第3話 魔法があればなんでもできる?
魔法の使える世界、息をすれば感じる魔素の力、身体に漲る懐かしい魔力の鼓動、ケイスケは興奮を隠せなかった。
「魔法!魔法が使える!魔法さえあれば!」
掌に感じる魔素の感触が、かつて成しえなかった夢を思い出させる。
もう使えないと思っていた魔法、感覚で分かる魔法の使い方、魔力のコントロール、全てが懐かしい。
掌を握って開いてを何度か繰り返しながら、ケイスケはうっすらと涙を浮かべていた。
「……そうか、また、俺はまた、魔法が使えるんだな」
グッと掌に力を込めると、ケイスケは前を向く。
「魔法があれば!なんだって!!」
また魔法が使える、魔法が使えるなら、マギアとノーマが手を取り合う世界を……
「魔法があれば……魔法が……」
喜びも束の間、ケイスケは思い詰め、表情を曇らせる。
魔法が生んだ悲劇、平和の為の力でもあるが、それは人を支配する力でもある。
強い力は人間を狂わせ、正常がなにか分からなくなる。魔法とはそういう危険を内包している。
そして、それが失われた時の失望は計り知れず、また新たな憎しみを生み、結果自分もその流れが生んだ憎しみに殺されてしまった。
力に頼る事への危険性知る者として「魔法を使う事ができる」それは素直に喜べるものではなかった、希望と危険を背中合わせにした過ぎた力、それを使う責任、巨大な力が生む物は、幸福だけではないんだと……そんな苦い経験がケイスケの心に影を落とす。
「まずは、この世界の事を知らないと……か」
落ち込んでいるだけでは何も解決しない、改めてガラスに映るルルルンになった自分の姿を確認し、起こっている異常事態の解決方法を考える。
魔法が使えるこの世界の事、何故死んだはずの自分が意識を持ち生き返ったのか、何故ルルルンの姿なのか。
「死んだ時に人形を握っていたから?」
だとすると一緒に握っていたエクスキャリバーン要素は?死の間際、握っていた自分の会社のイメージキャラクター達、ルルルンとエクスキャリバーン、設定では何故か宿命のライバル設定で圧倒的にルルルンの方が人気があった。
ケイスケ的にはロボットが好きなので、どちらかと言うとエクスキャリバーンが好きだったのだが、ロボットになるか魔法少女になるかと聞かれれば……
「うーん、まだルルルンの方がいいのか?かわいいし」
致し方ないとはいえ、ケイスケは心の中でエクスキャリバーンに謝罪する。
立ち止まって悩んでも仕方がない、とにかく動くしかない!と、まずは魔法でミズノカオリの存在を確認する。
「
広域の探索魔法を発動する、範囲は数千㎞、対象をミズノカオリに限定、探知結果は【確認できず】しかしケイスケは落胆せず考える。
「もし、カオリも転生していたら魔法が使えるはず」
だとすればそこまで悲観する事はない、彼女が優秀な魔法使いだという事は、師匠であるケイスケが一番理解していた。
ケイスケは良しっ!と、振り返り、騒ぎの合った広場を見渡す。
すると周りにいた街の人々は、魔法を使ったケイスケに対し怪訝な表情で視線を向ける、明らかに様子が少しおかしい。
先ほどの顛末を見ていた数人が、こちらを見てひそひそと話をしている。
「魔女だ......」
そう口にした人の視線は暗く、何故か憎しみを帯びていた。
「魔女......」
聞きなれない言葉にケイスケは人々の声に耳を立てる。
「なんでこんなところに魔女が......」
「戦争が始まるのか?」
「火の惨劇はもう嫌よ」
「教会は何をやってるんだ」
「早くライネス様を呼んで!」
口々に【魔女】の言葉、明らかにケイスケを見た上でのその言葉。【魔女】が意味するそれは、ケイスケの認識とは違うものであった。
ケイスケがこそこそしている住人に声をかけようとすると、その住人たちは逃げるように立ち去っていく。
「えええ……なんなんだ?」
差別的な態度に首をかしげ、さすがにいい気分では無いケイスケは、その場所を離れようとする。
「一応、感知魔法張っとくか……」
周りの異様な様子を察したケイスケは、用心のために簡易的な感知魔法を発動する。
感知魔法は、周囲数㎞範囲内に発生する敵意、殺意、魔力などといった、通常では発生しない自分に向けられる気配を感知する事のできる、防衛魔法の一つだが。
「は?」
発動した瞬間だった、ものすごいスピード近づいてくる存在を、感知魔法が察知する。
「なんだ……?」
以前の世界でも中々感じた事のない覇気と殺気、先ほどの雑魚とは比べ物にならない強者の気配。
「やばそうな感じするけど……」
最大限の警戒をするケイスケの背後から声がする。
「あの!」
「うぁッ!!!!!」
感知魔法で全く感知できなかったその存在に、ケイスケは驚き思わずみっともない声を上げ戦闘態勢を取る。
「!?」
「なに?」
そこにいたのは先ほど助けた、背の低い少女、驚いたケイスケに驚き少し涙目でフルフルと震える少女は、ケイスケに何かを告げようとしていた。
「あの……」
「ごめん、ちょっと待って」
少女の言葉を遮るように、ケイスケは凄まじい速度で近づいてくる殺気に警戒した。
「あ、その……」
「離れたほうがいいよ、多分……やばいのが来るから」
少女は何故?と言った表情でケイスケを見るが。
「いいから早く離れて!!」
殺意の大きさに声が大きくなり、少女は慌ててその場を離れる。
その直後、殺気の持ち主が疾風の如く街路から現れた。
白銀の鎧を身をまとい、その手には体格には不釣り合いな大きな剣。
「剣士?」
剣士と目線が合い、ケイスケが瞬きをしたその瞬間だった。
「な?」
ある程度の距離にいたはずの剣士は、瞬きの刹那、ケイスケの目の前まで距離を詰めていた。ケイスケは剣士の速度に驚愕する、その速度は人間の限界を遥かに超えるもので、大きな剣の切っ先はケイスケの咽喉元に突き立てられていた。
「速すぎでしょ!!!」
「消えろ!!魔女!!!!」
剣士の本気の視線は、ケイスケの驚愕している目と重なり、瞬間火花を散らした。
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