゃん、俺たちと遊んでくれよ」
「やめてください」
「俺たち魔女の眷属よ、いいの?そんな態度してぇ」
如何にもな、あまりに如何にもな輩たち、100%テンプレートな悪漢が町の女性にこれまたテンプレートな絡みを披露している。
「私、これから仕事があるので……」
「いいじゃんいいじゃん、そんなのサボっちゃえよぉ」
「サボるなんて、ダメですよ!!」
「真面目かよ」
少女の真面目な反応に、悪漢達は大笑いし、嫌がる少女へ挑発を続ける。
「お前らなんか、聖帝騎士団がすぐに来て捕まるだけだ!」
住人の誰かが声を上げる。
「聖帝騎士団だぁ?」
「おい誰だ、いま言ったやつ!ああ?」
住人の言葉に反応した悪漢は、ニヤリと笑い大声で語る。
「いいぜ、連れてこいよ!塔の魔女と事を構える覚悟があるならなぁ!」
そういうと、魔女の眷族と名乗る男たちはゲラゲラと笑う。
その態度に周りにいる人たちは何もできずただ見ているだけ、口々に魔女の眷族がなんでこの街に、と話をしている。
この世界の事はよく分からないが、ハッキリと分かる事がある。
「気に入らん!」
何か事情があるのかもしれないが、ケイスケは困っている人を見過ごす性根ではなかった。
「わかるよ、そういうやつね」
異世界転生のテンプレを察したケイスケは、下心半分絡まれている女性をかばうように、テンプレ達にテンプレな展開で颯爽と立ちはだかった。
「なんだおめえは?」
「放せ」
「ああ?」
女の子の手を掴む男の手をはじき、青色の美しい髪を靡かせ、決まり文句でケイスケは悪漢達の前に立ちはだかる。
「嫌がってるだろ?やめときなよ」
悪漢たちに動揺が広がる、それもそのはず、男たちを止めたのは筋骨隆々の男でもなく、キザな優男でもない……。
『誰が見ても美しく、かわいい、可憐な少女だったのだから』
「早く逃げな」
「あ……はい……」
絡まれていた少女を逃がし、ケイスケは男数人と対峙する、見た目にはどう考えても勝ち目のない無謀な構図。
「お前……」
「お、おい」
「なんだ?」
「その子」
悪漢たちがひそひそと相談を始める。
「どうした?びびってんのか?一人の女にしか強気でいられない根性無しかお前ら?」
「かわいい……」
挑発の言葉に返ってきたのは予想外の褒め言葉。
「かわいい」
「は?」
「かわいいなぁ、おい!あんた、名前は?」
「名前?」
「そうだよ、さっきの女なんか目じゃねえ、あんたが俺たちと付き合ってくれよ!!!」
「断ったらどうなるか、分かるよな?」
力ずくで屈服させようとする邪な目、嫌ほど見て来た私利私欲の眼差し、反吐が出る、世の中こういうクズはそこかしこに跋扈している、ケイスケは現世での嫌な思い出に表情をゆがませる。
「俺は、お前らみたいなやつらが、大嫌いなんだよ」
ケイスケの全身から怒りのオーラが立ちあがるが、悪漢たちには逆効果だった。
「おほーいいね、強気な俺っ子、たまらないよ!」
「かわいい!」
「俺が貰うんだからな!」
「ばか!俺だよ!」
「かわいい!」
「嬢ちゃん!俺たちに逆らうと、痛い目にあうから、言う事聞いた方がいいよん」
そういうと悪漢の一人が、なにやら言葉を口にする、安い言葉と思い聞き流そうとしたその言葉はケイスケには懐かしく、馴染みのある言葉だった。
「その力、大地を焦がす炎となれ刻印顕現!クラ・バーン」
「な????」
それは魔法であった、ケイスケの世界では失われた大いなる力、男は確かに手の平から魔法で炎を出した。
踊るような炎はケイスケの周囲を囲む。
「魔法?」
「焼かれるか俺たちのおもちゃになるか、さあ!選びな!」
ケイスケは炎を目の当たりにするやいなや、ものすごいスピードで悪漢に近づき炎を出している手を取ると、まじまじとそれを観察する。
「おおう、なんだ?お前近いよ、距離感おかしくね?」
「おい、これはなんだ?燃料を燃やしてどこかから着火してるのか?」
掌を観察するとそこには刻印が刻まれた水晶の形をした
「
「馬鹿かお前!!これは魔法だ!!魔法!!!俺様は魔女様から加護を頂いた魔法使い!悪い事は言わねえ、言う事きかねえと、火傷しちゃうぜ」
魔法、それはケイスケの世界から失われた奇跡、失われた奇跡が今確かに目の前にある。
「魔法……」
「そうだ!魔法だ!」
「魔法ですよね?」
「魔法だっていってんだろ!」
「うっううう、うぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁっぁっぁあああああ」
突然泣き始めた少女に男たちがギョッとする。
「ひぃぃぃぃんびゃあああああああぁぁぁぁぁぁ!!」
「いや、なんで泣くんだよ」
「だって、だって、魔法だよ、魔法、信じられるか?お前魔法を使ってるんだぞ!!!」
「それがなんだってんだ!?魔法が怖けりゃ言う事をき/き」
「
男の話の途中、風が吹く
「あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁっぁぁぁ」
悪漢の一人が、突風ではるか彼方へ吹き飛んでいく。
「え?」
あまりに突然の事にその場にいた誰もが静止した。
涙を拭き、すぅっと一息ケイスケは魔素を取り込む。
力が漲る、懐かしい感覚、それは間違いなく、魔法の源である魔素であった。
「いまのは?」
目の前の現実を受け止めることができない悪漢の一人がそう呟く、悪漢達の目の前にいるその少女は魔法を使ったのだ。掌に感じる何年振りかのその感覚にケイスケは打ち震える。
「この世界でも魔法使いってのは、憎まれ役なのか?」
明らかに異常な魔素を纏う少女の姿をしたそれは、かつて世界一の魔法使いだった【タンザナイト】の称号を持つ大魔法使い、ヨコイケイスケは悪漢たちに強烈な圧をかけて言い放つ。
「魔法使いの端くれなら、今俺をナンパすることがどれだけ命知らずの事か、分かるよな?」
悪漢はコクコクとうなずくと後ずさりし逃げようとするが
「あー、ちょっと待て!!」
「な、なんです?」
「おぼえてろよ!って言ってくれてもいいぞ!」
「……おぼえてろよー!!!あ、すいません・・・。」
ケイスケに許可を貰いテンプレートな捨て台詞を言い放ち申し訳なさそうに去っていった。
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