第4話 騎士と誤解とライネスと
金色の髪が風になびき、剣士の瞬きすら追えない一撃が放たれた。
「ちょっと、まっ!」
剣士の一撃がケイスケの首を貫いたと思われたその瞬間、その感触が偽りであることが明らかになった。
剣士は冷静にその事実を受け入れ、再び構えを取った。
「ごめん、流石にまた死ぬのは勘弁」
剣士の背後には、首を貫かれたはずのケイスケが、まるで何事もなかったかのように立っていた。
「幻影魔法か……」
剣士の攻撃を幻影でかわしたものの、突然の攻撃に戸惑いがちのケイスケ。明らかな殺意を感じながらも、状況を理解できず、疑問が頭を駆け巡った。
ホワイ、何故、どして??なんで襲われた?
突然の攻撃に戸惑うも、剣士の強さを身をもって感じたケイスケ、魔法無しで普通に戦えば確実に勝ち目はない、しかし襲われた理由も知らず、黙って殺されるほどケイスケはお人好しではない。
「やはり魔女か」
剣士がゆっくりと振り返りケイスケと対峙する。
「女?」
ようやく襲撃者の顔を確認できたケイスケが驚愕する。
常識を超える力を持つ剣士は、金の髪をなびかせる美しい女性であった。
女剣士が金の髪を揺らし、大きな剣を手にケイスケを睨んでいた。
自分を殺そうと本気で剣を突きつけた襲撃者であるにも関わらず、ケイスケはそのあまりにも神々しい佇まいに目を奪われる。
しかし、今は見惚れている場合ではないと、ケイスケは女剣士に質問をする。
「どうして俺を襲う?」
「どうして?魔女を殺すのに理由など必要ない!!」
会話をする事はできる、しかし態度で分かる、これは相当訳アリである。
冷静に話す事は難しいのは理解できたが、彼女の言っている事には少しも納得できない。だいたい魔女ってなんだ?魔法を使ってから、ケイスケは街の人間にも魔女呼ばわりされていた。魔女とはなにか特別な記号のような物なのか……少し考えていると女剣士はケイスケへの明確な殺意を少しも隠すことなくぶつけてくる。
「聖帝騎士の本拠地に、眷族も連れず堂々と姿を晒すとは、舐められたものだ!」
「いや、舐めるもなにも、俺、君の事全然知らないし、だいたい聖帝騎士ってなんだよ!?」
「黙れ魔女!」
被せるように罵倒される。対話にならない一方的な振る舞いに流石のケイスケも怪訝な表情を浮かべる。
「魔女は私が殺す」
まただ、また「魔女」という言葉、ケイスケを指してそう言っているのだろうが、何をもってそう決めつけられているのか、分からないままケイスケは一方的に罵られる。
その感覚はケイスケの望むところではない。
「なんで俺が魔女なんだ?俺は魔女じゃない!」
「貴様は魔法を使った、それがなによりの証拠!!!」
「その魔女って表現、それは一般常識?特別な名称?」
「聖帝騎士団第一位ライネス・フォン・アグリアネス、正義の名の元に貴様を断罪する!!」
ライネスと名乗った女騎士は、質問に答えず剣を構える。
「なんなんだよ!まったく!」
言葉は交わらず剣士の容赦のない攻撃が始まる。
一振り一振りが確実に命を奪う力が込められている、剣の放つ圧は周りの風景を破壊していく、二人の戦いを見ていたギャラリーたちが慌てふためいて逃げていく。まともに食らえば致命傷になる攻撃をライネスは涼しい顔で何度も繰り返す。ギリギリで攻撃を躱すと、会話の通じないライネスに対し、やれやれといった感じでケイスケは魔法を発動する。
「
ライネスの怒涛の攻勢を受けながら呪文を唱え終ると、ライネスとケイスケの間に地面から巨大な石の壁がせり上がる。
「無駄だ!!」
しかしライネスは大地の防壁をまるで豆腐でも切るようにあっさりと細切れにした。
「うっそ!!」
その剣閃はまさに光速、明らかにこの女騎士の実力は常識を超越している。
「たんまたんま!君、ちょっと強すぎない?」
「聖帝の加護を受けた私に魔法は効かない、諦めろ魔女!」
ライネスの大きな剣は止まることなく、ケイスケを追い詰める。
「魔法が効かないとか、ちょっと興味出たかも」
ライネスの言葉に好奇心の沸いたケイスケは、それが真実なのか確かめるように、二つ目の魔法を発動する
「
しかし。その光の散弾はライネスに着弾する前に霧散する。
「魔法障壁か?」
「聖剣よ魔を払え!」
ライネスの剣が光輝く。
「退魔斬聖!!!!」
必殺の剣がケイスケを切り殺そうと下段の構えから振り上げられる、大剣に光の加護が宿り刀身を包むとその光は大きく広がり、振り上げたその先を大きく抉り取る、建物や地面が破壊され周辺にいた人たちが叫び逃げ惑う。
「魔法剣?いや、魔動機か?」
大剣から放たれた光の加護の力を目にしたケイスケはライネスの持つ武器が魔動機だと気が付く、ライネス本人から放たれた魔法ではない、しかしこのレベルの魔動機はケイスケの世界には存在していなかった。
「ますます興味が沸くね!」
なりふり構わないライネスの攻撃は、止むことなく続く。
ライネスが攻撃を繰り出す度、街のあちこちが破壊されていく。
「おいおい!やりすぎだろ!!」
「黙れ!!」
ライネスが破壊した個所をケイスケが魔法で修復する。
「
破壊された建物があっという間に元の形に修復される。修復魔法を併用しつつ、騎士の攻撃も捌く、ケイスケの脳内はフル回転していた。
「妙な事を、そんな片手間で私を止められると思っているのか?」
ライネスが体を捻りケイスケを蹴りつける。
「!?」
腕でガードするも想像を絶するその威力でケイスケは吹き飛ばされ、建物の壁に激しく叩きつけられる。
「いってぇ」
ガラガラと崩れる建物の破片がケイスケに降り注ぐ。
アワアワとその家の住人が驚いた表情でケイスケを見ている。
「
降り注いだ瓦礫が瞬く間に元に戻っていく。
「ごめんなさい、すぐに終わらせますんで」
キレイに元に戻った家のドアからケイスケは外に出る。
ライネスは剣を構えて待っていた。
「どんな事情かは知らないけど、他人に迷惑をかけるのは無しだ」
「魔女の討伐は何よりも優先される」
「魔女魔女って、バカの一つ覚えかよ、いい加減腹立つな」
「
言っている事が少しも分からない、分かる事と言えば「魔女は絶対殺す」その意志だけはハッキリと理解できた。
しかし、このままでは埒が明かない、この状況を少しでも理解して自分の置かれている立場を知らなくてはいけない。
そのためには……
「対話が必要、誤解を解く、融和と平和、争いは何も生まない」
ブツブツと、自分に言い聞かす。
それは自分が企業の代表だった時の戒律のようなもの、争う前にしっかりと話し合う!誤解を持ったままではいい仕事にはならない!手を取り合ってこそ、最大の利益を出す事ができる!!簡単で難しい基本的な事。
「うん、まずはそこから、お互いの意見をすり合わせないと仕事は始まらない、アンガーマネジメント!!」
呟いているケイスケに対し、間髪入れずライネスが切りかかる、いくつもの剣筋が光となって重なって見える、さっきまでの攻撃より更に速く鋭い、しかしその光の切り込みを、すべてギリギリで躱しケイスケが話しかける。
「申し訳ないけど、話をしたいんだ」
「話すことなどない!!」
ライネスの剣速が上がる、一振りする度、衝撃が回りの街並みを破壊していく、しかしそのすべてをケイスケは見切り躱し、直し続ける。
「君は誤解をしてる、それをちゃんと説明したい!だから!」
「なにも誤解はない、私は魔女を殺す!それだけだ!!」
聞く耳を持たない女騎士にため息一つ、ケイスケは仕方なく『抵抗』を試みる。
「
詠唱するとケイスケの両腕に魔法がかかる、炎を纏った両手がライネスの聖剣を弾く、大きく弾いたスキに一撃、拳を叩き込むがかろうじて剣で受け止めるライネス、その勢いはまったく衰えない。
戦いながらその強さに関心するケイスケは、どこかワクワクしていた。彼女の強さに、磨き上げられた剣術に、胸が高鳴る。
「今まで出会った人の中で君が一番強い、嘘じゃない。」
「黙れ!消えろ魔女!!!」
「だけど、まだ消える訳にはいかない!」
ケイスケは
「
「!?」
ケイスケを両断するかに思えたライネスの動きがピタリと止まる。
先に発動した
「なんだ?これは!?」
ライネスの身体を魔法陣が拘束する、ケイスケが使った魔法は時間魔法、対象の時を固定する魔法だ。
「魔法だよ、口だけは動くようにしておいたから」
「魔法?そんなはず、私の鎧は超界の魔法だって無効にできる、それなのに」
「魔法の界位は存在するんだ」
「聖帝様より授かりし鎧に魔法が効くはずがない!!!」
「そうか、そりゃすごい、でも……俺の今使った時間魔法が超界以上の魔法だったら?」
魔法には界位という物が存在する。
下界(下級魔法)から始まり上界(上級魔法)までを基本界位と呼び、それ以上を超界(超級魔法)とする。
通常であれば超界の魔法で頭打ちとなり、それ以上の魔法の行使は難しいとされている、それが魔法界位の一般常識だ。
しかしケイスケはその上【絶界(絶級魔法)】更に上【極界(極限魔法)】を使用することができる。
そのレベルの魔法使いなど、ケイスケのいた世界でも指折りの者だけである。
しかし、タンザナイトと呼ばれたケイスケは【極界】をさらに超えた【神界(神越魔法)】の領域まで到達している、超界までの無効など問題にならないのである。
「そんな魔法この世界には存在しない!!でたらめを言うな!!」
ケイスケはその言葉で確信する、似てはいるが、やはりこの世界は自分の住んでいた世界ではないのだと。
「だったらなぜ超界の魔法を無効にできる筈なのに、君は魔法の力で拘束されているのか?説明してくれるか?」
「貴様!!」
「申し訳ないけど、少し話をさせてくれ」
「魔女と話す舌は持たない!」
「えぇ……けっこう喋ってたじゃん?」
「黙れ!!」
「……はっきりさせときたいんだけど、俺は魔女じゃない!あ、いや、魔女ではないです」
怒っている相手を無駄に刺激してはいけないと、ケイスケは言葉を選ぶ。
「魔法を使う女が魔女じゃなくて何だというのだ!」
『魔法を使う女が魔女じゃなくて何だといのだ』ライネスの言葉に引っかかる……この世界では魔法を使う女=魔女と認定されるらしい。
それでようやく納得がいく、街の人達の反応、魔法を使う姿を見て、ケイスケの事を魔女だと認識したのだ。
「だとしても、俺は魔女ではないから……うーん」
「だったら貴様は何者だ!?」
何者か?ケイスケはその問いかけの返答に少しだけ悩み、ふと自分の姿がルルルンである事に気が付くと。
「ま、魔法……少女……かな」
とても恥ずかしい事を、ものすごく小さな声で言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます