第51話 サクライ・サクラ
「本当に、頭の中がお花畑なのね、馬鹿なの?」
顔を真っ赤にしながら胸の中で彼女は、ほんの少しの悪態をつく。
半裸の魔女を抱きしめている状況に気が付きルルルンは慌てて魔女を抱いた手を離す。
「あああああ、ごめん!!気持ちが昂って」
「強引な奴」
魔女は俯いたまま、会話を続ける。
「さっきの話、本気?」
「本気」
「めっちゃ綺麗事なんだけど」
「綺麗事ってやつが好きなんだ」
「悪趣味」
「分かってる、でも信じてほしい、俺は本気だ」
ルルルンの本気の言葉に、欲の魔女は自分の頭をルルルンの胸に軽く沈める。両手はどうするかを決めかねていた。
「どうした?」
「どうもしない」
「全部を信じろなんて言わない、少しでいい、ほんの少し信じてほしい」
「……」
行き場を失っていた両手を、ルルルンの背中に回し、魔女は優しい力で抱きしめる。
「信じない」
「そうか……」
魔女の言葉にルルルンは少し落ち込むも、彼女の言葉は続いていた。
「でも」
顔を上げ魔女はルルルンの瞳を真っすぐに見つめる。
「信じないけど、見届けたい」
態度とは裏腹のその一言にルルルンがハッとする。お互いの瞳にお互いが映る、驚きと覚悟、その両方が入り混じった表情は瞬きをシャッターとしてお互いの脳裏に記録された。
「貴方の綺麗事が失敗する所を、最前列で見届けてあげる」
「……それじゃあ」
「名前、教えなさい」
ルルルンの口を人差し指で塞いで北の魔女は名前を催促する。
「名前、そうか、そういえば言ってない」
「未来の結婚相手の名前も知らないのは、困るでしょ?」
北の魔女は満面の笑みで、冗談ぽくルルルンに語りかける。
「いや、結婚はしないぞ」
「いいから、名前」
「えーっと……ルルルン」
「ちがう!」
「えぇ?」
「魔法少女のほうじゃなくて、本当の名前」
「え?なんで分かるの?」
「勘」
おそろしい勘だと、観念したルルルンは本当の名前を明かす。
「ヨコイ・ケイスケ、それは本当の名前だ」
「ケイスケ……ケイスケか、ヨコイケイスケ、うん、ヨコイケイスケ」
魔女は確かめるようにその名を何度も口にする。
「次はおま」
「サクライ・サクラ」
ルルルンが逆に名前を聞こうとしたタイミングに被せて、魔女が名乗る。
「それが私の本当の名前」
「サクライ・サクラ?」
イメージと違う優しい名前。
優しい名前……
優しい名前と感じる事にルルルンは違和感を覚える。その響きは、ヨコイケイスケの世界で聞き覚えのある響きであった。
「似てるでしょ、名前」
「そう、だけど……」
「この名前に意味があるのかは分からない、現に私はこの世界の人間だし、ケイスケの世界の事も知らない、でも、気が付いた時に与えられていた名前はこれだった」
「両親が付けてくれたんじゃないのか?」
「多分違う、両親は本当の両親じゃないから」
「え?」
「私は捨て子で名前は一緒に添えられてたって」
「だったら……サクラは」
2人が目を合わせたその時だった。
「!!!」
サクラとルルルンは同時に異変に気が付き、外を見る。周囲の結界が破れ、霧散していく。
「結界か?」
「結界が解除された……」
サクラが領域に貼っていた高位の結界が解除されたのだ。結界の界位はこの世界では最高位以上の結界、ルルルンだからこそ簡単に侵入できたが、通常では入る事は難しい、解除するにはさらに高位の結界で相殺する等の方法を必要とする。
「あの結界を解除できるって相当だぞ?」
「解除した感じはなかったけど」
「心当たりは?」
「聖帝騎士団でしょ?」
まさか、早すぎる、ルルルンは聖帝騎士団の予想外の動きに動揺する。
「聞いた話より早く来たわね」
「それにしたって早すぎる、まだ出撃はしていないはずだ!」
「わざと間違った情報を流してたとかじゃないかしら?」
なるほど、ミーリスのように口の軽い者に情報を下ろしていたのは、そういうことか。ルルルンはまんまとその情報に、乗せられたということだ、行動を起こすタイミングが少しでも遅かったら、サクラと聖帝騎士団はすでに争いを始めていただろう。
結界オーライ、ルルルンの働きで、その争いは回避された……
【いや違う】
どこか引っかかる、ライネスがミーリスに嘘を教える何てことはない、ライネスはそういう事を嫌がるはずだ……ルルルンが感じる違和感はそんな単純なものではない、この状況なにかがおかしい。
「どうすればいい?」
サクラがルルルンにどうするべきか問う。
「戦わずに俺と逃げるってのが正解だと思うけど」
「できるの?」
「転移を使えばニアミスせずにここから離れる事ができる」
転移で逃げればそれでいい、それで解決する問題だ、そう考えルルルンは転移魔法を発動しようとする。
その時であった。
「なに?」
サクラが感じ取る、それはルルルンも同じであった。
「何この変な感じ」
「!?」
「なにか向かってきてる?」
ルルルンとサクラが同時に気が付く。こちらに向かう気配、それは馬や車といった地上を走る移動手段を使った接近ではない、空中を飛行して真っ直ぐこちらに向かっている。
その速度はルルルンの飛行魔法に匹敵する、それがどれだけ異常な事か、それはルルルン本人が一番理解していた。
「!!??」
気配に気がついて、ほんの数秒、それはルルルンとサクラの前に現れた。
ドォォォォォォォォォォォォォン!!!!!!!!!!!
空中で停止した衝撃でルルルン達のいた建物が破壊される。
巻き上がるホコリで正体不明の襲撃者の顔はまだ見えない。
「何なんだ!?」
サクラがコホコホと咳をしながら、ホコリを魔法で吹き飛ばすと、襲撃者がその巨大な姿を表す。
巨大な姿に、巨大な剣。
「あんた誰よ!」
「俺か?よくぞ聞いてくれたぁ!!」
光り輝く鎧。
「刮目せよ!!!」
それが誰か、何者なのか、ルルルンはすぐに理解する。
「嘘だろ?」
見間違うはずがない。
「世界に悪が栄えし時、救世の光が俺を呼ぶ!天と地と人を救うは光の太刀筋!極悪必殺!超絶無敵!最強天剣!俺様が!俺様こそが!!!魔導機動騎士!!!」
誰よりも、知り尽くした【世界を救う騎士】がそこにた。
「エクスキャリバーン!!!!!!!!!!!」
それは間違いなく、ヨコイケイスケの会社のマスコットロボ。
【魔導機動騎士エクスキャリバーン】だった。
「止められるもんなら!止めてみなぁ!!」
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