第26話 恐怖と賛辞と

「本当にすごい奴だ……」

 

 見た事の無い魔法の数々に、ライネスは最大の賛辞を口にする。

 

 圧倒的な力を前にして、ライネスの中で感じた事のない恐怖が湧き上がる。最初に対峙した時とは違う、力の底が見えない、明らかな格上との対峙。

 しかし恐怖以上に、興味、好奇心といった感情が勝る、もっと見てみたい、自分の常識を覆してほしい、自分自身が更なる高みに昇るために。

 常識に囚われない無限の発想、力の応用と実践、ライネスは戦いながら、ルルルンからそういった技術を学ぼうとしていた。


「だったら、こうすれば!!」


 剣を構えると、ライネスの周りに雷の力が集まる。


「はぁっ!!!」


 闘気を放つように、電撃を周囲に放ち、一気に霧を払う。凄まじい闘気の放出に、霧に身を潜めていたルルルンの姿が露わになる。


「闘気に電撃を混ぜた!?」


 魔法の応用を教えてもいないのに、闘気に魔法を混ぜてライネスはそれを放出したのだ。感性でそれを実行した天才にルルルンは心底驚嘆する。


「まじで自信なくすなぁ……」


 ライネスのセンスの良さに関心しきりのルルルンは、真っ向勝負、ラザリオンで強化されたライネスとの近接戦を挑む。


「はぁぁぁぁ!!!!」

「ラファオン!」


 風魔法を刃とし手刀でライネスの剣と打ち合う、一撃打ち合うごとに、大気が震え、大地が揺れる、究極同士の本気訓練は常識を超える凄まじいものであった。

 ライネスが一撃を打ち込む度、ルルルンのラファオンで形成した風の刃が刃こぼれし崩れ落ちる。


「威力も十分、さすがライネス!!」


 ライネスの力を認めつつもニヤニヤするのを止められないルルルンに、ライネスが腹を立てる。


「あー!!くそう!!!!」 


 悔しい気持ちが剣速を加速させるがルルルンには届かず、的確に裁かれていく。


「自動防御ズルいぞ!!!」


 ルルルンの自動防御にライネスがクレームを入れる。


「これが無かったら、即、細切れだって!!」

「だったら自動防御より早く、速く切り込む!!!!」


 そう言うとライネスは剣を下段に構え、握る手に力を込める。


「退魔斬聖!!」


 思い出す、ライネスの剣は魔法の力を帯びた魔動器だという事を。


「やば!!」


 その剣閃は以前見た物とは比べ物にならない、地をえぐり、太刀筋が空間を切り裂く、稲妻の一閃がルルルンの自動防御を切り裂いた。


「うおおあ!!!」


 その剣閃はルルルンの肩を掠めた。魔導器でもあるライネスの剣を媒体に、ラザリオンの魔法効果が上乗せされたライネスの必殺剣。想像の100倍にも感じるその威力に、さすがのルルルンも冷や汗を流す。


「どうだ!ケイスケ!!!」


 あの魔法少女に一太刀あびせた事実が、ライネスを興奮させる。


「流石、やっぱライネスはすごい奴だ……」


 ヨコイケイスケは最強だった。

 最強の称号と魔法使いとしてありとあらゆる力を手に入れた、横に並ぶ者はだれ一人いない、自分を目指す者がいないのが、当たり前の世界。そんな世界でヨコイケイスケが感じていた孤独を、今、目の前に立つ金色に輝く美しい剣士が断ち切ったのだ。

 孤独ではない、自分に並び立とうと研鑽し、その可能性のある才気あふれる者が、目の前にいる。


 こんなに胸が躍る事があるか??


 ルルルンもライネスと同じように、感じたことのない熱い気持ちを感じていた。


「さぁ!もっとこい!ライネス!!!そんなもんじゃないだろ!!!」


 楽しむように、ルルルンはライネスを挑発する。


「まだまだぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」


 ライネス闘志に火が付き、その太刀筋は更に鋭く、強く、ルルルンを更に笑顔にさせた。


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