起動魔法少女株式会社ルルルン~魔法少女に生まれ変わったけど、異世界で絶対起業する~

うどん粉

1章 魔法少女転生

第1話 プロローグ

 嵐、嵐が吹き荒れる、全ての終わりを予感させる嵐。


 決戦の大地と言うべきなのか、海に浮かぶ孤島と呼べる、誰にも干渉される事がないその場所に巨大な嵐が吹き荒れる。

 

 嵐の大地の中心には、全てをなぎ倒そうとする、暴力的な質量を持った風の鞭が舞っている。何人も近づくことができない結界のような嵐の中心に、フリフリの衣装で着飾った青い髪の魔法少女と、20mはあろう黄金に輝くボディの巨大ロボットが対峙していた。両者の気迫が嵐の勢いをさらに増幅させていた。


「お前の魔法と俺様の剣、どちらが最強か決着をつけようじゃないか!ルルルン!!」


 巨大ロボが剣を構え吠える。


「相変わらず暑苦しいわね、エクスキャリバーン!」


 魔法少女が不敵な笑みを浮かべる。

 魔法少女の数十倍の大きさの騎士を模したロボット「機動騎士きどうきしエクスキャリバーン」は、宿命のライバルである「魔法少女ルルルン」との決着を求めていた。


 どちらがこの世界で最強なのかハッキリさせるため。

 魔法少女もその思いに応え、魔法の力を細い両腕に込める。


「手加減はなしだ!!ルルルン!!」

「望むところよ!!キャリバーン!!」


 決戦の覚悟をお互いが決めた刹那、キャリバーンが叫ぶ!


「キャリバーンキングブレード!!!!!!」


 天に掲げたその手に稲妻が走り、キャリバーンの手に巨大な剣が現れる。

 キャリバーンキングブレードと呼ばれた巨大な剣をルルルンに向け、魔法少女と巨大ロボの決闘が始まろうとしていた。


「出たわね最強の聖剣、おもしろいじゃない!」

「出し惜しみ無しだ!いくぞ!!!!」


 最強のロボットと魔法使い、雌雄を決する戦いの火蓋が切られた。


 キャリバーンが聖剣を振りかざし、ルルルンに向け振り下ろす、明らかな大振りをルルルンは軽々かわすが、その斬撃は山と海を切り裂き遥か先の大地をも切り裂いた。

 そのレベルの斬撃をキャリバーンは次々と繰り出す、次第に太刀筋は加速していき、大地が悲鳴を上げる。

 見かねたルルルンは、キャリバーンの剣を魔法の力で受け止める。あのレベルの剣を片手で軽々とだ。


「自然は大事にしなさいよ!」

「簡単に受け止めてよく言う!」


 後手に回ってりたルルルンは反撃に出る。片手で魔素をコントロールして魔法を行使する。


「神界魔法フレイムインフェルノ!」


 魔法少女が掌から巨大な炎が放たれる、全てを焼き尽くす地獄の業火、直撃を食らえばキャリバーンと言えど、無傷では済まない……


 が、キャリバーンに直撃する直前!その魔法は光の塵となり突然消失する。


「魔法障壁!?」

「残念だったなルルルン、俺様の魔法障壁はお前対策の特別製だ!!神界の魔法も通じないぜ!」


 絶体絶命のピンチにルルルンは、焦ることなく不敵に笑う。


「そう……だったらこれはどうかしら!超越魔法ヘブンスフォール!!!」


 魔法少女は魔法障壁に対抗し、神界魔法をも超える超越魔法ヘブンスフォールを発動した。

 天空に巨大な光の魔法陣が展開され、魔法陣から舞い降りる羽のような光がキャリバーンを包み込み、キャリバーンのアンチマジックを無効化する。


「俺様の魔法障壁が消える!!」

「対策の対策ってやつよ」

「やるじゃねえか!ルルルン!!」


 魔法障壁を無効にされたキャリバーンは、すかさずルルルンへ巨大な剣を振り下ろす。最初の一撃より更に重く早いその巨大な剣の一撃をルルルンは辛うじて物理防御魔法で防ぐ。

 防いだにも関わらずそのダメージはルルルンに確実に届いていた。


「エクスキャリバーン!!!」

「決着をつけるぜ!!!!!!」


 最強の剣士と魔法使いを決める戦いの決着が付くのかと思われたその時!!


 両者は突然動きを止める……


 突如として世界の全ては停止したのだ。


 停止した時の中、ルルルンとエクスキャリバーンはゆっくりと着地する。


 何故なのか?



 それは、両者を手に持ち戦わせていた創造主とも言える男が、虚しさのあまり



『人形遊びをやめてしまったからだ』




 ……最強の魔法少女もロボットも、彼の作ったフィクション、空想の存在なのだ。




「なにやってんだ俺は……」


 ト書きを含めた一人二役をむなしく演じていた男はため息一つ、ルルルンとキャリバーンのフィギュアを手に持ったまま、自分のデスクだった場所に座る。


「魔法が使えなくなって何年?はい、そうですね5年ですね、分かってるよ、そんな事……」


 株式会社MHG【マジックハンディガール】

 その代表取締役「ヨコイケイスケ」は誰もいなくなった社内で一人そう呟き、天を仰いでいた。


 誰かのために、行動する、人助けのため、とにかく頑張る、そんな企業理念を掲げ、全力で走っていたこの会社も今まさに終焉を迎えようとしていた。


 会社のマスコットキャラ「魔法少女ルルルン」と「機動騎士エクスキャリバーン」を握りしめながら、オフィスチェアの背もたれを目いっぱい倒し天井を眺め、この場所の思い出を振り返る。


「無我夢中で起業した事」


「楽しかった事」


「叶わなかった夢の事」


「裏切った奴らの事」


「魔法の無くなった世界の事」


 本当に色んな事があったけど、はっきり言える事がひとつだけあった。


「なんで……こうなっちゃったかな……」


  かつて、といっても5年前まで、この世界には魔法使いが存在した。魔法でなんでも叶えてしまう物語の世界のような存在、ヨコイケイスケの住むこの世界では魔法を使える者を【マギア】使えない者を【ノーマ】と呼び区別されていた。


 しかし、その差はこの世界の溝であり、繰り返される差別の火種であった。


 世界を動かすのはマギア。絶対的マギアの支配により、世界は魔法至上主義へと染まっていた。

 ノーマは常にマギアの下であり、差別撤廃を謳う善人たちの言葉空しくこの人種差別は絶えず続いていたのだ。


 世界から魔素が枯渇し、魔法が失われるまでは……


 ヨコイケイスケは【マギア】の中でも特に優れた、この世界で1人しか存在しない大魔法使い【タンザナイト】の称号を持つ世界で最強の魔法使い、その絶対的力でマギアとノーマの差別が無い世界を目指す『善人』の一人。


 だった……


 かつて世界中に溢れていた魔素は自然破壊や大気汚染、魔力の軍事利用により際限なく消費され「涸れ果ててしまった」

 誰もがそんな事は起こりえないと考えていた。だがそれは現実に起こってしまったのだ。


 気がつけばこの世界で「魔法を使える者は誰もいなくなっていた」のだ。


 ヨコイケイスケも例外ではなく、世界最強の大魔法使いも魔法が使えなければ、只の人間。

 魔法の研究、生活利用を目的とした魔導機の開発のためケイスケが設立した会社「株式会社MHG(マジックハンディガール)」も魔法が世界から消え、その存在を否定された。


『あぁ、ヨコイ君、申し訳ないね、もう君の会社には協力できない』

『君に協力していたのは君が【世界で最も優秀な魔法使い】だったからさ、魔法が使えなくなった君には価値がない』

『タンザナイトも只の人間になったらおしまいだな』

『いままでノーマを馬鹿にした報いよ』

『ざまあないぜ』


 響く嘲笑の声、思い出す、思い出す、嫌な言葉ばかり。


『魔法が使えない魔法使いに生きる価値なんてない』


 それが世界の言葉だ。


「くそっ!!!」


 机をダンッと叩くと、衝撃に反応してルルルン人形が機械的にしゃべりだす。


『私に任せて!何でも解決!魔法少女ルルルン♪』

「……任せられるなら、任せたいよ、ルルルン……」


 今日で株式会社MHGは幕を閉じる、魔法の終焉と共に。


「……」


 涙が出る、あふれる、こぼれ落ちる、悔しい、怒り、悲しみ、もっとみんなと笑顔でいたかった、会社を成功させたかった。


 魔法に頼りすぎた結果招いた結末、自分が世界で一番だったという慢心、ふがいない自分と、どうしようもない世界にヨコイケイスケは咆哮ほうこうする。


 それは誰にも届かない、誰にも伝わらない、だが声を出さずにはいられなかった。


 外の陽も落ち暗くなった社内でケイスケは最後の荷物を段ボールに詰める、ふとルルルンとエクスキャリバーンが視界に入る。


「……ごめんなルルルン」

『私に任せて!何でも解決!魔法少女ルルルン♪』

「……作ってやれなくてごめんなエクスキャリバーン」


 そう言ってケイスケは二つの人形を段ボールに入れ、スッと顔を上げる。


 決意めいた表情で立ち上がると、荷物の段ボールを持ちスタスタと歩き出す、オフィスの入り口の扉を勢いよく開けヨコイケイスケは誰もいない社内を振り返り、最後の言葉をかける。


「おつかれさまでした……」


 ヨコイケイスケは株式会社MHGだった場所を後にする、階段を下りると外はもう暗くなっていた。


「帰るか……」


 岐路に就こうとしたとき、背後から声をかけられる。


「社長!」

「あれ?どうした?」


 声をかけたのはMHGで最後まで働いてくれた、女性社員のミズノカオリだった。


「会社に忘れ物しちゃって……」

「そうだったの?ごめん、鍵しめちゃった」 

「あ!それ!」


 ミズノカオリはケイスケの持っている段ボールに入っているルルルン人形を指さしそう言った。


「ルルルン人形?」

「それ、私の私物なんです」

「え?そうだったの?」


 ケイスケはそうとは知らず、ルルルン人形はずっと会社の備品だと思い込んでいた。


「ごめん、知らなかった」

「言ってませんもん」

「言ってよ」

「自分でデザインした人形を自分で買って飾るとか、なんか恥ずかしいじゃないですか」


 カオリはルルルンのデザインを手掛けたデザイナーで、会社にマスコットキャラを作ろうと提案したのも彼女である。誰よりもルルルンに思い入れのある社員の一人だ。


「忘れ物、それなんです」

「そうなの?」


 少し恥ずかしそうにそう言うと、ケイスケはルルルン人形を段ボールから取り出す。


「じゃあ、これ」

「はい……」


 カオリにルルルンを渡すと、カオリの表情は少しだけ曇る。


「悔しいですね……」

「まあ、さ、仕方ないよ……魔法が使えなきゃ、俺たち魔法使いなんか、普通以下って言うか……な」

「社長が……師匠がそんな事、言わないで下さい……タンザナイトまで上り詰めた最高の魔法使いじゃないですか!」

「昔の話だよ……」


 自虐するケイスケに熱く詰め寄るカオリ、立場として社長でもあり、魔法の師匠でもあるケイスケの暗く沈む態度に檄を飛ばす。


 彼女もまた、優秀な魔法使いであったがケイスケと同じく、魔素の枯渇により魔法を失ってしまった。


「師匠は本当にすごい魔法使いでした!!」


 その言葉はケイスケを更に惨めにする、過去の栄光はケイスケを苦しめる材料でしかないのだ。


「駅まで送るよ」

「……」


 そう言ってケイスケは駅に向かい歩き出す、カオリも先に歩き出したケイスケの後を追うように歩き出す。

 駅に向かう大通り、車通りの多い道を同じ速度で2人は歩く。


「なぁ、カオリ」

「はい」

「お前はこれからどうするんだ?」

「どうする?」

「そう、なんかタイミング悪くて他の社員には、そういう事聞けなくてさ、どうすんだろうって?」

「私は聞きやすいとかですか?」

「そうだな、カオリには沢山助けてもらったからね、感謝してる分親近感も強いってことさ」

「答えになってませんよ」


 カオリとケイスケは会社を立ち上げた当初からの付き合いで、駆け出しの魔法使いだったカオリがタンザナイトのケイスケに憧れて、書類審査をすっ飛ばして駆け込み入社してきた変わり種だ。ケイスケにとってカオリは公私共に信頼のおける相棒のような存在だった。


「入社した時から、カオリはなんていうか、積極的だったからなぁ」

「それは、もう言わないで下さいよ」

「でもそれがなかったら、MHGはここまでこれなかったよ」

「社長……」

「楽しかったなぁ……みんなでどうすれば、この世界が良くなるかって、本気で考えてたよね、ハハハ……」

「そう……ですね……」


 空気が乾く。

 ケイスケは遠くを見つめるように呟く。


「多分俺、本気で世界を変えられるって思ってたんだよ」

「はい」

「魔法で差別をなくして、世界を平和にって、誰かを助けたいって、本気だったんだよ」

「知ってます」

「世界一の魔法使いになったのに、できなかった」

「社長のせいじゃないです」

「できなかったなぁ……」


 隠し切れない、虚しさが2人を包む、会話の節々に言い表せない憤りと悔しさがにじみ出る。沈黙が続き、ふとカオリが足を止める。


「どうした?」 

「私、諦めてません」

「なにが?」

「さっきの質問です」

「なんの質問?」

「さっきのです」

「これからどうするの?って話?」

「はい、私、諦めません」

「カオリ?」

「『誰かのために、行動する、人助けのため、とにかく頑張る』魔法を世界のために使うMHGの理念を私は諦めません、たとえ世界が変わっても、私は諦めないでがんばりますから!!」


 カオリは唇を震わせながら、MHGの企業理念を口にする。これからどうする?の質問に対して「魔法が無くなったとしても、諦めない」カオリはケイスケにそう答えた。


「カオリ……」

「だから社長も、諦めずにまた一から……」


 カオリがそう呟いた瞬間だった。


「カオリ!!!!!!!!!!!!!!!」


 ガシャアアアアアアアアアアアン


 ヘッドライトの光が2人に向かって突っ込んだ、カオリを庇うように飛び込んだが間に合わず、二人は大型のトラックと激突した。 

 ガードレールを突き抜けたトラックは、チカチカとウィンカーを点滅させながら、煙を上げて横転している。

 運転席から出てきたドライバーは見覚えのある人物であった。


 MHGの躍進により廃業した競合会社の社長だった男。


 額から血を流し、骨折している脚を引きずりながら、ゆっくりとケイスケに近寄り、地面に這いつくばるケイスケを見下ろす。


 その表情は酷く歪んだ笑顔であった。


「お前が悪いんだ、お前が、お前が全部奪ったから……魔法使いに奪われた全部を、奪い返してやった、あは、あはは、あははははは、ああああああはははははは」


 目的を達成したその男は足を引きながら、かすれた笑声でその場を離れていく。


「くそ……」


 血まみれのケイスケの胸の中でカオリは意識を失っていた、身体中の痛みはケイスケの思考を奪う。自分の身体から止めどなく溢れ出る血は、ケイスケの意識を白濁させていく。


「カオリ……おい……しっかり……しろ……」


 動かないカオリを起こそうとケイスケはカオリを揺するが、反応はない。カオリの口からは大量の血が溢れていた。


「おいッ……だめだ……カオリ」


 反応の無いカオリを揺するたび、ケイスケの意識は次第に消えていく。


「……大治癒魔法グランヒリオン……」


 治癒魔法を詠唱してみるが、カオリに反応は無く、動かない。


「グラン……ヒリオ……ン……」


 どんな傷でも瞬時に治してしまう超魔法、かつてこの魔法でケイスケは多くの人を救ってきた。

 しかし……今ではそれは、ただの言葉、その言葉には何の力もない……これがケイスケに突きつけられた現実だった。

 無限にあった奇跡は有限の現実へと置き換わり、それは既に失われてしまったのだから。


「こんなの……」


 打ちのめされる、最強と言われた魔法使いは、最後も人を救えずに地に伏し、かつて犠牲にした人間に復讐をされ、関係のない人間まで巻き込んで終わりを迎える。


 望まない終わりであった。


 魔法が世界を救う、マギアとノーマが手を取り合う共存の世界を作りたかった。


「それが……出来る……会社になると思ったんだ……」


 胸の中動かなくなったカオリにケイスケは呟く。


「ごめんな……」


 悔しい、悔しい、こんな悲劇を生まないために作った会社だった、魔法を使えない人達を助けるつもりで起業した、世界最高の魔法使いになって、自分が世界を変えてみせると……


 そんな思いも血だまりに沈む。沈んでいく。


「悔しい……なぁ……」


 消えていく意識の中、自分の人生を振り返る、悔いしかない「タラレバ」がケイスケの涙を誘う。


「ちく……しょう……」


 胸の中で動かないカオリと地面に散らばった荷物、ルルルンとエクスキャリバーンの人形を手にヨコイケイスケは辞世の句を詠む、彼の人生の幕は降ろされる、魔法の無くなったこの世界での彼の人生の幕は降ろされる……

















 筈だった ―――――











『大丈夫……ルルルンに任せて……ケイスケ……』


 聞き覚えのある声がヨコイケイスケの意識を引き戻す。


「ルルルン?」

『大丈夫、私に任せて!!』

「任せるって?」


 笑顔で語り掛ける魔法少女にケイスケは問う。


『私に任せれば全部うまくいくから』

「ルルルン」


 優しいその声に全てを委ねようとした時。


『お前に任せる訳にはいかねえな!』


 更に聞き覚えのある声が聞こえる。


『おい、マスター俺様に任せろ、こんな女信用するな!』


 見覚えのあるロボ「エクスキャリバーン」だった。


『ちょっと、こんな時まで邪魔しないでくれる?』

『黙れルルルン!ここは俺様に任せろ』

「こういう時にもケンカするんだね」


 すごく重要な場面だというのに、二人はお構いなしにいつものケンカを始める。


『ここは私の領分でしょ!引っ込みなさい!』

『お前がひっこめ!』

『なんですって!!!どう見てもマジカルな空間でしょうに!あんたが引っ込みなさい!!』

『雰囲気で決めつけんじゃねーっつーの!』

「あの、ケンカしないでくれます?」


 揺らぐ世界で2人の口論がケイスケの意識を更にハッキリとさせていく。


『私に!』


『俺に!』


【任せて!】


【任せろ!】


「任せてって、何を?」


 ルルルンとエクスキャリバーンの声が響き渡り、ケイスケの意識は真っ白な世界から解き放たれた。


 真っ白な世界から、目を覚ますと夜は明けていた、当たり一面冗談みたいな広い草原、見たことのない風景。ヨコイケイスケは目をぱちくりさせ飲み込めない状況を頭の中で整理する。


「俺、寝て、あれ?カオリ???」


 直前の記憶と全く違う景色にケイスケは戸惑い混乱する。


「カオリ??」


 ケイスケは直前まで、自分の胸の中にいたミズノカオリを探す。しかしその姿は無く、ケイスケは一人であった。

 記憶が正しいならカオリは酷いケガをしていた、もし間に合うなら病院に……


「ケガ?」


 ケイスケは立ち上がり、自分の身体を確認する。トラックに撥ねられたキズは無く、出血もなくなっていた。


「……治ってる?」


 身体に違和感があるが歩くことは出来る、少しだけ歩くと草原の丘の先、そこには大きな街が広がっていた。


 見た事もない、大きな……規模からして大都市と言っていいだろう。


「ここは?」


 眼の間に広がる巨大な都市を眺め、呆気に取られているケイスケを更なる衝撃が襲う。


 ゴゴゴゴォォ!!


 大きな音が迫ってくる。


「なんだ?」


 音に警戒したすぐ後、ケイスケの頭上を大きな乗り物が通過する、それは彼が夢見た魔法の力で動くロボット。大きく巨大な魔力を糧にして動くロボットであった。


「魔導機動騎士!?」


 夢が目の前にある、憧れだった魔導機動騎士。


「まじか?まじでか?????」


 ノーマでも扱える魔導機として、マギアとノーマを繋ぐ架け橋になるはずだった、ケイスケの夢、巨大ロボットが空を飛んでいる。


「待て、ちょっとまってくれ!!!!」


 追いかけようと駆けだすと、身体の違和感がケイスケのバランスを崩す。


「いったぁ、ってあれ?」


 おかしい、感覚が違う、動く感覚にずれがある。立ち上がろうとするだけで違和感がある。


「なんだ?」


 まるで自分の体じゃないみたいな、そんな違和感。


「おかしいな」


 違和感をかみしめるように立ち上がると、ケイスケは、草原の向こうに生き物を発見する。


「犬?」


 犬のような生き物もケイスケに気が付いたのか、こっちに向かって走り出す。


「……犬だよな?」


 犬と思ったその生き物は、距離が近づくにつれその姿を明確に表す。明らかに犬ではない。


「犬じゃなあああああああいいいいい!!!!」


 犬と思った生き物は、巨大なライオン、いや、ライオンと呼ぶにはライオンがあまりにも脆弱に感じられる恐ろしい見た目のモンスターであった。

 鋭い牙、ナイフのような爪、獲物を狙う眼光、口から滴り落ちる大量のよだれ。これだけはハッキリと解る、捕まれば食われる!!!

 一目散に逃げるケイスケだったが、身体の違和感が邪魔をしてうまく走る事ができない。


「やばいやばいやばいって!!!!なんなんだよあの化け物は!!!!!!!」


 逃げる、足が千切れると思うほどに、全速力で。しかしモンスターはそのスピードを遥かに凌駕しケイスケを追い詰める。


「だめだ、追い付かれるっ!!!!!」


 諦めかけたその時—————


「!?」


 馬に跨ったネコミミの騎士がケイスケとモンスターの前に割って入る。


「そのまま、街へ行くにゃ!!」

「!!!!」

「走るにゃ!!!!!!!!!」


 言われるがままケイスケは走る、誰かは分からないが、また死ぬわけにはいかない、みっともなくケイスケは全速力で街へと走った。

 振り返ることなく、全力で。


「ありがとう騎士様!!!!!」


 息を切らしながらも、何とか街の入り口にたどり着く。


「はぁ、はぁ、ぜぇはぁ、うぉっぷぁ……」


 異世界の洗礼を浴びたケイスケは噛みしめる、生の実感を。騎士に助けてもらわなかったら確実に死んでいた。


「まじかよ……ほんとに異世界……まじかぁ……」


 巨大なロボ、巨大なモンスター、ありえない異世界の情報量にケイスケの感情が追い付かない。どっと疲れが押し寄せ、下を向くと、青く長い髪の毛が自分の視界を遮る。


「髪の毛??え?俺の???」


 それだけではない、ケイスケはようやく身体の違和感の正体に気が付く、自分の履いている靴が、いつもと違う……着ている服がいつもと違う……というか、髪の毛が長い……


「あー、あー、あれ、なんだこれ……女の声?」


 自分の声が明らかに違う。

 そして気が付く。


「え?」


 胸元に存在する強烈な違和感。


「え?」


 柔らかい塊が二つ……。

 そして股間に手をやるヨコイケイスケ


「あれ?」


 あるはずの物がなく、無いはずの物がある……なんだこれは?????


「まてまてまて!!!!」


 確認しなくてはいけない!!!!

 

「おいおいおいおいおいおいおいおいおい、うそだろ!!!!!!!」


 街の中で自分の姿が確認できる物を探す。


「うそだろ!!」


 きょろきょろと顔を振り、目に映る異世界の街の違和感に気が付きつつも、目的である物を探す、女物の衣類を販売している店先のガラスに気が付いたケイスケはその前に立ち、そこに映る自分の姿を確認する。

 それは見慣れた男ヨコイケイスではなく。


「なんだ……これ?」


 ケイスケは二度見する、下から上までもう一度隅から隅まで確認するが結果は同じ。その姿は株式会社MHGのマスコットキャラクター


『魔法少女ルルルンであった』

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